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ブルクハルトさんの商館の扉を開けて中に入ると、誰もいない…。
たまに来る俺にでも、この状況が普通では無い事くらいは理解出来る。
俺がそう思っていると、
「あ、おはようございますビステル様」
商館の奥から、いつものお留守番をしている女性が俺に気がついて小走りで近寄って来る。
俺はそんな女性に、
「おはようございます。…もしかして、ブルクハルトさんはいないですか?」
そう質問をすると、女性は慌てた様子で頭を下げ、
「申し訳ありません、ご主人様は今とても大変な事になっている人達を救いに出かけております!」
謝罪と説明をしてくる。
彼女の言葉を聞いた俺は、
「そうですか。いつ頃に帰って来るのかは分かりますか?」
女性に質問をする。
それを聞いた女性が頭を上げると、
「申し訳ありません、ご主人様は今回の件は長丁場になると言われており、いつ頃に帰って来るかのご連絡がありませんでした。ご主人様からビステル様に、長い間この商館を離れる事を伝える事が出来ずに申し訳ありません、と言伝を預かっています」
ブルクハルトさんの伝言を伝えてくれる。
なるほど、ブルクハルトさんがそんなに長い間商館を離れるという事は、とても重大な事に関わっているのだろう。
俺はそう考え、
「いえ、ではブルクハルトさんが帰って来るまで俺も帝都を出たりと、まだやるべき事をします。何か困った事があれば、言ってくださいね。ここにいる間は出来る限りのお手伝いをしますから」
女性にそう言うと、彼女は何度も頭を下げてお礼を言ってくる。
それを確認すると、俺は最初に商館に寄った理由を思い出して、
「少し聞きたいんですけど、今ってブルクハルトさんがいないから捕まえた奴らを引き取って貰えませんか?」
女性に質問をする。
俺の質問を聞いた女性が首を左右に振り、
「買い取る事は出来ませんが、捕縛という形で部屋に案内する事は可能です。ご主人様からも、信用できる方達からの奴隷は部屋に案内する様に言い付けられています」
そう言ってくる。
…ブルクハルトさんの言葉通りの人達では無いんだよな…。
俺はそう思いつつ、
「すみません。多分ブルクハルトさんの言った通りの良い人達を連れて来た訳では無いんですよ…。悪い事をしようとした人達なんで、正直牢屋とかでも良いですよ」
女性に連れて来た者達の説明をすると、女性は少し考える素振りをした後、
「分かりました。ではその人達はこちらでお預かりします」
そう言ってくれる。
女性のその言葉を聞いた俺は、商館の扉を一度潜ってから檻を持ってくる。
それを確認した女性は、あまりの異様な檻の中の者達の様子で引いている様だが、そこはブルクハルトさんが代理として商館に残した人。
すぐに気持ちを切り替えたのか、近づいて男達の様子を窺い、
「この方達はどうしてこのような状態に?」
そう質問をする。
俺はその問いに対して、彼女だったら大丈夫だろうと思い正直に俺がやった事とその結果、彼らが今どの様な状態になっているのか説明をした。
それを聞いた女性は、俺に檻を持ってくれる様にお願いして商館の奥へと案内をしてくれる。
そうして男達を地下の、怒りであまり話が通じない暴れん坊などを入れておかないといけない牢屋に檻のまま入れる。
他の牢屋にも、数人の威嚇をしてきたリ牢屋の鉄格子などを蹴ってたり殴ったりしている人達がいたのだが、俺が置いた檻の中の人達を見た瞬間ドン引きしている様に静かになった。
「すみません、よろしくお願いします。食料なども食べないので、おそらく長くは持たないと思いますので、基本的には放置しておいてください。何かありましたら、宿屋に伝言をお願いします」
全ての用事が済んだ俺は、女性に後は任せてブルクハルトさんの商館を後にすると、今度は冒険者ギルドに行ってエルヴァンの隣にいた者の情報収集をしようと思いながら歩みを進める。
冒険者ギルドの建物の扉を開けて、中に入るといつもの喧騒が聞こえてくる。
依頼の相談に、分け前の分配。
相変わらず、皆血気盛んだな…。
俺はそう思いつつ、冒険者ギルドの中を見回す。
…エルヴァンの姿は見当たらないな、ここへは来ていないのか?
俺はそう思いつつ、近くにいた依頼書を見て作戦を話し合っている3人の冒険者達に近づくと、
「すまない、少し聞いても良いだろうか?」
そう声を掛ける。
3人の冒険者は話し合いを邪魔をされた所為か、少し不機嫌そうな様子で俺の事を見てくる。
「何の用だぁ?」
1人の男がそう聞いてくるのを聞き、
「エ…久しぶりに帰ってきたら、大剣を背負っている冒険者の周りにちょこちょこいる者が見えてな。アレが誰か知っているか?」
そう質問をする。
それを聞いた男も含めて、俺の話を聞いた周りの冒険者達も一瞬だけ静まると、
「…大男の事はあまり話さないでくれ。目を付けられたら酷い目に合う!あいつはいつの間にかいたんだ。単純な奴隷とかでも無さそうだし、事情はよく分かんねえよ!」
俺が質問をした男達は慌てた様子で周りをチラチラと見ると、まるで俺が質問した事なんて無かったかの様に普通に話し合いを続け出した。
そんな彼らの様子を見て、これ以上は何を聞いても答えてくれなさそうだなと思うと、今度は冒険者ギルドの受付嬢に話を聞く。
しかし受付嬢が言うには、冒険者ギルドの中には入れずに外で待機させている様で、直接話した事は無いらしい。
エルヴァン自身に聞いても、拾ったとしか言わず説明は無いという事を聞き、それならもう本人に直接聞くしかないなと判断し、受付嬢にお礼を言ってから冒険者ギルドの外に出ると、僅かに威圧スキルを発動する。
おそらくこれで、ある程度察してくれるだろう。
俺はそう思いつつ威圧スキルを発動したまま宿屋まで歩いて行き、宿屋で部屋を借りる。
宿屋の主人と話す際はスキルを切っておいたが、部屋までやって来ると威圧スキルをもう一度発動し直す。
そうして夜まで時間を潰していると、宿屋から僅かなどよめきの声が聞こえてくる。
…どうやら、ちゃんと分かってくれた様だな。
俺がそう思うと、部屋の扉がノックされ俺は扉の向こうにいる者に中に入る様に声を出した。
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