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俺の隣に座ったシェーファと一緒に、リエスさんから貰った葉の包みを開けると、
「エルフの主食って、保存食みたいな感じなんだな」
「はい、元々私達エルフは動物をあまり好んで食べる訳では無いので、主に植物系の物を食べております。しかしこれは…」
色は白く、所々に焼いた焦げみたいな色があり、形は四角。
薄く、顔を近づけてみるとほのかに甘い匂いがしてくる。
「シェーファはあまり知らない物か?」
包みを開けて中身を見たシェーファは、少し難しそうな顔をして食べ物を見ている。
俺の質問を聞いたシェーファは、
「い、いえ。見た目は私も知っているのですが、ただ何故湿っているのか気になりまして…」
そう答える。
確かに、受け取った時に葉の包みがしっとりしていたし、クラッカーの様な食べ物も少し柔らかくなっている。
俺がそう思っていると、
「ヴァルダ様、1つ頂いてもよろしいでしょうか?」
シェーファがそう聞いてくる。
「構わないぞ、一緒に食べようか」
俺がそう言うと、シェーファは包みを貸して欲しいと言ってきて、俺は彼女に葉の包みを渡す。
シェーファは俺から包みを受け取ると、食べ物に直接触れない様に器用にそれを2つに割ると、包んでいた葉も同様に切って手が汚れない様に持てる様にしてくれる。
慣れているのだろうか?
俺がそう思いながら見ていると、
「どうぞヴァルダ様」
シェーファが割れた片方の食べ物を俺に差し出してくる。
「ありがとう。慣れているんだな」
お礼の言葉に続いてそう質問をすると、シェーファは少し笑って、
「はい、少し柔らかい所為で形が不格好ではありますが…」
そう言う。
「いや、十分綺麗に割れていると思うが…。いただきます」
俺はシェーファの言葉を少しだけ否定して、クラッカーの様な食べ物を一齧りする。
しっとりをしたクッキーを食べている感じで、噛んでいく度にほのかに素材の甘さが感じられる。
「甘味が少し薄いですね。単純な食糧不足か、それともこれを作った人の好みでしょうか?」
俺が食べながら味の感想を思っていると、シェーファがそう呟く。
食糧不足か、リエスさんの好み…か。
食糧不足であれば、それを切り口に話し合いが出来るかもしれないな。
リエスさんの好みだったとしても、話題にはなるだろう。
「どうだろうか?明日にでも聞いてみるとしよう」
俺はそう言って食べ進める。
そうして少しだけ談笑しつつ食べ終えた俺とシェーファは、今俺がどの様な事をしているのか説明し、彼女にどう動けば良いだろうかと相談していた。
こう思うと、誰かにこうやって相談する事は無く、俺の状況説明に頷き再度確認をしてくるシェーファの姿を初めて見たかもしれないと、少し感動すると同時に不安も出てくる。
相談する事を、情けない主だと思われないか心配である。
俺が不安に思っていると、
「私の知っているエルフは、自分達エルフが種族の上位に立っていると思っています。理由は長寿と男女共に言える美しさ。それと精霊を使役して行う魔法です。他の種族には負けないと自負しています」
シェーファがそう説明を始める。
「しかしヴァルダ様が出会ったエルフ達は、おそらくそんな事を考えてなどいないでしょう。むしろ、エルフの長所が全て、奴隷としての資質が備わっていると感じているかもしれません。何があろうと、他者との関わりを持たず、例え種が滅びようとも森で生涯を終えようと思っていると感じられます」
なるほどと、シェーファの言葉を聞きながら今日の出来事を振り返りながら考える。
男性が少なかったのは、どの様な理由があるのか分からないが、彼らの鬼気迫る様子からはそれほどの覚悟が既にあるのかもしれないと思ってしまう。
しかし俺個人としての考えは、彼らを根絶やしにしたくないと思ってしまう。
彼らが半端な覚悟で自分達の事を考えている訳では無いと思うが、それでもエルフ族を根絶させてしまうのはこの世界で大きな損失だ。
「シェーファ、もしエルフの森をここへ移動させるとしたら管理を任せても良いだろうか?」
俺がそう言うと、シェーファは少し考える仕草をして、
「…大丈夫でしょう。管理と言っても、おそらく集落の族長などがまとめてくれるでしょうから。私は、それを統括する程度の事です」
そう言ってくれる。
彼女の言葉を聞き、エルフの皆と話し合う時には様々な提案をしてみようと思う。
状況の報告を兼ての、戦争に参加するかどうかの確認。
もし参加するのなら、俺の元に来る気は無いかと相談。
来ると言って貰えれば、彼らと契約するだけ。
来ないと言えば、ある程度の装備や食料を置いて行こう。
戦争自体に参加する気が無いと言うのなら、被害が及ばない様に皆と相談するしかないな。
「うん、ある程度考えは纏まった。ありがとう、シェーファ」
俺が感謝の言葉を伝えると、シェーファは微笑みながら、
「私に出来る事でしたら、どの様な事でも相談してください」
そう言ってくれる。
シェーファに相談している間に夜も結構深くなってきていると感じた俺は、
「…あの食べ物しか食べていないが、空腹感が無いな。これなら、風呂に入って寝れそうだ」
改めて、少しの量しか食べていないのに空腹感を感じない事に気づいてそう言う。
それを聞いたシェーファは、
「…お背中、流しましょうか?」
少し頬を紅く染めてそう聞いてきた。
こういう誘いを何度も断るのもシェーファに失礼だろうし、互いにタオルを付けていれば問題無いかもしれないな…。
俺がそんな事を思っていると、
「いけません。それは、私のお仕事です」
「「!?」」
突然聞こえてきた声に驚き、俺とシェーファは驚いて声がした方に勢いよく顔を向ける。
そこには、扉の前で綺麗に立っているセシリアがいた。
少し遠くから見ると、人形みたいだな…。
そう思わせる程、セシリアの佇まいは優雅で美しく気品を感じられる。
俺がそんな事を思っていると、
「セシリア?今日は私がヴァルダ様のお隣にいて良い日ですよね?」
ソファに座っていたシェーファが、扉の前にいるセシリアにそう言う。
…そんな日があったのか?
シェーファの言葉を気にしていると、
「その日が、もう終わりました。今からは、私の時間です。ヴァルダ様、僭越ながら私がお背中をお流しいたします」
セシリアがそう言って、ふんわりと膨らんでいるスカートを少し持ち上げてお辞儀をした…。
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