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覇気がないブルクハルトさんに俺は、
「どうかしたんですか?」
俺はそう声を掛ける。
俺の言葉を聞いたブルクハルトさんは、少し困った表情をしながら商館の前で集まっている人達を見ると、
「ビ、ビステル様。中で話しませんか?皆様も、どうか商館の中へ。長旅でお疲れでしょうから」
商館の中へ案内してくれる。
「なら、俺よりも彼らを先にお願いしても良いですか?遥かにこの人達の方が疲労しています」
俺がそう言うと、ブルクハルトさんは感謝の言葉を俺に言い、先に来ていた人達を案内を始める。
…それにしても、何が起きているのだろうか?
ブルクハルトさんがあそこまで困った表情をしていたのは、ルミルフルの件以来だろう。
俺がそう思いつつブルクハルトさんに案内されて移動を始めた人達を見ていると、フードを深く被っている人達の1人が俺の方をチラリと見る感じにフードが動いた。
ブルクハルトさんが商館のまえにいた人達を中へ案内していくと、俺も続いて中に入る。
すると、
「いらっしゃいませビステル様。少しお待ち下さい、主は今来訪者の案内をしておりますので、代わりに私がお部屋に案内します」
留守番をしていたり、ブルクハルトさんの側にいる女性がそう言ってくる。
彼女の言葉に素直に頷くと、彼女に案内されていつもの部屋に入る。
女性にいつも通りにお茶を淹れて貰い、感謝を述べてお茶を口に運ぶ。
少しして部屋にブルクハルトさんがやって来ると、
「申し訳ありませんビステル様、お待たせしました」
彼は持っていたハンカチで額に掻いた汗を拭っている。
「いえ、気にしないでください。こんなに早くこっちに来て大丈夫なんですか?何か大切な話があったとかじゃ?」
俺がそう聞くと、彼は少し表情を崩し、
「大切な話ではありますが、少し込み入った話でして…。少しお時間を取らせて貰ったんです」
困った様な苦笑をしつつそう答えてくれた。
彼がそこまで言うのなら、結構大変な事でもあったのだろうか?
いや、ここで俺の話を長引かせてブルクハルトさんの考える時間を奪うのは良くないな。
俺はそう考え、
「あの件に関して、少しご相談があるのですが…。この大陸で、人族から距離を取っている亜人族と話し合いをしたいと思いまして…。あの件が明確になってしまったら、帝都の者達が脅迫をして戦力にしようとするか、何かしらのこちらの戦意を損失させる事をすると思うんです、それを回避するために事情を少しでも話しておきたいと思いまして。出来れば、ブルクハルトさんの知っている亜人族の住んでいる場所や地域を教えてもらえませんか?」
簡単にそう質問をする。
俺の話を聞いたブルクハルトさんは、帝都関連の話をした瞬間相槌を打つ様に頷いてくれる。
そして、
「分かりました。その事でしたらお手伝いできると思います。まずは地図を持って来ますので、お待ち下さい」
ブルクハルトさんはそう言って立ち上がり、また部屋を出て行ってしまった。
急いでいるのが、行動の速さで分かる。
俺もあまり長居はしない様にしよう。
そう思って少し待っていると、
「お待たせしました」
ブルクハルトさんが少し大きめの丸めた紙を持って部屋に入って来る。
それを目の前にあるテーブルに広げると、帝都付近の地図では無い事が分かる。
帝都が中心だとは分かるが、それ以外にも周りの行った事がある国も少しだけ分かる。
…帝都が大きくて、周りの国小さく書かれ過ぎる様な気がするが…。
俺は地図を見ながらそんな事を思っていると、
「帝都の周辺諸国よりももっと遠くに、亜人族の皆様は自分達の集落を作り密かに暮らしています。人族と魔族の戦争前は、もっと亜人族も帝都に近い場所に村などを作っていましたが、今ではそんな事をしたら違法な奴隷商人によって捕まってしまいますから。この森には、エルフの方達と精霊が住んでいます。しかし問題があり、よそ者が森に近づくだけで排除しようとしてくるので、ビステル様は大丈夫かと思いますがお気を付けて。この山には、リザードマンの集落があります。比較的話し合いをしてくれる方達なのですが、その反面好戦的でして、何を決めるにも戦います。戦闘族ですので、基本話し合いは意味がありません。強い者に従います」
ブルクハルトさんが地図に記されている地形を指差しながら説明を始めてくれる。
丁寧に、帝都からの方向なども教えてくれる。
ブルクハルトさんの知っている情報を教えて貰い、
「私の伝手があるのはこれだけですが、他にも聞いてみれば他の方が知っている人もいるでしょう。それは私の方で調べておきましょう」
ブルクハルトさんはそう言ってくる。
だが、
「流石にそこまでして貰うのは申し訳ないです。ブルクハルトさんはブルクハルトさんの仕事があるので、そちらをお願いします。それは俺が現地に行って、現地の人達から話を聞いて回ります」
俺はブルクハルトさんにあまり負担を掛けない様にそう言う。
既に結構彼に負担を掛けているが、流石に俺も彼がこれから忙しくなりそうな事を知っている状態で頼める訳では無い。
俺が断りの言葉を伝えると、
「お気遣いありがとうございます。ではビステル様のお言葉に甘えさせてもらいましょう」
ブルクハルトさんは少し笑ってそう言ってくる。
よし、そうと決まれば後は色々と各地に向かうだけだな。
「お忙しい中、わざわざ話を聞いてくれてありがとうございました。俺はこれから少しブルクハルトさんの教えてくださった場所に行ってみます」
俺はブルクハルトさんにそう伝えると、淹れて貰ったお茶を飲み干して立ち上がる。
それと同時にブルクハルトさんが立ち上がり、扉の側に控えていた女性が部屋の扉を開けてくれる。
部屋を出ようと歩き出した瞬間、
「そう言えばビステル様、ある噂を聞きました」
ブルクハルトさんが唐突にそんな事を言ってきた。
「噂ですか?」
俺が彼に問うと、
「ビステル様の関係者である冒険者のエルヴァン様ですが、凄まじい速さで依頼を達成しその強さが帝都の王族の目に留まった…と」
既に扉が開いているからか、ブルクハルトさんは小さな声でそう言う。
その言葉に俺は、
「順調ですね」
短くそう返した。
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