表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
259/501

258頁

エルヴァンとファルシュの話を少し聞きながら馬車の外を見続けて数日、結構な距離を移動したと思わせる程色々な場所を通った。

俺の水魔法よりも圧倒的な勢いと量が降り注ぐ滝の側や、精霊やユニコーンなどが絶世の美女と戯れている様な湖。

そして、


「ここは、かつて人族と魔族が戦争していた戦地ですよ。昔の戦いだというのに、未だに木も植物さえ生えて来ない。まさに死地ですな」


馬の休憩の為に寄った荒れ果てた大地で馬車を降りた俺に、馬の様子を窺いながらそう教えてくれる御者のお爺さん。

ここが、ここから亜人族の差別が始まった場所か…。


「きたねぇ砂に、腐ったモンスターの死骸。ヤダヤダ!」

「あまりそういう事を言うものでは無い。ここで何十、何百、何千の命が失われた場所だ。それを知らない私達が、愚弄して良いモノでは無い」

「あ~いッ!」


少し離れていたファルシュとエルヴァンがそう言っているのを聞いて、


「…ここでたくさんの人達(まぞく)が亡くなったんですね…」


俺はそう言って目を閉じて、黙とうをする。

勇ましく戦った者に対する敬意、同じ者に負けた悔しい気持ちの共感。

そして魔族の全ての者に対して、貴方達が希望を託した彼女の安全の保障を伝える。

少しして目を開けると、


「さて、そろそろ行きましょうか。馬達の調子も元に戻ってきております」


お爺さんがそう言って馬と馬車を繋げ始める。

俺はそんな馬達の元へと歩み寄ると、


「長旅で済まないな、よろしく頼む」


そう言ってから馬車に乗り込むと、エルヴァンとファルシュも続いて馬車に乗り込む。


「あと数日もすれば、私が住んでいる村に着きますよ」


御者のお爺さんがそう言うと、馬車を動かし始める。

あと数日か。

俺はそう思い、


「エルヴァンから聞いたが、ファルシュは結構戦う事が出来るようだな。武器は何を使うんだ?」


ファルシュにそう質問をする。

ここ数日で、普通に話をする程度には信頼してもらえたらしく、エルヴァン程とは言わないが会話をしてくれる様になった。

すると俺の質問を聞いたファルシュは、


「オレは武器なんて使わねえ!信じているのは自分の体だけだ!武器はいつ壊れるか分からねえからな!」


エルヴァンと同じ様で、戦いの事に関する話をすると言葉が強くなる傾向がある。

そういう面でもエルヴァンと意気投合したのかもしれないな。

俺はそう思いつつ、


「つまり、拳とか脚を武器にしているのか。怪我はしていない様だが…」


ファルシュの手の平を確認する様に視線を向ける。

それを聞いたファルシュは少し得意げな表情になり、


「オレは頑丈なんだ!父上や母上にもそれは褒めて貰えた!」


そう言うと、今度は少し落ち込むというか冷静な表情になり、


「…そんなオレを捨てた父上と母上を、いつかこの手で殺してやる」


静かにそう言った。

それを聞いた俺はエルヴァンに視線を向けるが、俺の言いたい事が分かったのだろう。

エルヴァンは上半身ごと少し左右に振って、詳細までは聞いていないと教えてくれる。

そうして少し気まずい空気のまま馬車は動き続け、数日後御者のお爺さんの出身である霊峰近くの村に到着した。

特別賑わっている村という訳ではなく、むしろ反対に静かすぎると思ってしまう程人の気配がしない。

正確には気配はするのだが、村の人全員が家の中におり外には子供すらいない状態だ。

何かあったのだろうかと思っていると、


「帝都の皆さまには静か過ぎる村ですが、ここは普段からこの様に静かなのですよ」


御者のお爺さんはそう言ってゆっくりと笑うと、村の奥へとゆっくりと進む。

そうして普通の民家までやって来ると、


「到着です。ここは皆さんで使ってください。私の家ではないですが空き家ですので、後で村長には話を通しておきます」


御者のお爺さんはそう言い、俺達は空き家の前で馬車を降ろされる。

古い民家であるが、損傷が激しい訳では無さそうだな。

俺がそう思って民家を眺めていると、


「私は馬車を一先ず置きに行ってきます。先に入っていてください」


御者のお爺さんはそう言って、馬車を動かしどこかへ行ってしまう。

俺達3人はとりあえず空き家に持ってきていた装備を置こうと思い、空き家の中に入る。

そこには、


「…また倉庫かな?」


エルフの森と同様に使われていない、埃が積もっている光景が見えた。

つい先日も倉庫に放り込まれたのだが、今回も倉庫みたいな場所を拠点にしないといけないとは…。

俺はそう思いつつ、エルフの集落の倉庫と違い物が置いていない状況を喜ぶ。

物があった場合、掃除が面倒になってしまうのだが…。


「今回はマシな方だな」


俺はそう呟き、とりあえず身近な窓を開けようと試みる。

少し埃を舞い上がらせながら窓を開き、


「…エルヴァンとファルシュは、村の外に行き霊峰に行く為の道を探してきてくれるか?」


振り返って2人にそう聞く。

それを聞いたエルヴァンは、


「ヴァルダ様、お手伝いを…」

「大丈夫だ、それよりもここへ来るのに時間が結構掛かっている。あまり時間を無駄にしない為に、二手に分かれるだけだ」


俺が掃除をする事を悟ってそう提案をして来ようとするが、俺はエルヴァンの言葉を遮って今出来る事を2人に指示を出す。

それを聞いたエルヴァンは、


「………分かりました。確認して参ります。行こう、ファルシュ」


ファルシュと共に道を確認する為に出掛けて行った。

今は昼過ぎくらいだよな、夜になる前には帰ってくるだろうしさっさと始めるか。

俺はそう思い、装備をラフにする為に脱いでから掃除を始めた。

そうして出来る限り掃除をしていると、


「申し訳ありません、先に始めていましたか」


玄関の扉からそんな声が聞こえてそちらを向くと、御者のお爺さんとその隣にお婆さんが布やらを持って立っていた。


「こちらは家内です。私達も手伝います」

「私はそちらをやるから、爺さんは向こうをやってくれ」


御者のお爺さんが奥さんの事を紹介すると、お婆さんは俺に一礼をしてからお爺さんに指示を出してすぐに掃除を開始する。

その手際の良さから、俺は凄いと感想を抱きながら自分のやっている所はしっかりとやらねばと思い、2人に感謝の言葉を言ってから掃除を再開した。


読んでくださった皆様、ありがとうございます!

ブックマークしてくださった方、ありがとうございます!

評価や感想、ブックマークをしてくださると嬉しいです。

誤字脱字がありましたら、感想などで報告してくださると嬉しいです。

よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ