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見張りの女性が仲間を連れてくると、仲間達は驚いた様子で少し怖がりながら廃人に近い状態になっている人達を観察し始める。
すると、
「…貴様だけは普通の様だな」
駆け付けたエルフの1人の男性が、俺にそう言ってくる。
それもそうだろう、この惨状は俺がやったから…。
「そうですね。この人達が少し気に入らなかったので、怒ってしまいました」
俺はそう白状をすると、見張りの女性も含めてエルフ達がどよめく。
そんな彼らに、
「もしこの人達の処分で困っているなら、俺に任せてもらえないでしょうか?おそらくもう自分の意思で立ち上がる事すら不可能だと思うので、ここに居させても貴方達の迷惑になるだけでしょうし」
俺はそう進言する。
適当に帝都に持っていって、ブルクハルトさんに処理をお任せしようと思っていると、
「…まだ貴様の言葉が本当であるか確信出来ない、その為彼らの身柄はひとまず預からせてもらおう」
エルフの男性がそう言う。
彼らがそう言うのなら、おれは従うとしよう。
俺はその言葉に無言で頷くと、
「…それと貴様の事で話し合いをした結果、信用は出来ないが森や私達に危害を加える様な人物では無い事が、精霊達の意見だ。その結果として、監視を付けるが自由にはしてやろう」
良い知らせを言ってくれる。
良かった、これで少しでも彼らと話が出来る可能性が増えた。
精霊達に感謝しなければ。
俺がそう思っていると、
「監視は彼女に任せた。言っておくが彼女はこの森の中でもかなりの実力者だ、怪しい行動をするものではないぞ」
男性がそう言う。
その言葉と同時に、俺の目の前まで歩いてきたのは、
「なるほど、だから気配が…」
俺の気配察知スキルを掻い潜ったエルフの女性だった。
「…リエスだ」
俺の前に立っている女性はそう呟く。
どうやら簡潔な自己紹介をしてくれた様だ。
俺も自己紹介をしようと思ったのだが…。
「あの、まずはこれを外して貰えると嬉しいんですが…」
手首を縛られている状態で挨拶をするのもどうかと思いそう声を出すと、前に立っているリエスさんが腰に差してある短剣を抜くと、俺の手首を縛っている蔓を切ってくれる。
俺は少し凝ってしまった手首を動かした後、
「ありがとうございます。俺はビステルと言います」
改めて彼女に自己紹介をする。
しかしリエスさんは俺の事を一瞥すると、振り返って歩き始めてしまった。
俺はそんな彼女に付いて行こうと思い、
「この人達は、このまま檻の中で放置しておいてください。おそらく食べ物も食べない状態だと思いますので、食糧を運ぶ必要もありません」
周りにいるエルフの人達にそう伝えると、俺は急いでリエスさんを後を追いかける。
リエスさんに追いつくと、俺は2人分の距離を取って彼女の後ろを歩く。
彼女の右肩辺りに、彼女と並走する様に飛んでいる光る物体も気になる。
精霊と言っていたが、他の精霊とは少し違う気がする。
前にジーグに行く時にウンディーネに会ったが、彼女は普通に体があった。
しかし目の前でゆらゆらと飛んでいる精霊は、光る球体で実体が分からない精霊は知らない。
…どういう事なのだろうか?
俺がそう思っていると、
「…勝手にしろ」
何やら精霊にそう言い放ったリエスさん。
精霊と何か話していたんだろうか?
俺がそう思っていると、
「ねぇねぇ、何でそんなに精霊を使役しているの?」
精霊が俺の目の前に飛んで来て、突然そんな事を質問してきた。
それを聞いた俺は、
「使役しているんじゃなくて、契約をしているんです。俺は彼らに安住の地と生活、その他諸々を約束する代わり、力を貸してくれる様に契約したんです」
そう答える。
すると、
「…安住の地?」
何やら凄く興味を引いたらしく、目の前にいた精霊は更に俺に近づいてきた…。
視界が全部精霊に覆われて、凄く眩しくて前も見えない…。
俺がそう思って目を細めていると、
「安住の地って、どこにあるの?」
凄く真剣な声で、俺に質問をしてくる精霊。
どこにあるのと聞かれたら、本の中の世界としか言い様が無いが…。
それを正直に話す訳にも行かず、俺は首を振って、
「それを教える事は出来ませんよ。いくら貴方達に信頼されたいと思っていても、自分の大切な人達が危ない目に合わせてしまう様な事は出来ません。すみませんが、その問いには答える事が出来ません」
俺も真剣にそう答える。
俺の答えを聞いた精霊は、
「…確かにそうだよね~」
そう言って俺から少し離れると、ふわふわと飛んで行きリエスさんの元に戻っていく。
その光景を見ていると、2人がまた何かしら話をし始めたのか精霊に僅かに顔を向けているリエスさんの横顔が少しだけ見える。
少し険しい表情から、まるで疑っているような視線を俺に送ってくる…。
いったい、精霊と何を話しているのだろうか?
そんな様子を観察しつつ彼女達の後を追いかけて、またエルフの集落へと戻って来た。
しかしやはり、どんなに入る事を許可されたとしても歓迎はされていない様だ。
木の上から、遠目で俺の事を見てくる視線。
近づこうとする者はおらず、むしろ嫌悪している視線を送ってくる。
大人達は俺を恨めしそうな視線を送って来て、子供達は怯えた顔をしている。
まずどうすればこの状態が緩和するかだな。
話し合いをしたくても、誰も近づいて来ない事では話をする事も出来ない…。
変にエルフの皆を刺激しない様に、友好的な存在と認めて貰う方法は…。
俺がそう思っていると、
「…着いたぞ」
リエスさんがそう言って立ち止まる。
どこに着いたのだろうかと思いつつ視線を上げるが、
「…えっと、ここは?」
集落の片隅に立つ樹木しか見えず、ここがどういった場所なのか理解出来なかった俺は、リエスさんに質問をする。
すると、俺の質問を聞いたリエスさんは俺の問いには答えずに、樹木に刺さっている木の杭に足を乗せてそのまま階段を上って行ってしまう。
仕方がなく俺も彼女と同じ様に木の杭に足を乗せて階段を上がろうとすると、結構バランスが必要だと感じて左手を樹木の幹に添えながら、ゆっくりと階段を上っていく。
そうして少し遅れてリエスさんの元まで上がって来ると、
「入れ」
そう言われて扉が開かれる…。
そこにあったのは、部屋とは呼べない程汚れている独房の様な場所だった。
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