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222頁

威厳があるというか、厳しそうなドワーフの男性の後を追いかけて街を歩き、少し騒がしい商店街通りから離れた地区に到着していた。

そこは、どの家からも煙突がありそこから煙が出ている。

検問所の門から見た時は、この国の建物の作りは帝都と同じ二階建てが多いと思っていたが、今俺がいる周辺の家は全て平屋だ。

そして家の中からは、まるで金属を叩いている様な甲高い音が少し聞こえてくる。

俺がそんな様子を見ていると、


「戻った」


前を歩いていた男性が一軒の家の扉を開いて中にそう声を掛けると、


「おかえりなさ~い」


中から布を持ったドワーフの女性が現れる。

先程助けたであろう女性のお母さんだろう、少し似ている。

髪の色とか、目元が優し気な所が。

俺がそう思ってドワーフの夫婦の様子を見ていると、


「あら、お客さん?」


夫の後ろに立っている俺に気づき、男性にそう聞く女性。

それを聞いた男性は、


「ギルベルタの事でな」


女性にそう言うと、


「あらあらまぁまぁッ!」


凄く嬉しそうな顔で俺の事を見てくる…。

絶対に勘違いされているのが分かる。

男性は女性から布を受け取ると、それで自身の顔や腕などを拭いて、


「入れ」


俺の事を見ずにそう言って、家の中へと入って行く。


「失礼します」


俺の事を凄くニコニコした笑みで見てくる女性に挨拶をすると、


「どうぞどうぞ、ゆっくりしていって~!」


女性は嬉しそうにそう言ってくる…。

俺はもう一度失礼しますと言ってから中に入ると、家の中は意外にも普通だった。

気になる事と言えば、おそらく男性の仕事道具であろう服やハンマーが置かれているくらいだ。

それ以外は至って普通に見える。

俺がそう思っていると、


「座れ」


男性が服を脱ぎながら、部屋の真ん中に置かれているテーブルを一瞥してそう言ってくる。

女性は家の扉を閉めた後、部屋の奥にあるキッチンに行って何やら支度をしている。


「…はい」


俺は一言返事をして椅子に座ると、


「あなた、そこに汚れた服を置くのは駄目ですよ~?」

「………はい」


そんな会話が行われて、俺の中で一気に男性の家の中での立場を察してしまう…。

…母は強し。

しかし、それでも男性は女性に注意された事を気をつけて服を纏めて部屋に置いてある籠の中に入れると、


「さて…」


未だに威厳がある様に対面の椅子に座り俺の事を黙って見つめてくる。

この感じが気まずいな、寡黙そうな感じだから気軽に話し掛けるのも出来なさそうだ…。

俺がそう思っていると、


「………」


何故かテーブルの上を気にし始める男性。

チラチラと女性とテーブルに視線を往復させる。

何を気にしているのだろか?

俺がそう思っていると、


「はい、あなた」

「…うむ」


女性がコップ2つと何やら陶器の様な物を持ってくる。

それをテーブルに置くと、男性がコップに手を伸ばす。

その瞬間、男性よりも速くコップと陶器に手を添える女性。

何故かニコニコと男性を見ている。


「………ありがとうございます」

「良いのよ~」


あっ…。

もう何も言うまい、男性が威厳を示せたのは家の外だけだったな…。

俺がそう思っていると、目の前の男性がコップに零れてしまうんじゃないかと思わせるくらいギリギリまで注ぐと、それを一気に呷る。

一気に飲み干したコップをテーブルに置くと深く息を吐き、


「それで、ギルベルタとはどういう関係なんだ?」


少しだけ饒舌に質問をしてきた。

その問いに、


「…どういう関係も何も、俺はたまたまここへ来ただけですので…。殴られそうになった彼女を助けようと思って行動しただけです。他意はありません」


俺はそう答えるしかなかった。

俺の中ではこれが真実であり、それ以上もそれ以下も無い。

しかし、


「…わざわざワシ等ドワーフを助ける物好きなど、なかなかおらん」


男性はそう言って、俺の事を疑った目で見ている。


「…この国の人達はあまり貴方達ドワーフを毛嫌いしている様には見えませんでしたが?俺は帝都からここへ来たので、それはもう見たくないし話す事すら憚られる光景を見ました。それに比べれば…」

「それはワシ等ドワーフが、この国では重要な道具という立場だからだ」


俺がこの国に来て感じた帝都との違いを男性に話そうとすると、男性は俺の言葉を遮ってそう言ってきた。


「道具?」


俺がそう聞くと、


「ここザルツェンは鉱山に集う者達で作られた国だ。ドワーフは鉱山の鉱石を掘るのに卓越し、鍛冶師としての腕もある。昔はワシ等ドワーフを道具の様に扱おうとしていた者がいたが、その当時はそんな扱いをされるくらいなら何もせずに死んでやるという者が多くてな。ワシ等の採る鉱石と鍛える武具がなければ衰退していくこの国で、それは死活問題になった。結果、ここザルツェンでドワーフは普通の人族か、それ以上に大事に接しないといけないという暗黙の了解が出来た」


男性はそう説明をしてくれた。

なるほど、だから重要な道具という訳か。

人々の心は亜人族であるドワーフを差別したいが、それでは自分達が生活出来なくなっていく。

故に我慢をして、無理をして接している。

俺はそう思いつつも、


「では何故あの男は、貴方のお子さんを殴ろうとしたんですか?大事にしないといけない、ドワーフなのに」


先程の光景を思い出してそう質問をする。

それを聞いた男性は、


「あれはおそらく、まだここへ来て浅い一獲千金を狙ったゴミ屑だろう。まだこの国の暗黙の了解を知らないくらい、日が浅い者だ」


そう答えて、またコップに液体を注ぐ。

なるほど、だから彼女を殴ろうとしたのだろうか。

俺がそう思っていると、


「あなた、その人ってどんなお方~?」


女性が俺達の元へ来て、笑顔でそう男性に質問をしている。

その笑顔とは反対に、空気は凄くピリピリしている…。

流石にそれを感じ取った男性は、少し怯えながら女性に子供を殴ろうとした男の外見や服装の情報を伝えると、


「ちょっと、買い忘れた物があったから、行ってくるわね~」


女性はそう言って家の扉を開ける。

その後ろ姿に、


「…いってらっしゃいませ」


男性は扉とは真反対のキッチンの方を見ながらそう言う。

俺は女性と男性の会話を聞きながら、2人の様子を見ていたのだが…。


「あの、貴方のハンマー…」

「…何も言うな」


女性が買い物に行くと言って出て行った扉を、俺は眺める事しか出来なかった…。


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