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今まで見てきた森の風景とは違い、そこは綺麗に並べて生えている木と丁寧に切り揃えられた草達の景色に、俺は少しだけ言葉を発せずに黙ってその光景を見ていた。
すると、
「ここは、死した仲間を埋める場所です。死した仲間を埋め、状態が良い木を植える事でより良い樹に成長します」
アウレオンさんが黙っていた俺にそう説明をする。
なるほど、確かにこれも重要だな。
俺はアウレオンさんの言葉を聞いて納得すると、何も言わずに後ろに控えて立っていたセシリアに顔を向けて頷くと、セシリアは俺の意図を察してすぐに動いてくれる。
黙々とスキルを発動して範囲の指定をしている姿を見ていると、リエスさんが前へ進んで1本の木の前に立つと、祈るように手を合わせる。
そのままセシリアが帰ってくるまで続き、
「ヴァルダ様、これで大丈夫です」
セシリアがそう言ってくると、リエスさんは普通にこちらへやって来る。
「範囲の設定の容量はもう限界に近いか?」
「はい。これ以上は設定しても意味はないモノになってしまいます」
俺がセシリアに質問をすると、セシリアは俺の問いにそう答える。
「分かった、では次の行動に移ろう。色々と動いていく内に結構な時間が経過している。今行けば荷物の整理なども終わっているだろう」
俺がそう言うと、アウレオンさんとリエスさんが頷き、セシリアは俺の事を見つめてくる。
「では集落に戻りましょう。後は俺とセシリアで作業は終わらせる事が出来るので、アウレオンさんとリエスさんも荷物の準備をしていて下さい」
俺がそう言うと、アウレオンさんとリエスさんが頷いてから集落へ戻る為に先に歩き出す。
俺とセシリアは彼らの後ろを歩き集落に戻って来ると、アウレオンさんとリエスさんは自分の家に戻って行く。
そして、
「ではセシリア。始めよう」
「はい、ヴァルダ様。スキルを発動します」
俺が声を掛けると、セシリアがスキルを発動する。
それと同時に本の中の世界が勝手に開いて、塔の浮島などの管理ページが次々と文字が記されて更新されていく。
シルキーとしてのセシリアのスキルは、範囲を指定した場所のコピー&ペーストをする事が出来るスキルだ。
指定した範囲を彼女の家と認識させ、それを元々持っていた家に合成させるスキル。
元々「UFO」でも、自分の家にフィールドのマップの一部を持って来たいという要望から出来たスキルだったが、こんなに活用できる日が来るとは思わなかったな。
塔の浮いている島の半分が、「UFO」のフィールドから持って来ていたモノだし、もしかしてと思っていたが、こうなると色々と考える事が多くなるな。
亜人族の保護に、エルフの皆の様に集落から出たくない人などもいるだろうし、これからも活用できる可能性が増えて良かった。
このスキルが通用しないフィールドもゲーム時代にはあったし、この世界でも出来ない場所があるだろう。
それはもう俺が一から作ってしまえばいいだろうし。
もしかしたらあの作戦も上手く行くかもしれない…。
そうして色々と思考を巡らせている内にセシリアのスキルが終わり、本の中の世界の更新も止まる。
「よし、ありがとうセシリア。先に戻って休んでくれ」
俺がそう言うと、セシリアは召喚された時と同じ様にスカートを摘んで一礼をし、
「帰還」
俺が返す為の靄を出すとそこへ入って行く。
さて、準備は整った。
最後の仕上げは俺しか出来ない事だからな。
アウレオンさんかリエスさんが来たら少しこの場を任せて、俺も塔に帰還してこちらにくる準備をしないとな。
俺はそう思い、荷物を纏め終えたエルフ達の視線を感じながら2人がやって来るのを待つ。
…というか、リエスさんの部屋を見た感じすぐに整理が終わる気がしないな…。
アウレオンさんが来るのを待つか。
そうして待ち続けると、先に荷物を纏めてきたのは意外にもリエスさんだった。
「…早かったですね」
「必要な物はあまり持っていない。最低限の薬草の束と調合に必要な道具、それと弓矢一式があれば十分だ」
俺がリエスさんに驚いていると、リエスさんが自分の荷物を背負い直しながらそう答える。
とにかく、彼女が来てくれたのならここを少し任せられる。
「すみません、最後の仕上げをする為に一度あの世界に戻らないといけないので、ここを任せても良いですか?」
俺がそう聞くと、リエスさんは周りに集まっていたエルフ達を見てから、
「分かった。ここは請け負う」
そう言ってくれる。
俺はリエスさんにお礼を言ってから、
「帰還」
塔に戻る。
すぐに塔に戻ると、
「お待ちしておりましたヴァルダ様」
セシリアが出迎えてくれる。
「よし、すぐに始めよう」
俺はそう言うと、
「スキルを発動します」
セシリアはそう言ってスキルを発動する。
瞬間、先程範囲を指定していた不帰の森の集落とお墓周りの地形が出現する。
「クラスチェンジ・錬金術師」
俺はクラスを変えて、スキルを使用してセシリアが出現させた土地を浮島として再構築していく。
と言っても大した作業では無く、セシリアの方が重労働だ。
そうしてセシリアが出現させ、俺が最後に浮島として造り直した不帰の森を他の浮島と同じ様に塔の周りに浮く様に設定すると、
「中を確認するか」
「はい」
俺が確認をしようとセシリアに言い、セシリアも俺の言葉に返事をしてくれる。
不帰の森の浮島を呼び寄せると、俺とセシリアは一緒に浮島へと移り、集落がある方向に歩みを進める。
…やはり、勝手に動く樹木はコピーする事が出来なかったな。
そう思いながら歩いていると、容易に集落へと辿り着く事が出来た。
集落の様子に変化はないが、俺が入れられた倉庫に入るとそこには何も無い。
やはり、外側だけしかコピーは出来ないか。
まぁ、中のアイテムがコピー出来たらアイテムに困る事は無いだろうしな。
こればっかりは仕方がない。
家具とかは、エルフの皆にここを見せてから相談するとしよう。
勝手に移動させられたら、嫌がる人もいるだろうしな。
俺はそう考えつつ、
「こっちの事は終わったな。ありがとうセシリア、とても助かった」
セシリアにお礼を言うと、
「はい」
セシリアは俺の事を真っ直ぐ見ながらそう返事をした。
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