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…久しぶりにこんなに動いている気がする…。
エルヴァンを帝都に連れて来て、その足でブルクハルトさんに連絡をしてから少しの間帝都でレオノーラさんを探し続けて、ようやく見回りをしているレオノーラさんに出会える事が出来た。
その際にレオノーラさんに話が出来ないか伺った所、仕事をしている時に長い話をする事は出来ないと断られてしまい、後日話し合いをする場を設けて貰う事を約束してもらった。
今日はその日であり、今から俺は指定された店でレオノーラさんと会う予定なのだ。
「…これなら大丈夫だよな?軽装だし、武器の装備も最低限。重々しい装備を着けて行くのは、レオノーラさんに悪いし…」
俺は塔の自室で、そんな長い独り言を呟きながら鏡で何度も自分の姿を確認してしまう。
何だろう、デートに行く女の子みたいに自分の格好を気にしている様な気がする。
「はぁ~…。これから話す内容的にも、気が少し重い…」
だからか、こんな緊張をしているのだろうか?
普段なら服装などあまり気にしないのも、だからこそなんだろうな。
そう思っている内に、そろそろ出ようと思い、
「ではセシリア、後は任せた」
セシリアにそう声を掛けると、
「いってらっしゃいませ」
彼女はいつも通り突然現れてそう挨拶を背中で受け取り、俺は黒い靄の中に入る。
黒い靄から出ると、指定された店を目指して歩き始める。
相変わらず賑やかだ、もしかしたらそれもあと少しで終わるかもしれない。
そしてそれを壊すのは、俺なのかもしれない。
…人族からしたら、俺は魔王と同じ立場に見えるのだろう。
いや、今は考えるのを止めよう。
俺はそう思い直し、レオノーラさんにとの待ち合わせ場所に向かった。
そうしてレオノーラさんとの約束の店に辿り着くと、先にレオノーラさんは中に入っていた様で、俺が店に入った瞬間に店員さんに名前を確認されて、名前を言うと店の奥の個室に案内された。
店員さんが個室の扉をノックし、返事が聞こえてから扉を開けるとそこにレオノーラさんがおり、俺は慌てて個室の中に入ると、
「すみません、お待たせしましたレオノーラさん」
レオノーラさんに近づき謝罪をする。
俺が謝罪をすると、
「いや、私が早く来ただけだ。むしろ君も予定の時間より早い、そんな謝罪をしないでくれ」
レオノーラさんがそう慰めてくれる。
俺が申し訳無さそうにしていると、レオノーラさんは向かい側の席に座る様に手で合図してくれる。
俺はもう一度謝罪の言葉を言うと、彼女に促されるまま向かいの席に座る。
レオノーラさんは俺が席に座るのを確認すると、店員さんを呼び寄せてレオノーラさんと同じ物を注文してくれた。
少しして店員さんがティーカップを持ってくると、その場でお茶を淹れてくれる。
花の様な甘くサッパリとした匂いがする。
テーブルにポットを置くと、店員さんは個室から出て行った。
完全に個室になった事を確認すると、
「それで、とても重要な話と言うのは?」
レオノーラさんがそう話を切り出してきた。
彼女の真剣な表情を見つつ、
「レオノーラさん、帝都を抜け出すつもりはありませんか?このまま貴女が、それに貴女が護っている亜人の方達が虐げられ続ける姿を見たくはありません」
俺は話を切り出した。
「少し遠くの町に行った際に、噂を耳にしました。亜人族の国、ジーグの方達が反乱を考えて資材を集めていると…」
更に続けて、噂が流れているという嘘を話す。
おそらく彼女は騎士団団長として、そういう話が耳に届いていると思う。
なら、ここで反乱の話をしても情報を流している訳では無い。
ある意味、これは確認作業でもある。
反乱の話を聞いている状態で、彼女を含めた騎士団や閃光…王族達の考えを聞き出せれば良いのだ。
それに対して、俺がどう動けばいいのか考える事も出来る。
俺がそう思っていると、
「…もう他の町でも噂になっているのか…」
そう小さな声で呟いた。
その言葉を聞いた俺は、やはり彼女にも話が届いている事を知った。
俺がそう思っていると、
「ここだけの話、君の言っている事は事実だ。亜人族の国ジーグで反乱の動きを察知し、今は帝都最強の騎士、剣聖が偵察に行っている。そこで動きを止める事は出来るだろうと思っているが、あの剣聖でも疲れはするだろうし、数で押し切られたら剣聖は退陣するだろう。そうしたらジーグの者達はここまで攻めてくるつもりだと思う」
レオノーラさんがそう言う。
その言葉を聞き、
「レオノーラさんは、どうするつもりなんですか?いくら敵だと言っても、亜人族の人達なんですよ。人族に虐げられている同胞と言っても良い人達ですよ。そんな彼らと戦うつもりなんですか?」
俺は再度彼女に問う。
すると、俺の言葉に考える様子を見せずに、
「彼らの伝えたい事は理解できる。しかし、それでも私の護っているこの国を……いや、この街の亜人族を傷つけるつもりであるならば、私はそれに正面から戦おうと思っている」
そう言い切った。
彼女のその言葉を聞いて、俺は出来ればしたくないと思っている方法を決断しないといけないと考える。
信頼され、信用し仲間になってもらう方法が思い付かない。
おそらく俺の薄っぺらい言葉では、彼女を動かす事なんて出来ないだろう。
彼女をこの街から引き剥がす方法、穏便に話し合いの中で解決出来たらと思っていたが…。
「そうですか…。残念です…」
俺がそう言うと、レオノーラさんは少しだけ深呼吸をし、
「何故私にこの事を話してきたのか、君の心情は理解しているつもりだ。私だって騎士団団長としては、ジーグの彼らと戦うと豪語しているが、ただの亜人族の私だったら、おそらく彼らの仲間になっていただろう。それだけ、今の状況は亜人族からしたらチャンスなのかもしれないと、そう思ってしまう。しかし、私がここを出ていけば、要らないと様々な者達から言われている亜人族の騎士団員に、スラム街に住んでいる逃げて来た亜人族が全て殺されるか、奴隷にされてしまう。それだけは、絶対に避けなければいけない」
いつも凛としている彼女には珍しい、少し弱気な表情で彼女はそう言い出した。
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