表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
207/501

206頁

山を下った後エルヴァンとファルシュは、依頼の為に借りていた馬車に乗り込む。

その際に待ってくれていた御者のおじさんが、エルヴァンの後ろにいるファルシュを見て不思議そうな顔をしていたが、特に質問をしてくる訳でも無く業務通りに馬を扱い馬車を動かし始めた。

そうして馬車に乗ったエルヴァンは、馬車に置いておいた袋から僅かな食料をファルシュに渡すと、


「今はこれで飢えを凌いでおけ。町に着いたら、食事処に行く」


エルヴァンは今すぐにでも空腹で倒れそうなファルシュに、干し肉と保存が効く硬いパン、それと瓶に入っている水を渡す。

しかしファルシュはそれを不思議そうな顔で見つめ、


「これは、何だ?」


そう言いながら、エルヴァンから手渡された物を見つめる。

匂いを嗅いだり、ひっくり返したりして裏表を見たりしている。

本当に初めての物を見ているかの様な反応をするファルシュを見たエルヴァンは、


「干し肉とパンだが、見た事ないのか?」


そう質問をする。

エルヴァンの質問を聞いたファルシュは意を決した様な表情になると、口を開いて干し肉を噛み、


「硬いッ!」


少し怒った口ぶりで文句を言う。

しかし空腹には勝てなかった様で、諦めた顔をしながら干し肉を噛み千切り、


「食い物はもっと柔らかくて、暖かいモノだろ…。それに味ももっと美味い!」


今食べている物を、まるで食べ物では無いと否定している。

それを聞いたエルヴァンは、


「遠出をするのに暖かい物を持って行ったら、腐ってしまう。それは予め短い間で腐らない様にして長い間持って行動出来る様に、様々な工夫を施した食料だ。食事をする場所では、しっかりと暖かい物が食べれる」


まるで子供に言い聞かせる様に、分かりやすく簡潔に説明をする。

エルヴァンの説明を聞いたファルシュは、エルヴァンの言葉が本当の事か疑う様な反応しつつ渡された食べ物を食べ続ける。

そうしてファルシュがエルヴァンに渡された食べ物を食べ終えた頃、馬車は山の近くにある町に辿り着いた。

エルヴァンは御者のおじさんに食事をする事を伝え、食事をするには十分な銀貨20枚をおじさんに渡し、


「あなたも食事をしてくれ。私はこの子供と共に食事をしてくる」


そう言って歩き出し、ファルシュはそんなエルヴァンの後を追いかける。

田舎の町であってもしっかりとした食事処に入ったエルヴァンは、端にある席に座るとファルシュもエルヴァンの向かいの席に座る。

2人が席に座ると、


「ご注文は何にしますか?」


帝都の様に客が多く、注文をする為に店員を呼ぶ前に向こうから先にわざわざ来てくれた。

エルヴァンはいつも通り店のおすすめを頼むと、


「貴様はどうする?」


前に座っているファルシュに声を掛ける。

それを聞いたファルシュは、


「メニューはあるのか?」


笑顔で待っている店員に声を掛ける。

それを聞いた店員は、少し待つ様にファルシュに言うと店の奥に行き少ししてからややボロボロになった紙を持って来て、


「こちらになります」


ファルシュに手渡す。

それを見たファルシュは、


「これとこれ、それとこれをくれ」


紙を指差しながら店員に注文した。

それを聞いた店員は、笑顔で店の奥に行き料理人に声を掛ける。

それと同時に店の奥が少し騒がしくなり、香辛料の香りが漂ってくる。

ファルシュの注文を聞いたエルヴァンは、


「1人でその量を食べるのか…」


予想以上の注文数を聞いてそう声を出した。

エルヴァンのそんな声を聞いたファルシュは、少し意外そうな顔をして、


「お前こそ、そんなに大きい体なのに注文少ないんじゃないか?」


エルヴァンにそう聞く。

それを聞いたエルヴァンは、


「私は必要な分を食べればそれで良いのだ」


淡々とファルシュの質問に答えた。

そうして話している内に、店員が両手に料理を持ってエルヴァン達の元に行くと、


「お待たせしました~。ゆっくりしていってくださいね」


そう言って最初に持って来た料理を置き、一度厨房の方に戻っていくと次の料理を運んできた。

テーブルに置かれた料理を見たファルシュは、


「…オレが思っている以上に沢山来たな、それにフォークしかないのか?ナイフは無いのか?」


少し困惑した様に左手でフォークを握りながらそう言うが、身近にナイフが無いと理解すると仕方が無さそうにフォークを右手に持ち替えて料理に突き刺す。

そうして食事を始めたファルシュなのだが、それを目の前で見ているエルヴァンは少し予想外に感じた。

話し方や先程までの粗暴な様子に、料理にフォークを突き刺して齧り付くと思っていたのだが、その予想とは反対にしっかりとした動きで優雅に料理を食べているファルシュ。

一つ一つの動作がしっかりとしており、優雅なファークさばきにエルヴァンは驚いてしまう。

帝都での冒険者や街の人々の食事風景から異なるその姿は、目の前にいるファルシュがただの荒くれ者という訳では無い事を物語っている。

そうして料理は全てを食べ終えて、エルヴァンは料金を払って食事処から外に出ると、


「これで貴様とはお別れだ。とりあえず資金を渡そう、これでどこか遠くの町に行くのが良いだろう」


ファルシュにそう言って少し膨らんだ資金をファルシュに差し出す。

しかしそれを受け取らずに、


「お前は、これから何をするんだ?」


ファルシュはエルヴァンにそう質問をする。

それを聞いたエルヴァンは、


「私は冒険者として、これから帝都に戻り貴様をどうにかした事の報告をし、次の依頼を受けるつもりだ」


素直にそう答えた。

それを聞いたファルシュは、エルヴァンに差し出されている袋を手で押し戻すと、


「オレも連れてけ。オレはオレを切り捨てやがった父上と母上、それとオレの事を蹴落としやがった()()()を殺してやる!お前と一緒にいたら、色んな所に連れて行ってもらえそうだしな!」


最初は怒りが籠った声で言い、最後の方は真剣な声でエルヴァンにそう聞いた。

それを聞いたエルヴァンは、ファルシュがこの世界の文字を読める事と戦闘スタイルが今度の役に立つかもしれないと考え、帝都にいるヴァルダの元にファルシュを連れて行こうと考えたのだ。

そうして、


「良いだろう、しかし約束して欲しい。帝都では問題行動を起こさないと、何があっても暴れる様な事はしないと約束して欲しい」


エルヴァンがそう言うと、


「………気をつけるよ」


少し腑に落ちない様子で、エルヴァンの言葉に同意した。


読んでくださった皆様、ありがとうございます!

評価してくださった方、ありがとうございます!

ブックマークしてくださった方、ありがとうございます!

評価や感想、ブックマークをしてくださると嬉しいです。

誤字脱字がありましたら、感想などで報告してくださると嬉しいです。

よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ