256頁
エルヴァンとファルシュの様子を見ていると、馬車がゆっくりと動き出していく。
森に来るために多少整備された道を外れていた故に、整備された道に戻る為に少し馬車の揺れが大きかったが、道に戻ると多少の揺れで治まり徐々にスピードを上げていく。
俺は小窓から見える景色の変わり様に、たまにはゆっくりと移動するのも良いだろうと思い、
「さてエルヴァン、これからの事を話そうか」
「はい」
エルヴァンに今後の事について話し合いを始める。
話し合いと言っても大した事は無く、俺はエルヴァンの話し合いの代理として同行はしているが、基本的にはまず冒険者としての依頼内容、帝都の兵力として従うつもりがあるのかの有無を聞くのを優先し、更に代替案を俺が提示する流れにしようと話し合う。
と言っても代替案がまだ思い付いていないのが現状であり、俺はエルヴァンと話し合いながら竜人達に対する俺が示せる利点を考える。
竜人達の住処は霊峰と呼ばれる山である事と種族のステータスの高さから、俺が保護をする必要は無い様な気がする。
話し合ってからではないと分からないが、エルヴァンから聞く帝都の依頼内容を聞いて竜人達が抱く感想で彼らとの話し合いの内容は変わると思う。
もし彼らが戦いだけを求める戦闘族であるのなら、もしかしたら話し合いなんてほとんど必要がないかもしれない。
しかし反対に、やはり人族に対しては良い感情を持っておらず、戦うとなれば衝突する事すら躊躇わない人達であるのなら、俺が話をした方が早い気がする。
どっちにしても、竜人達の会ってからではないとダメだな。
俺はそう思いつつ、とりあえず竜人達との話し合いについては置いておいて、エルヴァンに最近の調子などを質問し始める。
最近受けた依頼の内容や、帝都で聞いた噂などを聞く。
俺は最近増えたエルフの人達の事を伝え、今はエルヴァンにとって良い好敵手になる様な人は加わっていない事を教える。
ルミルフルさんが一番可能性が高いのだが、今は子供達の事で多少体を動かす程度の事しかしていない。
そうして様々な事を話している内に帝都から結構な距離を移動し、馬を川の側で休ませて俺達は昼食となった。
流石にアイテム袋から塔の食料を出すのは危険かなと思い、俺は帝都で売っている保存食を取り出す。
エルヴァンとファルシュも同じ様で、
「またこれか~…」
ファルシュは少し嫌そうに言いながら、塩漬けにして硬く乾燥させた干し肉を顎と腕の力で引き千切ると、モグモグと飲み込む為に硬い干し肉を噛み続ける。
エルヴァンはそんなファルシュを見つつ、水を飲んでいる。
お爺さんは干し肉と同じ様に硬いパンをナイフで少しだけ切ると、それを咥えて少し咳き込みつつ食べ進める。
そんな食事を済ませた後、馬車にまた乗り込んで出発となった。
基本的には馬を休ませるためなのか、川沿いを移動していたのだが少しして、
「ここからは森に入りますので、揺れが大きくなりますよ」
お爺さんがそう報告をしてくれる。
そうして入った森の道中は獣道と言って良い程状態が悪く、エルヴァンの太腿に頭を乗せていたファルシュも起き上がる程揺れた。
眠りを妨げられてファルシュは不機嫌そうに文句を言いながら小窓から外を見て、そんなファルシュにエルヴァンが追加の干し肉を与えると、たちまち静かに食べる。
なんというか、食いしん坊なんだな。
森の木々が陽の光を遮っているから馬車内は暗く、小窓から見える景色も薄暗い。
「…夜までには抜けたいな」
「はい」
俺の言葉にはすぐに反応してくれるエルヴァン。
流石に揺れが激しい所為で居眠りすら出来ないな。
俺はそう思って外を眺め続け、結局森を抜け出せないまま夜になってしまった。
野鳥か何かの声を聞きながら、俺は気配察知のスキルを発動する。
「申し訳ありません。もっと馬をしっかりと扱っていれば…」
「構わない」
俺が辺りを警戒していると、お爺さんがエルヴァンに謝罪をしている。
エルヴァンは特にそんな事を気にする様子も無く、黙々と野営の為の荷物を馬車から降ろしている。
ファルシュは薪を集め、エルヴァンに指示される事無く自ら動き火を起こす。
少し手慣れている様子を見るに、依頼の道中で同じ様な事があったのだろう。
「申し訳ない、森での野営などモンスターにも野盗にも恰好の餌だというのに…」
御者のお爺さんが本当に申し訳なさそうにしている。
お爺さんの言葉を聞いて、俺は周りの気配に集中するが…。
「とりあえず、今のところ敵対する者はいない様だな。落ち着いている今、出来るだけ休んだ方が良い。特に御者さんは、仕事とはいえ1日中馬を操っているんですから」
俺は周りの見ながらそう言い、出来るだけ早くお爺さんに休む様に言う。
俺のそんな言葉にお爺さんは感謝の気持ちと申し訳ない気持ちの両方の意味で、
「申し訳ない」
そう言うと、昼に食べたのと同じパンをすぐに食べ始める。
「エルヴァンとファルシュも、先に食べていて良いぞ。辺りの警戒は俺がしておく」
「しかし…」
「構わない。…早くご飯をあげた方が良いぞ、ファルシュが既に手を向けている」
俺が辺りの警戒をする事を伝えると、エルヴァンが反対の意見を言おうとしてくるが、俺はそれを遮ってエルヴァンの斜め後ろの様子を教えてあげる。
俺の言葉を聞いたエルヴァンがファルシュの事を見ると、
「…ありがとうございますヴァルダ様。では、お先に食事をさせて貰います」
エルヴァンは俺にわざわざそう言ってファルシュと共に食事を始める。
その後お爺さんは食事を終えた後に明日の為に馬車で就寝をし、ファルシュも食事を済ませた後に地にそのまま転がっていつの間にか寝てしまっていた。
俺とエルヴァンは焚き火の見張りをしつつ、
「…装備の具合はどうだ?手入れは?」
「自分では出来ない事も多く、専門の者にお願いする事もありますが…。正直腕は何とも言えないもので…」
「エルヴァンの事だ、攻撃はあまり受ける事なんて無いのだろう?大剣を見せてくれ。今出来るぐらいはやっておこう」
「ありがとうございます」
装備の手入れをしながら話をしていた。
読んでくださった皆様、ありがとうございます!
ブックマークしてくださった方、ありがとうございます!
評価や感想、ブックマークをしてくださると嬉しいです。
誤字脱字がありましたら、感想などで報告してくださると嬉しいです。
よろしくお願いします。




