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ジャブジャブさんの家に戻ってきた俺達は、まずアンリがシェルガさんから与えられた権限を使える様に八尺様から身振り手振りで説明してもらっていたが、アンリには何を言っているのか分からなかった様で、ジャブジャブさんに通訳を頼んで今練習をしている。
俺は1人で、狭間の町の付近に生えている木を観察していた。
毒々しい色をしているが、調べてみると特に危ない要素は無かった。
一本切ってもいいかジャブジャブさんに聞いてみると、良いよと言われたので切ってみたが、普通に加工も出来る物であった。
しかし、普通の樹木とは違う点が1つあった。
それは、再生速度だった。
俺が普通に木を切ってからおそらく5分ほどで、木は元の大きさに戻っていった。
これなら資源の調達に困らないのではないのかと考え、後で靜佳と相談する事を考えこれ以上木材をいじるのを止めようと思い止まる。
それから少ししてアンリが外に出れる様になり、一度大丈夫だった事とこれからのアンリの事を報告するためにジーグに戻る事にした。
その際に、
「ぽぽ…」
アンリの手を握って寂しそうにしている八尺様を見て、もしかしたら…と思ってしまうのは俺の考え過ぎなのだろうか?
そしてそんな八尺様に、
「ハッシャクさんも僕も安全だって、皆に伝えてきますね!待っていてください」
笑顔でそういうアンリ。
アンリの言葉を聞いた八尺様が、少し微笑んで手を放した光景は何故か微笑ましく感じてしまう。
そんな事がありつつ俺とアンリはジーグに戻ってくると、まずはセンジンさんの所に行く。
センジンさんの屋敷に行くと、安心した様に息を吐いてまず無事かどうかを聞いてきた。
それから狭間の町の状況を少し話し、アンリがこれから狭間の町での事や今まで通り剣聖側が帝都に送る情報を操作する事を続けると説明した。
最初は1人でそんなに大丈夫かとアンリの事を心配してくれていたが、
「頑張ります!」
アンリのその一言で、センジンさんもとりあえず引いてくれた。
そうして話し合いは次の話題となり、
「それでは改めて、センジンさん。これからの事で話したい事がありまして、この戦争を機に他に様々な場所で隠れて生きている亜人族を仲間にしませんか?」
俺はそう切り出す。
それを聞いたセンジンさんは、少し難しそうな表情をすると、
「良い案ではあるが、帝都がある大陸の亜人族は人族の事を知っている者が多く、反抗的な意思を持つ者は少ないと聞いた事がある。その者達を仲間にするのは、少し難しいのではないか?」
唸りながら呟く様に言う。
確かに、その意見は正しい。
帝都の亜人族も、あまり人族に対して反抗的な人はいない。
奴隷ではなくても、人族に逆らう事で何があるか分からないからだろう。
「それでも、話をするくらいはしておいた方が良いと思います。しかしそこから、情報が流れる可能性もありますから、そこは細心の注意を払わないといけませんけど」
俺が自分の考えを伝えると、
「…確かに、戦争に参加する云々は置いておいて、この話が大きくなり帝都側が亜人族に…協力を求める可能性も無くは無い」
センジンさんが、他の者達の事を考えながら言葉を漏らす。
協力なんか、求めないだろう。
おそらくもしそうするのであれば、脅迫と言ったところか。
どちらにしても、問題が起きてしまってからでは意味が無い。
他の亜人族達に、仲間になるにせよ敵になるにせよ、傍観をするにしても帝都側からの何かしらの行動に注意をして貰わなければいけない。
でなければ、ジーグの人達の意思が返って亜人族を貶めてしまう可能性が出てしまう。
それだけは、避けなければいけない。
「ヴァルダさんの意見は正しいな。しかし俺達は他の大陸の亜人族との交流は無いに等しい。あったとしても、それは自分達の者を送り送られる程度の関係。そこまで友好的な関係では無い」
俺がそう考えていると、センジンさんが考える様に眼を強く閉じながらそう言ってきた。
その言葉に、
「それは俺が橋渡しをしようかと考えています。とりあえず俺がこれから帝都に戻り、知り合いから亜人族の集落などがある場所を聞き、そこに行って話し合いをしてみたいと思っています。詳しく話を聞きたい者がいれば、後日ここへ連れてくるのはどうでしょう?」
俺は自分の考えを伝える。
俺の言葉を聞いたセンジンさんは、
「…そこまでして貰っても良いのか?今でさえヴァルダさん達に色々と手伝って貰っている状態で、更にそんな事まで頼んでも良いか迷っているのだぞ?」
俺にそんな事を言ってくる。
むしろ、この提案をした俺が行くべきだと思っているし、センジンさんには戦いに参加する人達の指導やその他諸々のジーグでの準備を進めて貰いたいと思っていた。
俺はそう思い、
「構いませんよ。むしろジーグの事は全てセンジンさんに任せてしまいますので、帝都やその他周辺の事は俺に任せて下さい」
センジンさんに伝えると、彼は頭を下げて、
「ありがたい」
一言感謝の言葉を言ってきた。
ジーグでの情報操作と狭間の町の事はアンリに任せ、帝都で冒険者としてエルヴァンが頑張っている。
俺も彼らの主として、彼ら以上に頑張らないといけない。
そうしてセンジンさんとの話し合いは早々に終わらせて、俺は帝都へと帰って来た。
元々他の亜人族との話し合いについて意見を聞こうと思っていたし、アンリの様子も知りたくてジーグに向かったのだが、思わぬ未知との遭遇に驚いたな。
俺はそう思いつつ、いつも通りブルクハルトさんの元に行く。
亜人族についてなら、彼に聞いた方が良いからだ。
そうしてブルクハルトさんの屋敷に着くと、
「ん?」
少しいつもとは違う光景に声が出てしまう。
ブルクハルトさんの商館の前に、僅かな人だかりが出来ている。
皆ボロボロのフードを深く被っており、外見どころか顔すら分からない。
強いて言うなら、身長が分かるくらいだろう。
俺がそう思っていると、後ろからやって来た俺に気づいた人達が恐れる様に俺から遠ざかる…。
何だろう、少し傷つくのだが…。
俺がそう思っていると、
「…ビステル様、ようこそ」
いつもなら凄く歓迎してくれるブルクハルトさんだが、今日は随分と元気が無い。
ブルクハルトさんの様子を見て、何か起きているだろうと察した。
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