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検問の門から見える城下街は、とても賑わっている。
そして街並みも少し変わっており、山に沿う様に建てられているからか城に近いであろう奥の建物すら少し見える。
もう少し見てみたいと思い、俺はすぐに検問所へ行き身分をしっかりと証明した後、入国を許可された。
そうして中には行ってみると、まず目に入ったのは身長が少し低く髭が凄い、おそらくドワーフが歩いているのが見えた。
エルフの人達が亜人族として扱われていたから、おそらくドワーフも亜人族と分類されているだろう。
それでもあんなに堂々と歩いている姿を見ると、この国は亜人族差別があまり無いのだろうか?
そう考えながら少し道の端を歩いていると、
「ふざけんなこの愚図ッ!お前の所為で今日の報酬が貰えねぇじゃねぇかッ!」
「申し訳ありません!」
そんな声が聞こえてくる。
見ると、人族の男性がドワーフの女性に対して何やら怒っている様子だ。
ドワーフの女性は自身の倍以上はある袋を背負っており、そこから棒が何本か出ているのが見える。
そんな光景を、周りの人達は大した興味も示さずに淡々と自分達の行動をする。
…あれだけなら、仕事上のパートナー同士のいざこざで済まされるが…。
俺がそう思いながら注視していると、
「このポンコツがッ!」
人族の男性が腰に下げていた片手で持ちやすそうな槌、ハンマーを持つとそれをドワーフの女性に振るう!
流石にあれはおかしいと思いつつも、人が多い所為で2人の間に割り込む事は出来ないと判断し、威圧スキルを少しだけ強めに発動する!
その瞬間、街を歩いていた人達が腰を抜かして道に座り込む。
俺が見ていた人も例外では無く、膝から崩れる様に前に倒れ込み、先に座り込んでいたドワーフの女性に倒れかかるが寸前の所で女性が体を避けた故に、石畳に顔から倒れ込んでしまうが仕方がない。
しかし、街の人達が倒れている中には立っている事が出来ている人達がいる。
ドワーフの男性達だ。
おそらく、ブルクハルトさんと同様に死線を掻い潜って来た人達なのだろう。
少し表情を顰めてはいるが、倒れる事は無く立ち尽くしている。
すると、
「何だったんだ今の?」
「あの感じ、鉱山で瓦礫に押し潰される瞬間に似てんな…」
腰を抜かしていた人達が突然の事に戸惑いながらも、ゆっくりと立ち上がり始める。
それを確認し、改めて先程の人族の男性とドワーフの女性の様子を窺うと、
「え、えっと…大丈夫ですか?」
「………」
ドワーフの女性が倒れた拍子に気絶したのであろう男性の体を揺らしながらそう声を掛けていた。
…とりあえず、あの人に声を掛けてみるか。
俺はそう思い未だに男性の体を揺すっているドワーフの女性に近づき、
「その人はただ気絶してるだけだと思うので、少し時間が経過すれば自然と起きますよ」
そう声を掛けると、
「え?!あ、そ、そうなんですか…」
突然俺に話し掛けられた女性は驚いた様子で俺の言葉を信じる。
いきなり話しかけた俺の言葉を信じてしまう女性を見て、彼女は相当素直な人か人を疑い事をしない良い人なのか、逆に心配してしまう。
「さっき、この男に殴られそうになっていましたけど、大丈夫ですか?」
「は、はい…。元々は私の所為なので…」
俺が質問をすると、女性は少し表情を曇らせて答えてくれる。
何か仕事でミスでもしたのだろうか?
俺がそう思っていると、
「あ、あの…心配してくれてありがとうございます…」
ドワーフの女性は俺にそうお礼を言い、男性が起きる様に小さくだが声を掛け続けた。
俺は彼女が大丈夫だと言い、男性の身を案じているのならと思い、
「これを起きたら飲ませてあげてください」
回復薬を1つ彼女に差し出し、彼女が回復薬を受け取ると俺は彼女達から離れる為に歩き出す。
仕事のミスで熱が入り、カッとなって手が出てしまった可能性もある。
見た感じ職人気質そうな人だったし、ありえなくはない。
俺はそう思いつつも、やはり強引にでも助けた方が良かったのかと考えてしまう。
どのような理由があれ、女性を殴ろうとした人を見過ごせる訳も無い。
そう思っていると、
「お前さん、何者だ?」
目の前にドワーフの男性が立ちはだかる。
口元が見えない程の髭を蓄え、肩に担ぐ様に持っているハンマー、衣服には土汚れが付いており、何かしらの作業帰りだろうか?
俺は目の前の男性の様子を見つつ、
「どういう事でしょうか?」
白を切る様に、男性の言葉を聞き返す。
威圧スキルを使用したのがバレたのだろうか?
俺がそう思っていると、
「俺の娘に近づきやがって、どういうつもりだ?」
怒気を孕んだその言葉を聞き、俺は先程のドワーフの女性のお父さんなんだと察し、
「…見ていたんなら、助けに行ってあげた方が良かったんじゃないですか?」
少し進言してみる。
先程の光景を見ていて、何故俺に聞いてくるか謎だ。
まず先にやるべき事があるだろう。
そう思っていると、
「ワシとギルベルタは今、あまり顔を合わせん…」
目の前の男性がそう言ってくる…。
いやあまり顔を合わせなくても、あの場面では助けるべきだろう…。
そう思ってしまうが、家庭の事情があると考えて、
「…分かりました。ですが、俺と彼女は特に親しい訳ではありません。彼女が殴られそうになっていたから、助けようと思っただけです」
男性にこれ以上追及されない様に、真実を男性に伝える。
すると、
「…ドワーフがあれくらいで怪我などするか」
男性がそう言って俺に近づいてくる。
というか、片手で持てる位のハンマーで殴られても怪我をしないのか?
俺がそう思っていると、
「面ァ貸せ」
低い声でそう言われて、男性は俺の横を通り過ぎる。
…面を貸せなんて、随分と久しぶりに聞いたな。
まさか昔みたいに、人気が無い所で殴られるのだろうか?
と言っても今のヴァルダの体じゃ、ダメージが入る事なんてあまり無いと思うが…。
俺はそう思いつつ下手に騒がれでもしたら面倒だと思い、先を歩いているドワーフの男性の後に付いて歩き始める。
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