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俺の提案を聞いたエルフの男性は、周りのエルフに視線を移していき、彼に見られた周りのエルフの方達が無言で頷くと、
「分かりました。では、まず貴方の家族の方をお連れして下さい」
そう言ってくる。
とりあえず、話に興味は持ってくれた様だ。
俺はそう思いつつ、本の中の世界を首元から取り大きくしてから開くと、誰にした方が良いのだろうかと少し考えてしまう。
彼らからしたらシェーファが良いのかもしれないが、まずシェーファが俺の元から離れていく姿を想像する事が出来ない…。
ならば、精霊のシルの方がこの環境には合っている気がする。
…とりあえず、2人を呼んでみるか。
俺はそう思うと、
「召喚、シェーファ、シル」
2人を召喚する。
「ヴァルダ様、お呼びでしょうか?」
「どうしました~?」
俺の呼び出しにそう聞いてくるシェーファとシル。
「すまないな。実は今彼らと話し合いをしているのだが、彼らはこの森に人族が襲ってこない様にしたいらしい。外に出ても危険だと判断し、この森で静かに暮らしたいと言っている。その解決方法、俺が考えた所2つの方法があってな。1つは、塔の皆の誰かをここに残って………」
「ヴァルダ様の元を離れる訳にはいきません!」
「私も~、塔を離れたくないです~」
俺が提案をする前に、断られてしまった…。
ま、まぁ予想はしていたのだが…。
「エルフ…しかもハイエルフ…」
「古の存在が…見る事が出来るなんて…」
「風の精霊…しかも上位精霊だと…」
「我らよりも、遥かに上位の存在を従えている…」
俺がシェーファとシルの言葉に空笑いをしていると、周りにいたエルフの方達が2人を見て驚愕の表情で話している。
リエスさんはシェーファとシルを一度見ているから普通にしているが、それでも何故か感動した様な表情をしているのは何故だろう?
俺は仕方がないと思い、
「すみません、この森に残すとしたらこの2人が最適だと思っていたんですが、2人がこの様に…」
驚いているエルフの方達にそう言うと、
「ヴァルダ様のお傍にいる事こそ、私の務めであり生きている意味であります」
「塔の生活を手放すなんて~、そんな事出来ないよ~」
2人が自分の意思を伝える…。
嬉しい気持ちと同時に、方法が潰された焦りも少し混ざった複雑な感情になってしまう。
俺はそう思いつつ、
「申し訳ない。という事でもう1つの案ですが、誰か俺達の住んでいる場所に一緒に行きたい人はいますか?」
次の案に移行して、塔の見学に来る人はいないか聞いてみる。
しかしやはり未知な場所に行く事に恐れているのか、誰も志願する人がいない。
勝手に決めるのも悪いし、ここは話し合ってもらうか誰かが自分から行くと言うまで待つしかないかな?
俺がそう思っていると、
「私が行こう」
リエスさんが自分の耳に当たるか当たらないかの微妙な高さに手を挙げてそう言ってきた。
やはり一番話している人だけはある、少しでも俺の事を信用してくれているのだろう。
俺がそう思っていると、
「…彼女達も帰られるのだろう?もう少し目に焼き付けたいのだが…」
リエスさんが、シェーファとシルをチラッと見ながらそう言ってくる…。
…俺の事を信用しているというよりも、単純にシェーファとシルともう少し一緒に居たいだけの様だった…。
俺がそう思って、何とも言えない気持ちになっていると、
「…リエスだけに任せる訳にもいかない。私も行こう」
俺と話していた男性も少し手を挙げて志願をする。
それを聞いたエルフの方達が少しどよめいていたが、
「この件については、リエスだけの印象だけで決めるのは良くない。今回の族長は私だ。私も見に行った方が皆も安心するだろう」
男性がそう言うと、少し困惑していたエルフ達が彼の言葉に仕方がないといった様子で諦めて口を開かない。
「では、お2人はこちらに来て下さい」
俺が椅子から立ち上がってそう言うと、リエスさんがすぐに俺の元までやって来る。
それに続いて、ゆっくりと椅子から立ち上がったエルフの男性がやって来る。
「まず先に言っておきます。俺達の住む場所に行く為には俺との仮契約をしなければいけません。それでも良いですか?」
俺がリエスさんと男性にそう質問をすると、
「構わない」
「そうしなければいけないのなら、私も構いません」
リエスさんと男性がそう答えてくれる。
2人の言葉を聞き、俺は本の中の世界の切れ端を手に持つと、
「手を出して下さい」
俺はそう言って自分の手を前に出す。
俺が手を出すと、まずはリエスさんが手を出して俺の手の上にそっと触れる。
おそらく人族にあまり触れてくないだろうと思い、すぐに切れ端をリエスさんの手の甲に押し当てて仮契約を済ませる。
続いての男性もリエスさんとの仮契約が終わるとすぐに手を差し出してくれて、スムーズに2人の仮契約を済ませる事が出来、
「これで大丈夫です。では、案内します。帰還」
2人にそう言ってから、黒い靄を発生させる。
突然の真っ黒な靄に見慣れていないエルフの皆が驚いているが、
「先に行くよ~」
シルが気を遣ってかそう言うと、黒い靄の中へ入って行く。
その様子にまた傍観していたエルフ達が驚いているが、
「行きますよ」
俺はそう言って靄に入ろうとすると、
「ご一緒しますヴァルダ様」
シェーファが俺に寄り添う様に傍にやって来ると、俺の肘当たりに手と添えてくる。
本当ならリエスさん達を誘導してくれるとありがたいが、こうなってしまったら仕方がない。
俺はそう思い、
「付いて来て下さいね」
後ろにいるリエスさんと男性にそう言ってから、俺とシェーファも黒い靄の中へと入る。
黒い靄の中に入ってすぐに、いつも見慣れている光景が眼前に広がっている。
俺とシェーファが黒い靄をくぐり抜けて少しして、リエスさんと男性がこちらへとやって来る。
理解出来ないモノに入る恐怖からか薄めで俯きながら入ってきた2人だったが、靄をくぐり抜けた事を理解して瞳をしっかりと開けて顔を上げた瞬間、
「…ッ!?な、何だここは…」
「…どういう事なのだ…。これは一体…」
2人は今まで以上に驚愕な表情をして、視線を彷徨わせる。
そんな2人に俺は、
「ようこそ、我が城へ」
少し胸を張って歓迎の言葉を伝えた。
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