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木が動いていると言うのは、風で揺られているという感じでは無かった。
俺の視界に入っている木が、横滑りというか平行に移動している光景は少し混乱してしまう。
俺は混乱する頭を切り替えて、
「えっと、森が生きているって言葉通りの意味だったんですね…」
そう話しかける。
どうやら、予想の斜め上の森に来ていた様だ。
俺がそう思っていると、
「この森に生えている樹木、草花、全てが移動する。1つ1つの草木がモンスターなんだ」
リエスさんがそう教えてくれる。
なるほど、どんなに珍しくて特徴がある木を目印にしていても、その木自身が動いてしまえば目印としての意味は無い。
帰る事が出来ないとは、どんなに目印にしても森を形成している草木が移動している所為で出口に辿り着けなくなるんだろう。
俺はそう思いながら、
「モンスターという事は、人を襲ったりもするんですか?」
リエスさんに質問をする。
すると、俺の質問を聞いたリエスさんは、
「いや、モンスターと言っても普通の植物とあまり変わらない。ただ動く植物なだけだ、おそらく栄養も普通の植物と変わらず、根から吸収しているんだろう」
俺の質問にそう答えて、集落に戻る為に歩み始める。
リエスさんが歩き出した後、俺は先程動いた樹木を少し見た後彼女を追う為に少しだけ早歩きで歩き出す。
先に歩き出していたリエスさんに追いつくと、
「ちなみに、空から脱出しようとしたらどうなるんですか?」
俺が空を見ながらそう質問をする。
それを聞いたリエスさんは、
「…おそらく出る事が出来るのではないか?試した者はいないが、木達も急成長をする訳では無いだろう」
冷静にそう分析し、俺の質問に答えてくれる。
すると、
「…逃げ出すつもりなのか?」
リエスさんが少し冷たい声色で質問をしてきた。
俺は彼女の問いに、
「逃げ出すというか、先程捕縛者から手に入れた物を持って行って、彼らの情報が欲しいなと思っていたんです。それにこんなんですけど、俺にも色々とやる事があるんですよ」
苦笑しながらそう答える。
すると俺の質問に対する答えを聞いたリエスさんは、
「…そういえば、何度も話し合いがしたいと言っていたな。その事に関係があるのか?」
そう聞いて、歩みを止めて振り返ってくる。
前を歩いていたリエスさんに合わせて俺も歩みを止めると、
「そうですね、結構重要な事です。信じては貰えないかもしれないですけど、貴女達を助けたいと思って話し合いがしたいんですよ。これから起こるであろうこの森の外での状況と、その状況になった際のエルフ族の皆さんの状況の変化などを、相談したいと思っています」
リエスさんに対して、真剣にそう話す。
俺の話を聞いたリエスさんは、
「…悪いが我々は今の現状に問題が出てきている」
そう話し出した。
彼女の言葉を聞いた俺がどう意味だろうと思っていると、
「…どうせ遅かれ早かれ、この森は状況が変わるだろう。今話しても、問題は無い…か」
リエスさんがまるで自分に言い聞かせる様にそう呟くと、
「集落の者達を見ただろう?我らの集落には今男達が少ない。元々はこの森で生活していた我らであったが、この森を放棄して外の世界に足を踏み出そうとしていた革新派と、我々の様に今まで通りこの森で生きていく保守派で分かれたのだ。毎日毎日話し合いは行われたが、互いの主張は譲り合う事無く平行線のままだった。その結果、数ヶ月前に革新派の者達が備蓄してあった食糧を持って森を出て行ったのだ。革新派の者達の多くは、腕に自信がある強者が多かった。その結果、我らを捕まえに来る外敵を追い払う力は無くなっていき、あの様な者達が最近増えてきた。…我らが作る作物も限界がある、おそらくそろそろ食糧も無くなるだろう。…せめて、子供達だけでも普通に過ごせる様になってくれれば…」
俺にそう愚痴を言う様な口調で説明してくる。
革新派…か。
たくさんの食料を持って、どこへ行ったのだろうか?
新しい森に行ったのか、それとも人が集まる街へ行ったのか。
だがおそらく、どこもエルフ族を快く迎えてくれる国はないだろう…。
革新派のエルフの人達がどうなったのかも気になったが、今はリエスさんを含めた保守派の人達だろう。
「…そこまでリエスさんが情報を出してくれたんです。俺も隠し事はしません、もっと詳しく状況を教えます」
俺はそう切り出すと、リエスさんは俺の事を見てくる。
俺はそんなリエスさんに、まずこの森の外の状況を話して海の向こうにあるジーグの事を、そしてジーグの者達が行おうとしている事を説明していく。
その際に起こるであろう状況の変化と、ここエルフ族の集落に人族が戦力として連れて行こうとする人達が訪れる可能性がある事を伝える。
それを聞いたリエスさんは驚いた表情をすると、
「…どの道このままでは、ここは駄目になってしまうのか…」
少し悔しそうな表情をして空を見上げる。
「駄目にしたくないと俺は思って、ここにいるんです。…俺の話は信用出来ないと言われてしまったらそこまでですが、今俺と直接話をしたリエスさんが俺の事を他の皆に話してくれれば、少しでも信用してくれませんか?俺が出来る事なら、皆さんの力になりたいと思っています」
俺が先程の説明より更に真剣な気持ちを伝えようと話すと、リエスさんが見上げていた視線を俺に移して見つめてくる。
そして、
「何でそこまで我らに関わろうとしてくる?」
リエスさんも真剣にそう質問をしてきた。
彼女の言葉を聞いた俺は、
「俺個人が亜人族を好きだからでもあるんですが、それ以上に普通に生きているだけで虐げられている亜人族の力になりたい、助けたいと思っているからですね」
思っている事を真剣に伝える。
すると、俺の言葉を聞いたリエスさんがキョトンとした表情をすると、
「…フフ、人族でも面白い者がいるのだな」
振り返りながらそう言って集落に向かって歩き出す。
前を向く瞬間、微かに笑った彼女の顔を見た俺は、
「…現金な奴だな」
彼女の笑顔を見ただけで、彼女達に何でもしたくなってしまった自分に呆れて呟いて彼女の追いかけて歩き出した。
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