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争いとまではいなかないが、結構小競り合いでモンスターの肉を食べている竜人族達を見て俺は、


「ハイシェーラさんは良いんですか?食べなくて?」


隣に立っているハイシェーラさんにそう聞く。

俺の質問を聞いたハイシェーラさんは静かに俺に顔を向けてくると、


「…ついでに私の事も教えようか」


静かな、しかしどっしりとした何かが宿っている声でそう言うと、ハイシェーラさんは階段を下りて広場に向かう。

俺も階段を下りて広場に行くと、ハイシェーラさんに気が付いた竜人族の人達が一度食事を中断する。

それをハイシェーラさんは手を挙げて止めると、竜人族達は一度頭を下げてから食事を再開する。

そんな竜人族達の側を通り抜けて、先程見えていた別の通路に繋がる階段を上り始める。

階段を上ってまた通路に入ると、先を歩くハイシェーラさんが話さなくなってしまい、俺は彼女の不快になる様な事を聞いてしまったのではないかと、不安に感じながら彼女の後を追う。

俺がそう思っていると、


「…これから行く場所は、あまり良い場所ではない。竜人族達ですら、その場には近寄って来ない」


前を歩くハイシェーラさんがこれから向かう場所の説明をしてくれる。

これから向かう場所と、ハイシェーラさんの事を教えてくれるとは何が関係しているのだろう。

俺はそう思いつつ、


「そんな所に、部外者で未だに信用も完全にされていない俺が行っても良いんですか?良い意味でも悪い意味でも、そういう所に信用出来ない者を近づけるのは…」


ハイシェーラさんに言葉を濁しながらそう聞いてみる。

それを聞いたハイシェーラさんは通路の十字路を左に曲がり、俺もそれに続いて左に曲がる。


「…族長の私が案内をしているのだ、他の者達も口出しはしない。安心すると良い、竜人族は力で物事を判断する。明日の戦いもそうだが、彼らが従うのも自分達よりも強き者。彼らよりも強い私が許可をしている、それで奴らは何も言えんよ」


曲がった先にある階段をまた上がり始めて、ハイシェーラさんは少し楽しそうにそう言う。

ある意味分かりやすくはあるな。

俺はそう思いながら彼女の後を付いて行く。

まるで迷宮だな、入り組んでいてもうどうやってエルヴァン達のいる部屋に帰れば良いのか分からない。

上へ下へ、右へ左へ、階段を上ったり下がったり直進したり曲がり角を曲がったり…。

意図的に造られているのか、それとも建物を建てている上でそうなってしまったのか…。

俺にはそれを判断する事は出来ないが、あまりにも複雑な道に俺は帰り道を覚えようとする気持ちは無くなっていた。

そうして、


「この先だ」


ハイシェーラさんはそう言って、階段を上った先にある部屋に歩み出す。

俺も彼女の斜め後ろを付いて歩き部屋に入る。

そこは遺跡の最奥で最上階だった。

壁は崩れ、天井も一部が崩れて部屋に瓦礫があるのが見える。

しかしそんな部屋の状況など気にさせない程、俺はそこにいる者を見る。

所々に苔が生えているにも関わらず、その鈍く輝いている黄金色の鱗が目立つドラゴンがそこに横たわっていた。

しかしその鱗や皮には甲殻には数えきれない程の傷痕があり、ヒビが入っている場所すらある。

弱っているのか息も凄くゆっくりとしており、呼吸をする度に体が僅かに動くのが見える。

瞳は完全には閉じておらず、僅かにだが潤っている眼が見える。

翼はボロボロで、飛膜どころか翼の骨も損傷している様に見える。

失礼だとは思うが、崩れた遺跡に横たわる苔が生えても失われない黄金色をしたドラゴンの姿に、俺は儚さとそれ故の生命の美しさを感じていた。

俺は感動しつつも、


「ハイシェーラさん、この方は?」


ハイシェーラさんにそう聞こうとして視線を彼女に向けようとすると、先程までいたハイシェーラさんがいつの間にか消えていた。


「あれ?」


俺は思わず声を出して辺りを見回すが、そこにハイシェーラさんの影は見えない。

どこへ行ったんだろう?

と言うか、今来た道を通る以外にここから出る場所は無いぞ?

俺はそう思って視線をキョロキョロと彷徨わせる。

すると、


『こっちだ』


声が聞こえたと表現するのが難しい、頭に直接言葉を出されている様な変な感覚になる。

明らかに、声は出されていない様に感じるその声に俺は聞き覚えがある。

先程まで話をしていたハイシェーラさんの声だ。

今までとは明らかに違う声の聞こえ方に困惑していると、


『落ち着くのだ、まずはこちらを向け』


黄金色をしたドラゴンがため息を吐く様に、僅かに口を開けて息を吹いてくる。

その様子に俺は、


「まさか、貴女がハイシェーラさん本人なんですか?」


そう聞くしか出来なかった。

俺の質問にハイシェーラさんだと思われるドラゴンは、


『如何にも。先程までお前の前にいたのは私が作り出した幻影。ほれ』


そう言って口から雷撃を奔らせると、軽い衝撃音と同時に先程まで見ていたハイシェーラさんが現れる。

俺はドラゴンの言葉を信じ、


「ハイシェーラさん、貴女は竜人という訳では無いんですか?」


彼女にそう質問をする。

すると、


『元々、竜人族はドラゴン一族だったのだ。ドラゴンである図体では駄目でも、人としての姿であれば行ける場所もある。ドラゴンはそれから人型になる程の時間と力を経て、ようやく人型の姿になる事が出来た。その力を子孫達に継承し、ドラゴンであり続ける者達と竜人族と分岐したのだ。しかし今の竜人族はむしろ、ドラゴンの姿になる事は出来ない。長い年月の末、竜人族達はドラゴンに戻る事を忘れてしまった』


俺の質問に、ハイシェーラさんは竜人族の事を話してくれる。

そういう経緯で竜人族が誕生したのか。


「でも、竜人族の人達は基本的には人の姿をしていますが、ドラゴンの翼を出したり、一部だけ元に戻す事が出来ていますよ。それでも、彼らはドラゴンに戻る事が出来ないんですか?」


俺がそう言うと、幻影の方のハイシェーラさんが首を振り、


「無理だ。それに彼らもそれを望んでいないし、考えてもいないだろう」


断言してくる。

ハイシェーラさんの言葉に、俺は確かにと竜人族達の姿を思い出しながらそう思った。


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