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少しして部屋から飛び出してきたゲルテンホさんは、今度は娘さんの片手で持てるハンマーで殴られてしまった…。
ドワーフにとっては、あんなの子供のパンチと変わらないから放っておいてと言われたので、そんな光景を眺めていた。
ギルベルタさんは恥ずかしそうに顔を赤く染めていたが、お父さんであるゲルテンホさんは久しぶりの娘さんとの戯れ?に嬉しそうだ。
傍から見たら、ハンマーで殴られて嬉しそうにしている髭がモジャモジャなおっさんだから、凄く怪しく感じる。
そうして時間は過ぎていき、いつの間にか窓から見える空が暗くなってしまっている。
流石にこれ以上長居するのは迷惑だと思い、
「それでは、もう遅くなってしまいましたので帰りますね」
俺がそう言って椅子から立ち上がると、
「あらあら、夕食の準備をしてるから食べていって」
デマリーザさんがそう言ってテーブルの上に料理を運んでくる…。
量が凄いな…。
俺がそう思っていると、
「ぜぇ…ぜぇ……反省した?」
「………うむ」
ようやくお仕置きが終わったらしく、息を荒げてた状態で父に質問するギルベルタさん。
そんな彼女の言葉に、ゲルテンホさんは頷きながら返事をする。
どうやら少しは話せる様になったのか、何やらコソコソと話をしている。
おそらく、今までの誤解を解いているのだろう。
俺がそう思っていると、デマリーザさんが2人に声を掛けて食事が始まる。
ギルベルタさんはやはり帝都に興味があったらしく、亜人族の話は触れないで質問をしてくる。
俺がそれに答えていると、ゲルテンホさんとデマリーザさんが更に俺の答えから詳しい説明をお願いされてしまった。
少し尋問の様に感じながらも、質問された事に答えていく。
それにしても、皆お酒を飲んでいる事に驚きだ。
この世界では成人年齢が15歳らしく、お酒を飲む事自体は禁止されていない。
しかし、ギルベルタさんは人族が飲んでいるお酒よりもっと度数が強いのを飲んでいる気がする。
少し出されてしまったお酒の匂いを嗅いだら、アルコールの刺激が結構強かった。
凄いな…。
ドワーフ家族のお酒事情に驚きながらも時間は経過し、夕食は終わった。
流石にこれで帰れるだろうと思っていると今度は、
「…地下に来い」
ゲルテンホさんが俺にそう言って、部屋に置いてあった仕事の荷物を持って扉を開く。
地下があったのかと思いつつ、
「わ、分かりました」
俺は仕方がなくゲルテンホさんの後に続いて扉を通ると、扉の向こう側は地下へと続く階段があった。
階段は暗いが、何やら階段の下の方が明るく見える。
俺は下に落ちない様に壁に手を添えながら階段を下り始める。
階段の下まで辿り着くと、ランタンの様なガラスで覆われた筒に何やら光っている物が入っている…。
何だろうこれ?
俺がそう思っていると、
「入れ」
俺より先に階段を下りて部屋に入っていたゲルテンホさんが、部屋の中からそう声を掛けてくる。
「失礼します」
俺がそう言って部屋に入ると、室内は基本的に薄暗かった。
しかし、ある一点は激しく明るい。
あれは、炉と金床か。
炉には炎があり、そこだけしか明かりは無い。
後は光源は無く、炉から一番遠い場所は結構暗い。
俺がそう思っていると、
「ドワーフは金属や鉱石の採掘を得意としているが、鍛冶の腕もある。ワシ等ドワーフは、昼は鉱山で採掘をし夜は鍛冶をする」
ゲルテンホさんがそう言う。
俺はその言葉に、
「暗くは無いのですか?鍛冶をするには暗すぎる気がしますが…」
そう質問をすると、
「暗い方が良い、金属がどれくらい熱されているか分かる」
ゲルテンホさんがそう言う。
そして、
「好きなのを持っていけ。ギルベルタを助けてくれた礼だ」
ゲルテンホさんが部屋の隅を指差しながらそう言った。
彼が指差す方を見ると、丁寧だが隙間が無いと言って良い程剣が並べられていた。
見ると、どの剣も全て帝都では高級品として扱われている様な最高クラスの出来の逸品だ。
これほどの一振り、おそらくこの世界で作れる人は数少ないだろう。
いくら娘さんを助けたとはいえ、別に命を助けた訳では無い。
これを貰う事は出来ない。
俺はそう思い、
「確かにギルベルタさんを助けましたが、命に関わる程の事ではありませんでした。ここに並べられている品々は、全てそれほど価値がある物です。有り難い事ですが、これは受け取れません」
ゲルテンホさんにそう言う。
もしかしたら、夕食はデマリーザさんからのお礼の意味も含まれていたのかもしれない。
俺がそう思っていると、
「………ならば、何が欲しいのだ?言っておくが、ワシの家は金持ちじゃない。金銭を要求しても意味はないぞ」
ゲルテンホさんがそう言ってくる。
その言葉に、何かを要求しなければいけないのかと思い考え始める。
まず金銭を要求するつもりは無いし、俺個人が今欲しいのはこの近辺の地図なのだが、それはこの場合要求する様なモノでは無い。
俺はそう思い、
「一つだけ、良いですか?」
ゲルテンホさんの様子を窺う様にそう質問をする。
それを聞いたゲルテンホさんは、黙々と炉などの準備をしながら、
「………言ってみろ」
俺の事を見ずにそう言ってくる。
仕事の準備に夢中なゲルテンホさんの様子を見て今なら大丈夫だろうと思い、アイテムが入っている袋から俺が作った一振りの剣を取り出す。
それをゲルテンホさんに見える様に剣を少し前に動かすと、火の調節をしていたゲルテンホさんの視線が俺の剣に注がれる。
「この剣と同じか、それ以上のモノは打てますか?」
俺がそう聞くと、ゲルテンホさんは剣にくっ付いてしまうんではないかと思わせるくらい顔を近づけて、
「…出来る」
ハッキリとそう言い切った。
「複数は?」
俺が更に聞くと、
「出来る」
ゲルテンホさんは食い気味に俺の言葉に返事をする。
「なら、それが欲しいです。俺はここに留まる事が出来ませんので、次にここへ来た際に受け取ります。素材は渡すので…」
「いらん。素材を含めて、ワシが負担する」
俺の言葉を遮って、俺に向かってそう言い切ったゲルテンホさんの瞳には、炉の炎に負けない炎が宿っていた。
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