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エルヴァンの言葉を聞き俺は少し首を傾げるが、彼の言葉は理解している。
「話し合いに自信がないか?」
俺がそう聞くと、エルヴァンは頭を垂れている状態から更に頭を下げて、
「申し訳ありません。話し合いなどの事はアンリに任せていた所為で、こういう事態に対処する事が出来ません」
そんな事を言ってくる。
「いや、謝る事は無いぞ。誰にだって向き不向きがあるからな。俺にだって不向きが事がある」
俺はエルヴァンにそう言いながら、むしろ不向きの方が多いのではないか?
と、そんな事を思いつつ、
「しかしエルヴァンの話は今俺がやっている事にとても合っている。彼らの意思を聞いてからだから何とも言えないが、出来る事なら俺も彼らの力になりたいと思っている」
エルヴァンにそう言うと、少しだけ今後の事を考え始める。
とりあえず今急いでやる事は帝都近隣の亜人族の保護や戦争に参加するかの確認。
アンリがいるジーグでの話し合いと狭間の町の住人との交流。
………。
「分かった。同行しよう」
エルヴァンにそう言うと、
「ありがとうございます」
お礼を言ってくるエルヴァン。
その様子を見ていたファルシュは、少し不機嫌そうな表情で俺達の事を見て、
「けッ!」
吐き捨てる様な声を出して視線を別の場所に移す。
…どうやら、嫌われている様だな。
俺はファルシュの様子を見ながらそう思い、せめて今回の同行の間にこんな態度をされない様にしたいな。
俺はそんな事を思いながらも、エルヴァンと明日からの日程について話し合いを始めた。
まずはエルヴァンとファルシュは遠出する時に使う、冒険者ギルドが貸し出しをしている馬車を使って移動する故に、俺もそれ同乗する事は決定している。
だが、冒険者ギルドで集合し一緒に乗って行くのはマズいと判断し、アンジェの指輪を使うかと考えもしたが、流石に普通に動いているエルヴァンに近くに俺がいるという感覚でいさせるのも悪いと思い、一度帝都付近の森で合流する事が決まった。
そうしてエルヴァン達は自分達が泊まっている宿屋へと向かい、俺は明日の準備の為に塔へと戻った。
竜人達との話し合いは、エルフの方達との話し合いより大変になるのだろうかと少し心配になりつつ、俺は自室で考える。
エルヴァンと共にいたファルシュという少女とまではいかないが、おそらく14歳~17歳くらいの女の子。
顔つきは可愛い系なのだが、威嚇していた表情の所為で歪んで見えたのが残念で仕方がない。
おそらくエルヴァンと2人だけの時は、あそこまで警戒心が強くなく普通の表情をしているのだろう。
竜人達が住んでいる霊峰と呼ばれる場所も気になるが、とりあえず今は竜人達の対応とその後の事を考えないとな。
俺はベッドの中で1人でそんな事を考えながら、徐々に訪れてくる睡魔に抵抗する事無く従った。
そうして翌朝、俺はすぐに塔から出発してブルクハルトさんの商館へとやって来ると、昨日も応対してくれた女性に会うと、またおそらく長期的に帝都を留守にすると思う事を伝えて、流石にあんな奴らを置いておいてくれる事に申し訳ないから、少ないが銀貨十数枚を渡してから商館を後にした。
そこからは走り帝都を飛び出すと、いつもの森へとやって来る。
良かった、まだエルヴァン達は来ていない様だな。
俺は2人を待たせなくて良かったと安心し、エルヴァン達が乗っている馬車を待つ事にする。
それから少しして帝都を出てくる馬車がこちらにやってくると森の近くで止まり、馬車の中からエルヴァンが降りてこちらにやって来る。
御者のお爺さんと言っても良い老人が、ぺこりと頭を下げてくる。
そんな御者さんに俺も頭を軽く下げて挨拶をすると、
「お待たせしまして申し訳ありませんヴァルダ様」
エルヴァンがそんな謝罪をしてくる。
「構わない。それよりも、あの馬車で行くのか?」
俺がそう聞くと、
「はい。あの御者が竜人達の住んでいる霊峰の近くの村出身らしく、わざわざ帝都まで来たようなのです」
エルヴァンがそう説明をしてくれる。
なるほど、俺は勿論だがエルヴァンも霊峰と呼ばれる山の事なんか知らないし、あの御者さんの協力は願ったり叶ったりだ。
俺がそう思って視線を馬車の方に向けると、
「………」
俺とエルヴァンの様子を、馬車の小窓からジト~ッとした眼で見てくるファルシュ。
エルヴァンの力も借りて、あの子とも仲良くなりたいものだ。
「さて、おそらく遠いのだろうしさっさと出発するか」
「はい。よろしくお願いしますヴァルダ様」
俺がそう言うと、エルヴァンは俺にそう言って馬車へと案内してくれる。
馬車に近づくと俺は、
「これから、よろしくお願いします」
御者のお爺さんにそう言う。
「こちらこそ。こんなに大きい馬車を扱うのは慣れていないので、ご迷惑をお掛けしたら申し訳ない」
お爺さんがそう言って来るのを、俺は大丈夫だと言いながら馬車に乗ると、
「えっと、どこに座ればいいのだろうか?」
馬車は対面座席になっているのだが、その座る場所では無い通路の様な場所でファルシュが立っていた。
どうすれば良いのかと考えていると、
「ヴァルダ様のお好きな所に」
後ろからエルヴァンがそう声を掛けてくる。
「じゃ、じゃぁ言葉に甘えよう」
俺はそう言って適当に奥の方へと座ると、ファルシュは俺の斜め前の位置に座った…。
なるほど、俺が嫌だったのね…。
悲しい事実を察してしまった俺が悲しんでいると、エルヴァンが乗って来て俺の対面へと座る。
すると、エルヴァンの太腿部分の鎧に厚めの布を被せると、
「寝る!」
ファルシュはそう言ってエルヴァンの太腿に頭を乗せると、不機嫌そうな表情のまま目を閉じる。
「…いつもこんな感じなのか?」
俺がエルヴァンにそう聞くと、
「馬車での移動の時は。徒歩での移動の時は辺りを駆け回っています」
エルヴァンが答えてくれる。
エルヴァンの言った事を聞き、俺は馬車の壁に背を預けて少しエルヴァン達の光景を全体が移る様に見ると、少し鎧が目立ってしまうが親子みたいに見えなくもないな。
そう思い、俺は頬を緩めた。
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