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それからドラゴンの姿のハイシェーラさんは、俺に感謝の言葉を伝えてきた。
俺はその言葉を受け入れ、これから少しずつ体を動かして下さいねと伝えてから、人型の幻影のハイシェーラさんに連れられてエルヴァン達の元へと帰ってこれた。
エルヴァン達のいる部屋に戻ってくると、
「ヴァルダ様、どうだったでしょうか?」
エルヴァンが少し心配そうな声でそう聞いてきた。
俺はそれを聞き、
「面白い構造建築だな。中々見る事は出来ないだろう」
エルヴァンの質問に答えたのだが…。
「家なんか見ても、面白いもんじゃないだろ~」
ファルシュが長方形の石に座りながら、つまらなそうな声でそう言ってくる。
「…ファルシュ」
ファルシュの言葉にエルヴァンが制止の声を発するが、
「大丈夫だエルヴァン」
俺が先にエルヴァンの言葉を遮ってそう言う。
ファルシュはまだ幼いし、どちらかと言うとエルヴァンみたいな感じだ。
これからはどうかは分からないが、今は建物に興味なんか示さないだろう。
それにエルヴァンだって、おそらくあまり俺の言っている事は理解出来ないはずだ。
もしエルヴァンが建物に興味を示したとしても、それは戦いの中でどう動くか考える為に興味がある程度だろう。
俺がそう思っていると、
「…残しておいたぞ」
ファルシュが俺にそう言って、磨かれた平らな石を俺に差し出してきた。
見ると、そこには結構火を入れた肉が乗っかっている。
どうやら、ハイシェーラさんに案内してもらっていた時に見た食事を竜人族の方達に運んでもらった様だ。
ファルシュは食べる事が好きな様だが、エルヴァンに言われたのかは分からないが俺の分を残しておいてくれた様だ。
見ると、少し視線が持っている平らな石の上の肉に注がれている。
俺はそれを見て、
「ありがとうファルシュ」
ファルシュの手から平たい石の皿を受け取る……んん?
俺がファルシュから石の皿を受け取ろうと自分の方に引き寄せようとして、思ったよりファルシュが力を入れていて皿を受け取る事が出来そうに無かった。
「ファルシュ」
おそらくエルヴァンは俺とファルシュの様子に気がつき、ファルシュに注意をする様に声を掛ける。
それと同時に、ファルシュが石の皿から力を抜いて石の皿が俺の手に移る。
それと同時に、俺はアイテム袋から新鮮な果物を取り出すと、
「甘いモノをお礼にあげよう」
ファルシュにそう言って果物を差し出す。
それを見て、俺の言葉を聞いたファルシュが顔をパァッと輝かせて果物を受け取ると、それに思いっきり齧り付いた。
そんな様子に、俺は少し笑った後にファルシュから貰った肉を口に入れる。
…か、硬いな。
それに少し苦い…。
ドラゴンからしたらこの方が好きなのかもしれないが、俺には少し苦手な味だと思いつつ、ファルシュと竜人族の方達の気持ちを捨てる訳にはいかないと思い、時間を掛けつつ全てを食べ切った。
それからは大きい長方形の石に、出来る限り布を敷いてファルシュを寝かせ、俺とエルヴァンは座って眠る事にした。
流石のエルヴァンも、ファルシュをゆっくりと寝かせる事には反対する事無く了承してくれた。
霊峰を歩いていた時のファルシュの様子で、今はファルシュを優先するべきだろうと判断したんだろう。
俺はそう思いつつ、静かに瞳を閉じる。
…明日の戦い、危険はないだろうけど気は引き締めないとな。
俺は自分にそう言い聞かせると、そのうち睡魔が襲ってくるのに意識を委ねた。
そして翌朝、俺は僅かに感じた体の凝りによる痛みで目を覚ますと、長方形の石の上で大きな寝姿を晒しているファルシュを見て、その豪快な寝相に体調は安定してきている様だと安心して、起こさない様に物音を出さずに体を伸ばし始める。
あまり塔に戻っていないからか、最近はゆっくりとふかふかのベッドに寝ていないな。
俺は塔の自室にあるベッドを恋しく感じながら、この依頼が終わったら時間は少ないかもしれないがゆっくりとした時間を作ろうと思いながら、エルヴァンとファルシュが目を覚ますのを待ち始める。
それと同時に、俺は今日の戦いの準備をし始める。
少ししてエルヴァンが目を覚ますと、
「おはようございます、ヴァルダ様」
エルヴァンが挨拶をしてくる。
俺がそれにおはようと返すと、俺とエルヴァンの声で目を覚ましたのかファルシュがゆっくりと体を起こす。
まだ眠いのか目はトロンとしており、欠伸をしながら体を伸ばし始める。
こうやって寝起きの様子だけを見ると、年相応の女の子って感じがするな。
俺はファルシュの事を見ながらそんな感想を抱きつつ、
「ファルシュ、今日の昼前から俺とエルヴァンは竜人族との戦いでお前の側にいてあげられなくなる。彼らが卑怯な事をする人達では無いと思ってはいるが、警戒しておくに越した事は無い。武器か何かは必要か?」
俺はファルシュにそう質問をする。
俺の言葉を聞いたファルシュは目を擦りながら、
「そんなモンいらねえ。オレはこの体だけで戦える」
そう言ってくる。
「了解。じゃあ最低限の装備を渡しておく、ファルシュが動くのに困らない様にあまり重たくない物が良いな」
俺はそう言うと、ファルシュの為に数種類の装備をアイテム袋から取り出してファルシュに好きな物を選ばせる事にした。
ファルシュは俺が出した装備を触り、選んだ物を着けて貰ってあとは片づけて昼前までに準備を終わらせる。
エルヴァンの装備は今のままで十分だし、装備も最悪の場合は俺が出しても良いと思っている。
俺はクラスは騎士で、あまり重装備にならない程度の装備に直した後迎えの人が来るのを待つ。
そして、
「待たせたな、付いて来い」
男性の竜人族が突然扉を開けてそう言うと、俺達のいた部屋をさっさと出て行ってしまう。
あまりにも唐突にやって来た前を歩く男性を見ると、彼も戦いに参加するのか片手で握れる程度の剣を片手に鞘ごと握っている。
防具らしき物はあまり着けておらず、急所を守る胸周りだけを守る防具ぐらいしか着けていない。
そうしてそんな彼の案内で連れてこられた場所は、昨日俺が見た広場よりも一回りは大きい空間だった。
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