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俺とリエスさんが少し話していると、今度はユルゲンさんと男性が俺に向かって手を振ってくる。
話は終わったのだろうかと思って彼らの元に行くと、
「盛り上がっていたようですが、どうしました?」
俺は2人にそう質問をする。
すると、
「色々と話をした結果、アウレオンさん達もここなら安全だと理解して下さいましたし、ビステル様との協力関係を築けるのではないかと話していたんです」
ユルゲンさんが、男性に手を向けながらそう言ってくる…。
そういえば、名前を聞いていなかったな…。
アウレオンさんと言うのか。
俺がそう思っていると、
「改めて、アウレオンと申します」
男性が綺麗に一礼をして自己紹介をしてくる。
それを聞いた俺は、
「こちらこそ、ヴァルダ・ビステルと言います」
俺からも改めて自己紹介をする。
更に続けて、
「こちらに移り住む事に関してなんですが、少しご相談がありまして話を聞いて貰っても良いですか?出来れば集落の皆さんにも聞いて貰いたい話ですので、一度集落に戻りましょう」
そう言うと、アウレオンさんは分かりましたと言ってリエスさんを呼んでくれる。
アウレオンさんに呼ばれたリエスさんは、名残惜しそうにシェーファの元から離れて俺達の元にやって来ると、
「ビステルさんの元へ行こうと思うのだが、リエスもそれで構わないか?」
アウレオンさんがリエスさんにそう聞く。
彼の言葉を聞いたリエスさんは、アウレオンさんの事を見て、
「私もそのつもりで、彼にはその意思をもう言ってあります」
リエスさんが俺の事を見てそう言う。
それを聞いたアウレオンさんは頷き、
「では、ビステルさんが一度提案がある様なので集落に戻るとしよう」
リエスさんにそう言い、彼女も彼の言葉に頷く。
2人の会話を聞いた俺は、帰還と言って黒い靄を出すと、
「また行ってくる。頼んだ」
「はい、ヴァルダ様」
「お気を付けて」
シェーファとセシリアに声を掛けて、俺は黒い靄の中に入った。
黒い靄をくぐり抜けると、そこには少し驚いているエルフの方達がいる先程の部屋に帰って来た。
俺の後に続いて、アウレオンさんとリエスさんが出てくると、エルフの方達は安心した様子で2人の元へと近寄ってくる。
俺が話し出すより、彼らから塔の内情を説明してくれた方が良いだろう。
俺が説明すると、無理矢理連れて行こうとしていると思われそうだし。
俺がそう思っていると、アウレオンさんが塔の事について周りにいたエルフの方達に話し始めた。
先にいたユルゲンさんの説明をし、彼が不自由ない生活と今まで恐れていた人族と対等に話せる環境、精霊達にも住みやすい場所であり、危険が無い事を力説してくれる。
アウレオンさんは説明をしつつ、リエスさんにもどう感じたかを言う様に声を掛け、リエスさんも自分達エルフが移住したとしても今までの生活より、良い状況にはなるだろうと少し俺の事を見ながらそう言っている。
おそらく、あれは試されているんだろうな。
俺がそう思っていると、アウレオンさんとリエスさんの説明のお陰か他の人達も俺の塔に興味を示し始めてくる。
そうして最初に比べれば良い雰囲気のまま話し合いは続き、今度は俺自身が他の人達に聞きたい事は無いかと聞き、周りのエルフの方達は自分達が気になる事を質問してきた。
食糧事情やアウレオンさんから聞いた労働に関する事を。
俺はそれに嘘偽りなく、真実のみを話して説明をしていき、他のエルフの方達も移住に関して良い反応をしてくれる様になった。
そこで俺は、改めて今の不帰の森の外で変化している状況の説明をし、俺は自分の考えを彼らに伝える。
「今のままでは、おそらくここは人族が押し寄せて戦争の駒として、貴方達を利用しようとするでしょう。俺はそんな事はするつもりはありません。戦争の際に、人族に苦しめられた皆さんが参加するつもりなら、俺はそれに同意します。しかし、戦う意思が無いのであれば、それも構わないと思っています。結局、その場の状況になってからじゃないと、自分達の意思なんて分からないですから。ただ、俺は貴方達を戦争に参加させたい訳では無い事は理解してくれると嬉しいです。確かにエルフの皆さんの力は戦力としては充分ですが、戦いたくない人達を無理矢理戦わせるつもりはありません。そこは信じて下さい。後は、皆さん好きにしてください。俺の元に来たら、何かをしなければならないという決まりはありません。動きたかったら動き、疲れたら休む。それくらいの気持ちで、深く重く考えないで大丈夫ですよ」
俺がそう言うと、一度場は静まり返る。
俺が説明し言いたい事は言った。
後の判断は、彼らに任せよう。
俺がそう思っていると、
「では皆、一度解散をしよう。それぞれの家族にこの事を伝え、どの道を進むのか明日最後の決断をしよう」
アウレオンさんが静かにそう言い、周りの皆も一度頷いてから席を立ち部屋から出て行った。
最後に残ったのは、俺とリエスさん。
もしかして、またあの部屋で待機になるのか?
俺がそう思っていると、
「…日も傾いてきている。行くぞ」
リエスさんがそう言って部屋の扉を開ける。
仕方がない、もうリエスさんも知っているだろうし、あそこへ入れられても気にせずに塔に戻ろう。
俺はそう思うと、リエスさんの後に続いて部屋を出ると、彼女の後を付いて階段を下る。
階段を下ると、昼間とは変わって静かな森の様子に深呼吸を一度する。
どうなるのかは彼ら次第ではあるが、良い返事が聞けたら良いな。
俺がそう思っていると、リエスさんは特に何も気にしていない様に歩き続けている。
すると、リエスさんの向かっている方向が倉庫の方では無く普通の家の方向だと気づき、俺はもしかして話し合いの場所から出たから後は自由行動なのではないかと思い、
「ではリエスさん、また明日」
そう言って塔に戻ろうとすると、
「…何を言っている?もう軟禁する必要も無い、今日は私の家に入れてやる」
リエスさんが足を止めて、僅かに振り返りながらそう言ってきた…。
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