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人型の幻影のハイシェーラさんの言葉を聞き、俺は横たわっているドラゴンの姿のハイシェーラさんの事を見ると、
「これが、ハイシェーラさんの事を教えてくれるってやつですか」
俺はそう言う。
俺のそんな言葉にハイシェーラさんは、
「あぁ。族長である私は、この先長くはないだろう。既にここまでの損傷を受け、すでに寝た状態で数十年」
そう答える。
俺はその言葉を聞き、少し嫌な予感がする。
俺が何かを言う前にハイシェーラさんは、
「明日の戦い、お前が勝つ事は確実だろう。長い事生きていれば、その者の力くらいある程度量れる。明日勝つのは、お前と鎧の男だ。…頼む、彼らを任せたい」
そんなお願いをしてきた。
俺はその言葉を聞き、
「…少し体を見ても良いですか?」
ハイシェーラさんの言葉に俺がそう聞くと、今まで何とも無かったハイシェーラさんがいきなり顔を引きつらせる。
あ、何か誤解をさせてしまった様な気がする…。
俺がそう思った瞬間、
「…申し訳ないが、こんな老体の体なんて見ても楽しいモノでは無いぞ」
ハイシェーラさんが自身の服装の肌が出ている部分を隠そうとしてくる…。
「ち、違うんです!ドラゴンの体の方なんです!」
俺が手をドラゴンであるハイシェーラさんに向けると、ハイシェーラさんは顔を引き攣らせたまま、
「私は心を読み解く事が出来る。始めから理解している、だからこそ老体なぞ見ても良いモノでは無いと言っているのだ」
そう言ってくる。
俺はそんな彼女の言葉に、
「ハイシェーラさんの傷がどれ程のモノかは分かりません。ですが、ハイシェーラさんが弱っている理由は寿命では無く、怪我とかそういうモノでは無いのかと思って」
俺はドラゴンの方のハイシェーラさんに視線を送りながらそう言う。
それを聞いたハイシェーラさんは、
「そんなモノは理解している。しかしこれは呪いと言っても良い、癒えない傷だ」
そう教えてくれる。
ドラゴンの生命力を持ってしても回復出来ない傷だ、何かしらの理由があるのかと思っていたがそういう事か。
「私も年老いた、あんな若造にやられるなど…」
ハイシェーラさんは悔しそうな声を出す。
若造、まさか閃光か?
「ハイシェーラさんを傷つけたのは、どんな人なんですか?」
俺がそう聞くと、ハイシェーラさんは嫌な表情をすると、
「嫌な事を思い出させる。………モンスターだろうが人だろうが関係なく殺す様な男だ。名は知らないが、一振りの剣を握っていた」
そう答えてくれる。
情報が少ないな…。
「外見の特徴などは?」
俺がそう聞くと、
「胸部の鎧、関節部分は何も着けてはいなかった」
ハイシェーラさんはそう答える。
それだけで、俺は相手が閃光では無いのではないかと考える。
俺が知っている閃光は、顔以外はガッチリと装備を着けていた。
顔だけには、装備を絶対に着けたくなかったらしいと後日ネットで知った。
この世界に来て、心境の変化があったら別だろうけど…。
とりあえず今は、ハイシェーラさんの様子を見るのが先だ。
俺はそう思うと、
「失礼します」
先に謝罪をしてからドラゴンのハイシェーラさんの元へ行くと、彼女の傷ついた体の様子を見る。
剣による切り傷を、治癒力で無理矢理回復しようとした結果変な形で治りかけている状態だ。
綺麗に生え揃っていた鱗が、歪な形で塞がりかけている状態を見てそう察し、
「もしかしてこれ、攻撃持続の付与魔法が付いた剣で攻撃されたのか?」
特殊な付与属性が付いた武器で攻撃されたのではないかと仮定する。
攻撃持続の付与は、こちらの世界の住人では知らないが「UFO」では良い装備を作れる者なら簡単に作れる。
しかしここまで持続していると考えると、こっちの世界の住人だったら凄い腕の持ち主か、「UFO」から来た人なら課金が前提でないとここまでのモノは作れない。
俺よりも装備の作成に力を入れている靜佳ですら、この装備は作るのが厳しいだろう。
おそらく、とてつもない数の素材が消費されると思う。
課金しなければ作れない装備、ドラゴンを傷つける存在。
やはり閃光なのだろうか?
俺はそう思うが、まず先にやらないといけないのはハイシェーラさんの治療だと考え、頭の中を切り替える。
「ドラゴンの高いステータスで治癒能力が高いのが、良い意味ではここまで生き続ける事が出来たのだろうな。悪い意味では、ここまで辛い状態でダメージを受け続ける事に…」
俺はそう呟きながら、まずは攻撃持続状態を解除しなければいけないと思いアイテム袋から必要なアイテムを取り出す。
まずは攻撃持続状態は、状態異常である。
しかし普通の状態異常では無く、解除に必要なアイテムも少し違う。
毒とかなら、状態異常を回復する回復薬で十分なのだが、攻撃持続状態は魔法であり毒などと同じ状態異常も同時に発動している二重状態なのだ。
俺は魔法を解除できる、前回の裏オークションで使った魔法を解除する紙を使用する。
アイテムがしっかりと消費されたのを確認すると、俺は更に状態異常を治す回復薬を傷口に垂らしていく。
こういう時、ステータスが見える状態ならすぐに効果が分かるんだけどな。
俺はそう思いながら、傷口に視線を集中させる。
………。
特に変化は無い、おそらくこれで状態異常は回復しているだろう…。
俺はそう思うと、今度は普通の回復薬を患部に垂らした後、
「ハイシェーラさん、どうでしょうか?一応ここだけ今治したつもりなんですけど、もし駄目だったなら言ってください」
ハイシェーラさんにそう聞く。
すると、
「…その場所の痛みは無くなった」
俺の質問にハイシェーラさんがそう答えてくれる。
彼女の言葉を聞いた俺は、まだ傷があるのを理解してハイシェーラさんの体を見て回る。
それからは、ハイシェーラさんの体を隅々まで見て回って傷を見つければ治していった。
徐々にハイシェーラさんの体が治っていき、斬られて出来た裂傷や砕けた甲殻が徐々に治っていき、それと並行する様にハイシェーラさんの表情にも変化が訪れる。
そして遂に、ハイシェーラさんの体に付けられていた傷は見えなくなった。
しかし、
「…久しく動いていなかった所為か、体が思う様に動かぬ…」
ハイシェーラさんは、低い声でそう言った。
その言葉に、俺は仕方がないですよと言いながら苦笑いをした。
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