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食事を終えたエルフ達がそれぞれの作業に戻るのを確認し、精霊ルーさんの意識もしっかりとした事を確認してから俺は階段を下りた。
広場の片隅に下りてくると、やはりまだ外から来た俺を警戒してか空気が張り詰めるのを感じる。
すると、
「…食糧の、助けは感謝する。しかしまだ貴様は信用し切る事が出来ない」
男性が俺に近づいてそう言ってくる。
俺は男性の言葉に、
「えぇ、それで構いませんよ。少しでも認めて貰えれば良いです。もし自分に発言権があるのならば、これからの事について、重要な話があり話し合いがしたいという事を心に留めておいて欲しいです」
そう言い返すと、一礼して歩き出す。
俺の言葉を聞いていたエルフの人達は、少し緊張して動きを止めてしまう事があるが俺から逃げ出す事は無くなった。
少しでも彼らと友好な関係を築けているのなら良いんだがな…。
俺はそう思いながらエルフの集落を出ると、
「リエスさん、捕まえていたあの人達はどんな感じか知っていますか?」
俺は後ろを歩いているリエスさんにそう質問をする、
すると、
「私はあの者達の監視はしていない。直接見に行った方が良いだろう」
リエスさんがそう言って、少し俺の前に出てくる。
しかし、
「一応昨日道は覚えましたよ、あの茂みに入って進んでいけば良いんですよね?」
俺はそう言って草が生い茂っている場所を指差すと、
「…そこから進んでも駄目だ」
リエスさんがそう言って俺が指差した茂みよりもう少し奥の方に歩き進んでいく。
あれ、そうだったか?
俺は自分の記憶を思い出しつつも、リエスさんの後に付いて行く。
どう見ても昨日とは違う道を歩いてると思うのだが…。
そう考えながらも、リエスさんの後を付いて行く。
すると、
「ぁ゛~…」
「ぅ゛ぅ…」
何というか、息を吸ってそのまま吐き出している様な、生気を感じない声が聞こえてきた…。
そして声の方に進んでいくと、
「…本当だ。…んん?」
昨日俺が捕まっていた場所までやって来る事が出来た。
リエスさんの言う通り、俺の方が間違っていたんだな。
俺はそう思いつつ、
「えっと、おはようございます」
監視としているエルフに挨拶をすると、
「…ふん」
俺に一度視線を向けてから、すぐに嫌がる様に視線を外してくる女性…。
彼女は村での食糧の事も知らないだろうし、扱いが昨日と一緒でも仕方がないだろう。
俺はそう思い、
「少し彼らの様子を見に来たのですが、何か異常はありませんか?」
そう質問をしてみると、
「…何もない」
流石に必要だと判断したのか、俺の質問に答えてくれる女性。
そんな彼女にお礼を言いつつ、
「彼らの事を調べても良いですか?」
監視の女性と、リエスさんにそう聞く。
俺の言葉を聞いたリエスさんと監視の女性が互いの事を見てアイコンタクトを送り合うと、
「勝手にしろ」
「だが、変な真似はするな」
そう言ってくる女性とリエスさん…。
「ありがとうございます」
俺は2人に感謝しつつ、木で出来た檻にいる男性に近づき懐を漁り始める。
何か情報とか無いだろうか?
俺がそう思っていると、手に何かが当たる。
それを摘んで手を男の懐から抜き出してみると、
「…冒険者カードだ。おそらく第二級冒険者、結構実績があるらしいな…」
俺は冒険者カードに記されているマークを見ながらそう呟く。
文字は読めないが、それでもマークだけで分かる情報もある。
俺はそれを少し確認した後、冒険者カードを横の地面に置き更に男が腰に付けていたポーチを外して中身を確認する。
あまり多くは無い金銭が入っている袋に、回復薬が3本、装備を手入れする為の油と砥石。
その他にも何か入っているが、どれも普通に市場に出回っている物だろう。
次に男性の仲間の女性を見るが、女性の懐を弄る趣味は無い。
この人は放っておこう、その代わりもっと情報を持っていそうな人達を剥いででも情報を得よう。
俺はそう思い移動して、今度は別の檻の男達の懐や、持っていた荷物をどんどん確認していく。
どの男達も普通の格好をしているが、触っている布が良い物だというのを触りながら理解する。
おそらく冒険者ではないだろうと思っていると、1人の男の懐から何度も折り畳まれている紙が出てくる。
それを開いてみると、何かの契約書だと察する。
やはり、エルフ達を捕まえに来た違法な奴隷商人達だろうか?
確認するためには、やはりブルクハルトさんにこの者達と荷物などを持って行った方が良いだろうな。
俺はそう考え、
「ありがとうございました。これは俺が預かっていても良いですか?」
リエスさんと監視の女性にそう質問をすると、2人は顔を見合わせた後、
「それがどういう物なのかの説明をしろ、それを聞いてから判断する」
リエスさんがそう言ってくる。
それを聞いた俺は、冒険者カードや書類を手に取りどういう物なのかを説明した。
俺の説明を聞いた結果、大した物では無い事を理解してくれて俺が持っていても良い事になった。
説明を聞いて、本当に俺の説明通りの物か気になっていたようだが、所詮は紙という事で問題は無いと判断された様だ。
それらの受け取ると、俺はリエスさんにお願いしてまた集落に戻り始める。
戻っている間に辺りを確認したり目立つ様な植物を確認したりしていると、
「…無駄だ」
前を歩ているリエスさんがいきなりそんな事を言ってくる。
「何が無駄なんですか?」
俺がそう聞き返すと、リエスさんは立ち止まって、
「森の道を覚えようとしているのは、無駄だと言っている。この森は生きているんだ」
そう言って空を見上げる。
森が生きているという事は、どういう事なんだろう?
俺がリエスさんの言った事に疑問を感じていると、
「…ここは不帰の森。足を踏み入れれば最後、この森に住んでいる我々エルフか、この森で生まれこの森で最期を迎える精霊達に道案内を頼まなければ帰る事は出来ない」
そんな説明をされた。
だから、俺が先に行こうとした道は間違っていると言われたのか…。
俺がそんな感想を抱いていると、
「見てみろ」
リエスさんがそう言って森に生えている一本の木を指差す。
彼女が指差した木に視線を向けるが、特に何か特別に見る様なモノでも無い。
俺がそう思った瞬間、木が僅かに動いたのに気が付いた。
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