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換気などもされていなかったのだろうと思う程、開けた扉から入る光でふよふよと浮かぶ埃が見えてしまう。
僅かにはめ込まれている窓が見えるが、大きさも手鏡程度のサイズ…。
「…ここ、入らないといけませんか?」
俺が室内を指差しながらそう聞くと、リエスさんはキッと俺の事を睨みつけて、
「集落に入る事を許可されただけでありがたいと思え」
そう言い放ち、
「早く入れ」
続けてそう言ってきた…。
我慢だ、ここで反抗なんてしたらまた振り出しに戻ってしまう…。
俺はそう思い、黙って室内へと足を踏み込む。
室内に入ると、埃っぽさで息をするのすら気持ち悪く感じ、
「…ここ、どれくらい使われてないんですか?」
リエスさんにそう質問をする。
俺の質問を聞いたリエスさんは、
「…今日はこれを食って寝ろ」
俺の問いに答える事をせず、何やら俺に放ってくる。
慌ててそれを受け止めると、少し湿っている葉の包みだった。
そして、無情にももう一度質問しようとする前に扉が閉まってしまった…。
…寝ろと言ったって事は、もう今日は俺と会う事は無いって事か?
「………誰も見ていないなら、一回帰るか」
俺は一人寂しくそう呟くと、とりあえずリエスさんから貰った葉の包みをアイテムの入った袋に仕舞い、本の中の世界を開いて、
「帰還」
そう呟き、塔へと戻った。
塔に戻って来ると、綺麗に掃除をされている部屋に感動し、
「清潔って、とても大事な事だよな…」
改めて感じた感動を噛み締めつつ、一度ソファに深く座る。
すると、
コンコン
部屋の扉がノックされる。
セシリアだろうか?
俺はそう思いつつ、
「どうぞ」
扉の向こうにいる人物に向かって、ちゃんと聞こえる様に少し大きく声を出す。
俺がそう言うと、
「失礼します」
予想とは違い、シェーファが部屋へと入ってくる。
「おかえりなさいませヴァルダ様」
そう言って俺の側に来るシェーファに、
「…シェーファに会うのも久しぶりに感じるな。申し訳ないな、いつも塔の事を任せてしまって…」
苦笑をしながらそう言うと、シェーファは僅かに首を振り、
「それはヴァルダ様がお忙しい故です。お気になさらないでください」
そう言ってくれる。
しかし、その言葉に甘えるだけではいけないと思い、
「そんな事は出来ない。いつもシェーファやセシリア達には助けられているし、感謝してもしきれない程塔の皆は頑張ってくれている」
シェーファの言葉に、俺はそう返す。
すると、
「では、少し我儘を言っても構いませんでしょうか?」
シェーファが少し近づいて、座っている俺の視線に合わせる様に顔を近づけてくる…。
先程までいたエルフの人達には申し訳ないが、やはりシェーファの美しさは一線を画している。
「あ、あぁ。それくらい全然構わない…ぞ?………シェーファ??」
俺がシェーファの美しさに見惚れながら返答をしていると、シェーファが少し目を細めて俺の首元に顔を近づけ、更にそこから右腕の方まで匂いを嗅ぐ様に移動している。
匂いを嗅ぐのに、髪が邪魔にならない様に手で髪を抑えている姿も美しい。
そう思いつつ突然の行動に驚いた俺は、どうしたのだろうかと思いながらも黙って彼女の行動を見ていると、
「…ヴァルダ様、エルフの匂いがします」
シェーファが少し拗ねた表情でそう言ってきた…。
え、何で分かったの?
匂いで分かるものなのか?
俺がそう思っていると、
「エルフ族特有の薬草を刻んだり磨り潰したりした匂い、乾燥させた木や根の木香の匂い。そしてエルフ族の主食の匂いがします」
シェーファが説明をしてくれる。
だが、俺が自分の服の匂いを嗅いでもよく分からない…。
しかしエルフ族の主食の話は心当たりがあり、俺はシェーファに少し待ってくれる様に頼みアイテム袋から先程入れたリエスさんから頂いた葉の包み物を取り出す。
すると、
「…私との時間は少ないのに、他のエルフとの時間はお作りになったのですね…」
シェーファが悲しそうな声でそう言ってくる。
シェーファの言葉に、俺はうぐぅッと声を出しそうになる。
どんな理由があったにせよ、シェーファ達をないがしろにして家族では無い者達を優先した事に罪悪感を感じてしまう。
「すまない。自覚はあったが、やはり言葉にされると俺がシェーファ達の事を後回しにしていたと感じさせてしまうな…」
俺がそう言うと、
「も、申し訳ありませんヴァルダ様!決してそういう意味で言ったのでは無く、最近ご一緒に過ごす時間が減って寂しかったので、拗ねて言ってみただけです!ヴァルダ様が謝る必要などありません!」
シェーファが慌てて俺にそう言ってくれるが、
「いや、シェーファの言葉が正しい。いくら外の世界で忙しい状況になったとしても、それを理由にシェーファ達との時間を割く事自体、塔の主としての自覚が足りなかった…。今度は改めて、もっと塔の皆との時間も作っていこう。ありがとうシェーファ。シェーファのお陰で、目を覚ます事が出来た」
俺はむしろ塔の皆、彼女達に甘えて皆であれば大丈夫だろうと勝手に想像して、後回しにしていた事を自覚し、それでは彼らの主として駄目だと認識する事が出来た。
「え、えっとあの…その…」
俺の言葉にどういった返答をすれば良いのか、シェーファは焦った表情で視線を彷徨わせている。
「そうだな。ではまず、今日は残りの時間をシェーファと共に過ごそうか?」
俺がそう聞くと、焦った表情をしていたシェーファが動きを止め、
「よ、よろしいのですか?」
そんな事を聞いてくる。
「むしろ、俺の方からお願いしたいくらいだ。こんな俺でも、良いだろうか?」
俺がシェーファにそう聞くと、彼女ははいッと返事をして笑顔になる。
…良かった、彼女の気持ちを聞いて自分が過ちを犯している事に気づけて。
このまま過ちに気づけていなかったら、もしかしたら外の世界の亜人族を救う前に俺自身が駄目になっていたかもしれない。
俺はそう思いながら、
「シェーファ、何がしたい?」
彼女に隣に座ってくれとソファをポンポン叩きながら声を掛けると、
「ヴァルダ様とのお時間であれば、何もしなくても嬉しいです」
それでは本末転倒なのでは?と思ってしまう事を言いながら、シェーファは俺の隣に座った。
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