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シルの登場に、俺はもう少しどうにかならないかと思っていると、
「じょ、上位精霊ッ!?」
「は、はは~~!」
リエスさんが驚愕して椅子を倒す勢いで立ち上がり、精霊は平伏した様な声を出して床に伏せる。
突然の2人の反応に驚いていると、
「あ、あんた上位精霊を使役しているのッ?!」
何故かリエスさんが少し恐れている様な様子でシルの事を見ながらそう聞いてくる。
俺は彼女の問いに、
「えっと何度も言いますけど、使役では無く契約ですよ」
俺は訂正しつつ、
「シ、シル?もう少ししっかり出来ないか?彼女達はシルの事を凄い人と認識しているんだ。威厳を出せとは言わないが、せめて礼儀くらいはしっかりしてくれるとありがたいのだが…」
シルに小声でそうお願いをすると、
「は~い」
シルは俺の願いを聞き入れてくれて、空中で姿勢を正すと、
「初めまして~、風の精霊シルフのシルです~。趣味は~、お昼寝をしながら風に乗って彷徨う事です~」
そんな自己紹介をした…。
それを聞いたリエスさんと精霊は、
「わ、私はリエス。この子は精霊ルー」
「ルーです!」
シルの自己紹介に、自分達も名を告げる。
それを聞いたシルが、よろしくね~と言っていると、
「上位精霊…見た事も無かったがこの様な形で出会う事が出来るとは…」
リエスさんが感動した様にそう言い、
「凄い凄い!」
精霊ルーはシルの周りを飛んでシルを褒め続けている。
というか、あの精霊の名前はルーと言うのか。
少しだけではあるが会話したのにも関わらず名前を知らなかったのに、シルが登場しただけで名前が聞き出せたと言うのは、少し残念な様な気持ちがする…。
俺はそんな事を思いつつも、
「上位精霊と精霊の違いって、単純なスキルの違いとかではないんですか?」
リエスさんにそう質問をする。
一応「UFO」の世界でもシルの様な実体がある精霊と、精霊ルーさんの様に実体が無い様な精霊と区分されていたが、この世界では何が違うのだろうか?
単純に使える魔法やスキルの数であるなら、「UFO」と同じであるが…。
俺がそう思っていると、
「まず生きている年数が桁違いだ。ここまで実体が成長しているとなると、500年は生きていると見て良いだろう。それに貴様が言う通り、使える術の数も系統も違う。まずルーの様な精霊は特定の属性に関する術が使えない。しかし上位精霊は自身に合った属性に特化している」
リエスさんがシルを見ながら説明をしてくれる。
「そして風の精霊シルフとまで昇華している彼女は、おそらく上位精霊の中でも実力があるという事だ。ただの精霊としての認識では無く、風という属性を司る精霊、シルフとしての1つの種族として存在している」
更に続けて説明してきた。
なるほど、精霊の事を知っているからこそ、シルの存在に驚いているのだろう。
俺も勉強不足だったな。
リエスさんの言葉を聞いて反省していると、
「凄く褒められてるけど~、そんなに凄いモノでも無いよ~。長生きした結果~、色々と出来る様になっただけだから~」
シルがリエスさんにそう言いながら、手を左右に振っている。
それに対してリエスさんと精霊ルーさんが反論し、シルはのほほんと眠そうにしながら2人の話を聞いていた。
俺はそんな精霊達の会話を聞きながら、下で食事を楽しんでいるエルフの人達を眺める。
そんな光景を眺めながら時間を過ごしていき、やがてエルフの人達は満腹になったのか穏やかな、幸せそうな笑顔を浮かべていた。
食事をしていた時は、子供達を安心させる様に作っていた笑顔だったが、今は本当に心から笑っている様に見える。
俺はそう思いながら、隣に視線を向ける。
視線の先には、
「…ルー…何度も何度も……失礼だ…ぞ」
「ふわぁ~…ねむ…ねむ…」
眠そうにしているリエスさんと、すでに寝ているのか座っているリエスさんの太ももの上に降りて動かなくなっている精霊ルーさん。
そして、
「すぅ~、んぅ~…」
シルはすでにぐっすりだ…。
シルに誘われて寝てしまったリエスさんに布でも掛けようかと考えるが、それで起こしてしまうのは申し訳ないし、森の暖かさと頬を撫でる様に吹く風でちょうど良い気持ち良さがある。
俺はそんな感想を抱きながら、シルを塔へと戻す。
さて、俺はどうすればいいだろうか?
下を見ても、皆が使った器を洗い始めているエルフ達が見える。
リエスさんが寝ているし、勝手に行動するのも体裁が悪い。
それに俺が勝手に動いた所為で、リエスさんが監視の任が出来ていないと思われるのも申し訳ない。
のんびりしている暇はないと思うのだが、今は仕方がないと割り切ろう。
俺はそう思うと、椅子に座り改めてエルフの集落を眺めてみる。
太い大木に木の杭が打ちこまれて枝と杭で階段が作れており、扉がある所は広くは無い踊り場がある。
手すりが無い故に子供は大丈夫なのだろうかと、少し心配してしまうがどうなのだろうか?
他にも扉が無い木に杭が打ちこまれているのが見えるが、おそらくあれは隣人の住んでいる木に行く為の近道的なモノだろう。
俺はそう思いつつ、今度は少し下を見る。
昨日見た感じでは集落の中心には何も置いてはいなかったが、今は食事を作る為に色々な物が置かれている。
あれはどこに仕舞っているんだろうか?
俺がそんな疑問を持っていると、
「ん…ハッ!!?」
隣で寝息を立てていたリエスさんが目を覚まし、
「うにゃ~…!」
太ももにいた精霊ルーさんを落として椅子から立ち上がる。
しかし焦った表情で俺の事を視界に入れると、
「…どれくらい寝ていた?」
少し安心した様子で俺にそう質問をしてくる。
「ほんの少しの時間ですよ。…昨日の事もありますし、お疲れなんでしょうね」
俺がそう言うと、リエスさんは少し表情を歪めて、
「気を抜いてしまった…」
反省する様に、自身を戒める様にそう呟く。
しかし呟きを言った後、
「起きろルー」
床に転がっている精霊を起こし始める。
リエスさんが声を掛けると、精霊ルーさんが欠伸をした後にゆらゆらと動き出し、
「おはよ~…」
挨拶をしてくる。
それを聞いた俺は、今のふとした光景がエルフの集落の普段の光景なのではないだろうかと思いながら、精霊ルーさんがしっかりと目を覚ますのを、リエスさんと一緒に待っていた。
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