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周りの景色は徐々に視界が良好になり、どんどん周りの景色が遠くまで見える高さになってきた。
それと同時に息が少し苦しくなり、結構な高さまで上がっているのではないかと考えられる。
「2人共大丈夫か?」
俺がそう声を掛けると、
「私は大丈夫ですが…」
エルヴァンがそう言って自分の斜め前を歩いているファルシュを見る。
俺もファルシュが気になって視線を向けると、
「ぜー…は~…ぜー…は~…」
思った以上に呼吸が苦しいのか、ファルシュは息を大きく吸って吐いている。
ファルシュには厳しい環境かもしれないな。
俺はそう思って、
「ファルシュ、体調の事も考えて今はエルヴァンの肩に乗っておいた方が良い。これも気休めかもしれないが飲んでおけ」
ファルシュにそう言い、回復薬を差し出す。
ファルシュも動いて息を荒くするのが辛いのか、俺から回復薬を受け取るとエルヴァンに両手を上げて抱っこされるのを待つ仕草をする。
相当辛いのだろう、まだ一緒にいた時間は短い俺でもファルシュが負けず嫌いな所があるのは理解している。
しかし俺の指摘に虚勢を張る訳でも無く素直にエルヴァンを頼った所を見るに、余裕がないのかもしれない。
エルヴァンはファルシュを持ち上げると肩の上に座らせて、エルヴァンの肩に座ったファルシュは回復薬をちびちびと飲み始める。
…本当ならファルシュの体調も考えて下山、もしくはゆっくりと動いた方が良いのかもしれない。
だが、今は竜人達との件を完遂する事も大事だ。
ここでファルシュを置いて行くのは論外だし、待って貰うのはおそらくファルシュに邪魔だと言っている気がして、彼女に良くない。
「ファルシュ、大丈夫か?」
俺は色々と考えた末に、エルヴァンの肩に乗っているファルシュにそう聞く。
俺の言葉を聞いたファルシュは、
「動いている時よりかは…」
そう答える。
ファルシュの言葉を聞いた俺は、
「すまないが、まだ先に進む。我慢出来なくなったら言ってくれ」
ファルシュにそう言うと、俺は踵を返して歩き始める。
最悪の事態は避けなければいけない、ファルシュが辛くなったらカルラを召喚して拠点まで戻ろう。
俺はそう思いつつ歩みを進める。
やがて山頂とはいかないが、ある程度高い部分まで登って来る事が出来て俺はそこから景色を眺めようとする。
そこに広がっているのは、まだ限りなく続く山頂までの岩肌。
そしてそんな岩肌を削ってあるかの様な、古代の遺跡の様な建築物。
大きくは無い、その建築物の背後にある霊峰の山頂と見るその姿は圧巻としか言い表せない。
煙が僅かに見える事から、あそこに竜人達が住んでいるのかもしれないと思い、後から俺の隣までやって来たエルヴァンとその肩に乗っているファルシュに、
「良かった、あそこに行けば落ち着けるかもしれない。流石に弱っている子供を縛り付けたりはしないだろう」
そう言って歩き出す。
そうして遺跡らしき場所まで歩いて行くと、ふと体に変な刺激が奔る。
…何かの魔法に引っかかったか?
俺がそう思っていると、
「ヴァルダ様、あちらを」
エルヴァンが空の方を指差す。
エルヴァンの指差した方向の見ると、
「…速いな」
遺跡から3人の竜人達が飛んでくるのが見えた。
まだ遺跡には遠く、まだ歩かないといけないと思っていた距離を、飛んできた竜人達はすぐに縮めて俺達の元までやって来ると、
「何者だお前らッ!?」
竜人達の男性がそう言って剣の柄に手を伸ばす…。
突然現れる俺も悪いのだが、毎回警戒されるのも辛いモノがあるな。
俺はそう思いつつ、
「勝手に貴方達の領域に入ってしまった事をお詫びします。貴方達と敵対するつもりはありません。警戒するなとは言いませんが、出来れば武器は抜かないで欲しいです」
警戒心を剥き出しにしている竜人達にそう言う。
すると、
「…お前の後ろの鎧を着けている男、お前の剣をこちらに預けるのなら多少は考慮してやる」
竜人達がそう言ってくる。
エルヴァンの事を警戒しているのか、エルヴァンの背負っている大剣で警戒を和らげてくれるのなら良い方だと判断し、
「エルヴァン」
エルヴァンに声を掛けると、
「しかしこれは、ヴァルダ様からお預かりした大切な剣…」
エルヴァンが少し躊躇っている様子でそんな事を言ってくる。
嬉しい事を言ってくれるが、今この状況をどうにかするには仕方がない事だ。
俺はそう思い、
「大丈夫だ、エルヴァンが大切にしている事くらい理解している。それはしっかりと分かっている。しかし今はファルシュの事もある。出来れば穏便に済ませたい」
エルヴァンにそう言うと、彼は分かりましたと言って背負っている大剣を握ってゆっくりと、凄く大切そうに地面に置く。
もう一振りも同じ様に地に置くと、
「…預かる」
竜人の男性がそう言って大剣を握り持ち上げようとすると、
「ぐッ!?ふぬ゛ぬ゛~~~!!」
竜人の男性がエルヴァンの大剣を持ち上げようとして、持ち上げられずに力を込めた声を出す。
そんな様子に、俺達に警戒していた2人の竜人がどうしたのだと大剣を持ち上げようとしている竜人に声を掛ける。
声を掛けられた竜人は、
「持ち上げられないんだ!手伝ってくれ!」
他の2人にそう言うのだが、
「見張りを1人も付けない訳にはいかない!…こいつらは俺が見張る、手伝ってやれ」
1人の竜人がそう返し、少し悩んだ末に見張っていた仲間に指示を出す。
指示を出された人は、指示に従って大剣を持ち上げる作業に加わったのだが…。
「グオォォォッ!!」
「あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ッ!」
2人でも持ち上げられる事が出来ずに、2人の竜人達は腹の底から出しているかの様な低い声を出しながら大剣を持ち上げようとする。
そして、
「ハァハァ…」
「ぜー…ぜー…」
2人でも持ち上げる事が出来ずに、荒くなった息を整えながら地べたに座り込む…。
流石に申し訳なく思った俺は、
「とりあえず、俺達が持ちましょうか?貴方達の住処に着いたら、預ける形でも構いませんけど…」
そう提案をしてみる。
しかし、
「無用だ!皆を連れてこい!」
指示を出していた竜人が追加で指示を出すと、
「疲れてんだよ!元気なお前が行きやがれ!」
少しだけ呼吸がマシになった竜人がそう言い返し、その後少しの間言い合いが続いた…。
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