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唐突なリエスさんの言葉に、俺もシェーファも疑問というか困惑をしてしまったが、
「導くとは、どう意味でしょうか?」
シェーファがリエスさんにそう聞き返す。
シェーファに聞き返されたリエスさんは姿勢はそのまま動かず、頭だけを上げてシェーファの事を見ると、
「我らは今、とても危機的な状況に陥っています!我らの森には連日先程の様な連中が訪れ、その生活が嫌になった者達は森を捨てて街へ出ると言い、森を捨てる事が出来ない者達との亀裂が発生しました!しかし、先程助けて頂いた者達は街へ出て行った者達…。エルフはこのまま森に留まるしか生きていく術は無いのでしょうか?!」
そう吐露する。
やはり、あの捕まっていたエルフの人達はこの森から出て行った者達か。
リエスさん達の様子から、薄々そんな気はしていたが。
俺がそう思っていると、
「私はこの森で生きている訳ではありません。申し訳ないのですが、私には貴女達の希望を応える事は出来ないでしょう」
シェーファがリエスさんにそう言い返す。
シェーファの言葉を聞いたリエスさんは表情を歪めると、
「…そうですか。突然の申し出、申し訳ない」
少しして諦めた様な表情をする。
そんな彼女を見て俺はシェーファに、俺も協力するから何か彼女達に良い解決方法を探さないかと言おうとした瞬間、
「そういう事は、我が主であるヴァルダ様に相談して下さい。私などよりも遥かに偉大なヴァルダ様であれば、その様な事は問題にすらなりません」
シェーファが俺に優しく微笑みながらも、リエスさんにそう伝える。
…流石はシェーファ、どの様な状況でも俺に対する尊敬の心遣いが凄い。
普通だったら、同族であるエルフ達の力になりたいと思うだろうが、自分を先頭に立たせるのではなく俺に先頭に立てる様に誘導してくれる。
「…俺の大事なシェーファがここまで持ち上げてくれるのだ。ただエルフの皆を助けるだけでは、シェーファの期待と釣り合わせる事は出来ないな」
俺はシェーファとリエスさんに向かってそう言うと、
「リエスさん、改めて貴女達エルフ族と話し合いがしたい。場を用意して貰えないだろうか?」
リエスさんに続けてそう質問をする。
それを聞いたリエスさんは、一度シェーファの事を見てから俺へと視線を戻し、
「すぐにでも!」
そう言って立ち上がると、集落の方へと走って行った。
集落へと帰って行くリエスさんの後ろ姿を少し見送った後、
「ありがとうシェーファ。お陰で彼らと話をする事が出来た」
俺はシェーファにお礼を言う。
すると、
「いえ。しかしヴァルダ様は、あの様な下賤な者達といつも戦っておられるのですか?」
シェーファがそう質問をしてくる。
その問いに俺は、
「普段は相手になんかしないが、やはり亜人族を虐げている者を見るとな。しかし、流石はシェーファだ。あの数を一瞬で木っ端微塵にしてしまうのは、見ていて圧巻だったぞ」
質問に答えつつ、シェーファの魔法の凄さを称賛する。
流石、魔法攻撃力では塔の住人でも1位2位を争う強さ。
単純な魔法だけの戦いだったら、負けるな俺。
俺がそう思っていると、
「強くなれたのも、ヴァルダ様がいたからこそです。私よりも、ヴァルダ様の方が凄く感嘆してしまいます」
シェーファが俺にそう言ってくる。
そうして少しの間、俺とシェーファは互いの凄い所を褒め合いは続いたが、不帰の森の外で地面に横にされていた人がいる事を思い出し、俺はシェーファにもしかしたらもう一度呼ぶ可能性がある事を伝えた後塔に戻ってもらい、俺は横たわっているエルフの人に回復薬を軽く飲ませた後担いで集落へと歩き出す。
集落へ行く道を歩いていると、
「…何故人族が……ここにいる?」
回復薬の効果で少し楽になったであろう男性が、俺にそんな質問をしてくる。
彼の言葉を聞いた俺は、
「これから起こるであろう事から、亜人族を助けるために…ですかね。このまま時が経てば、おそらく亜人族は皆人族に捕らわれる可能性があるので、俺はそんな皆さんの保護と支援をと思って行動しています。それに簡単に入っている様に見えますが、俺はここ数日にここへ来たばかり出して…。今はいませんが、一応監視も付いていましたよ」
簡潔にそう答える。
それを聞いた男性は、
「俺達が馬鹿だった…。森の向こうの世界は、地獄だ…。最初の村で、石や物を投げられた…。次に行った街で、仲間が奴隷商人に捕まった。その次の国では、俺が捕まった。後の仲間は、俺には分からない…。分かるのは、一度捕まったら死ぬよりも辛い事が起きるだけだ。水に頭を無理矢理入れられ、焼印で皮膚を焼かれ、気絶する度にナイフで肌を裂かれる…。傷口には白い粉で擦られ、ナイフで切られた痛みが再度来る。仲間も、同じ事をされていた。…最後は、仲間が恨めしそうな眼を俺に向けて死んだ…。…地獄だ」
そう言うと、気を失ってしまう。
おそらく人族が彼らを拷問した理由は、この集落の場所や不帰の森の攻略法を知りたかったのだろう。
それと後は、単純にエルフ達を拷問したかっただけだろう。
亜人族になら、何をしても良いと思って…。
…国も街も、名前を覚えてくれていればいいのだが…。
俺はそう思いつつ、苦しそうに気絶をした男性を起こさない様に歩み続ける。
少しして彼を迎えに来たエルフの方達が、俺の事を見て少し驚いている。
…何を驚いているのかは分からないが、
「複数人でゆっくりと運んだ方が彼の体にも良いでしょう。交代をお願いします。それと、彼にも飲ませましたが、この薬を保護した人達に飲ませてあげて下さい」
俺がそう声を掛けると、エルフの人達は少し困惑しながらも俺から男性を受け取り、俺が差し出した回復薬も受け取ると感謝の意味かは分からないが、頭を下げて運び始めてくれる。
俺はそんな彼らに付いて行き、集落に戻る事が出来た。
集落に戻ると、傷ついた者達が運ばれている場所にエルフが集まっており、女性や子供達も戻ってきている様子だった。
こんな状況で俺がウロチョロするのは、エルフの人達の心が穏やかにならないと思い、俺は迎えのリエスさんが来るまで集落の広場の隅に座っていた…。
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