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不覚…。
頭を攻撃されたエルヴァンは、自身の不注意で攻撃を受けた事を反省する。
「殺した!頭を刎ねてやったッ!」
襲撃者の喜ぶ声を聴きながら、エルヴァンはただひたすら自身の油断した事を悔いていた。
そうして飛ばされた頭が地面に落ちると、襲撃者は勝利したと思って油断した感じで普通に歩いてエルヴァンの頭に近づくと、エルヴァンの頭を持ち上げた。
その瞬間、
「油断していたとはいえ、頭を攻撃した事は良い判断だ」
首が繋がっていないエルヴァンの頭が話し出したのを見て、
「うわぁッッ!何だコイツッ?!」
襲撃者は驚いて手に持っていた頭を投げようとする。
それを止める様に、本来は繋がっていないが襲撃者からしたら首が無い体が動いて投げようとする襲撃者の腕を止めた。
その様子を見て、目の前にいる者が異常な存在だという事を改めて認識した襲撃者。
しかしそんな事を気にしていないエルヴァンは、警戒している襲撃者の手から自身の頭を取り戻すと、
「…話せる状態になったな」
襲撃者の様子を見てそう判断し、戦闘体勢を解き地面に突き刺していた大剣を回収し背負い直す。
エルヴァンのそんな行動一つ一つの警戒しながら見ていると襲撃者に、
「話をする気になったか?私は、冒険者としてこの辺りで被害を出しているであろう貴様の討伐を依頼されたのだが、話をするつもりがあるなら問答無用で殺すつもりは無い。話し合いで解決するのは苦手だが、それでもヴァ…ある御方が貴様の様な者を救おうとしている。それを妨げない様に、私は考え努力をしないといけない」
そう話しかける。
エルヴァンの言葉を聞いた襲撃者は少し警戒しながらも、
「…話をすれば、オレはここでお前に殺されずに生き延びる事が出来るのか?」
そう質問を返した。
襲撃者もエルヴァンと戦った事で、目の前にいるエルヴァンが自分を倒すのに十分な力を持っている事に気がつき、本気で戦っている訳でも無かった事も察していた。
自身の脚なら逃げる事も可能かもしれないが、もしエルヴァンが自分の事を諦めずにどこまでも追いかけて来たらと思うと、ここでエルヴァンの話に乗り逃がして貰う方が確実に良いと考える襲撃者。
そんな事を察している訳でも無く、襲撃者の言葉を信じたエルヴァンは、
「そうだな、あまり移動した場所を荒らさなければ問題は無い。それよりも、貴様は亜人族なのか?モンスターの毛皮を被っているから姿は分からないが、その手から伸びている鋭い爪はただの人族のモノでは無い」
そう質問をした。
それを聞いた襲撃者は自身の手を見る様に動かした後、
「オレは亜人族とか人族とかそんなの関係ないッ!オレにそんなどうでも良い事を質問するなッ!」
怒りの感情に染まった声でそう言い、拒絶をする様に手を何度も大きく振るう。
襲撃者のそんな様子を見たエルヴァンは、聞かない方が良い事だと察した。
「なら、どうしてこの山で暴れていたんだ?」
エルヴァンは次に聞きたい事を質問すると、襲撃者はその質問を聞いて辺りを見回すと、
「そんなの全てを殺す為だッ!ある物も生きてるモノも、全て殺す為だッ!」
そう答えた。
襲撃者の答えを聞いたエルヴァンは、その答えに何故そこまで殺す事にこだわっているのか気になる。
「…名前はなんていうのだ?」
未だに息が荒く気が立っている襲撃者を落ち着かせようと、一度話題を変えるエルヴァン。
一緒に行動していたアンリが、同じ様にしていたのをエルヴァンは真似をしたのだ。
それを聞いた襲撃者は気が立っている状態のまま、
「…ファルシュ」
自分の名前を答えた。
それを聞いたエルヴァンは、
「ファルシュ、この場から離れて行くのなら私は見逃そう。私はこれからやらなければいけない事がある、その為にも早く依頼を終えないといけない」
そう自身の事情を説明する。
それを聞いたファルシュは、
「おいお前!お前はここを離れろと言ったが、オレはどこへ行けばいいんだッ?!」
変な質問をエルヴァンに投げつけた。
流石のエルヴァンも、そんな質問が帰って来るとは予想しておらず、
「それは、ファルシュの自由だ。私が関与する事では無い」
少し突き放した言葉を発してしまった。
エルヴァンのそんな言葉を聞いたファルシュは、
「…父上も母上もいきなりオレを切り捨てやがった…。気づいたらここにいた。他の場所なんて分からない。教えてくれ」
唐突にそう言った。
興奮していた様子から、突然に冷静になった声を聞いたエルヴァンは、
「詳しい状況は分からないが、大人しくするのなら案内くらいはしても良い。…しかし、今までの様子を見る限り大人しく出来そうに無いが…」
そう言うと、ファルシュは高らかに笑い、
「当たり前だ!オレは全てを殺すと言ってるだろ!お前に案内された場所にいる奴らも物も全て破壊してやるんだ!」
エルヴァンの危惧している通り、そのまま案内したらエルヴァンの冒険者としての評価は地に落ちる。
それ以上に、暴れる無法者を連れて来た所為でヴァルダにも迷惑を掛けてしまうと考えたエルヴァンは、
「ならば案内などしない。…しかし放置する訳にも行かない。どうしたものか…」
ファルシュを見放そうとするが、それでファルシュがこの山に残ってしまっては依頼の達成はしていない事になってしまうと考え、どうすれば良いものかと考えてしまう。
そうすると、
ぐぎゅるるるぅぅぅ~
激しい地響きの様な音を聞き、エルヴァンは目の前にいるファルシュに目を向ける。
エルヴァンの視線の先には、お腹を抑えてプルプルと震えているファルシュ…。
「腹、減った…」
ファルシュのそんな呟きを聞いたエルヴァンは、
「ならば、今から連れて行くところで大人しくしていれば、満足するまで食料を食べて良いと言ったらどうする?」
そう聞いてみる。
そんなエルヴァンの問いに、
「大人しくするッ!ご飯食いたいッッ!!モンスターの生肉なんてもう嫌だッ!」
まるで懇願する様に約束すると言うファルシュの言葉を聞き、エルヴァンは付いて来いと言って山を下り始めた。
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