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受付嬢に説明された通り、エルヴァンは被害が出ているという山に来ていた。
意外と距離があることから、山の近くの村までは馬車を借りて移動し、村からは歩いて移動をしている。
エルヴァンは警戒しながら山道を歩く。
森の様子を見て、木々がなぎ倒されていたり、モンスターの亡骸が倒れている光景に敵意あるモノがここにいる事を証明している。
エルヴァンは警戒しつつ歩みを進めて山の奥に進んでいくと、空気が変わるのを感じ一度立ち止まる。
山に入って少しした所では木々がなぎ倒されていたが、エルヴァンが今いる場所では全ての木々が倒れており、生き物の気配すら感じる事は無い。
しかし、今まで感じていなかった生き物の気配が遠くから一気に自身に向かっている事を感知し、
「これ程の凶暴性があるのなら他の冒険者に任せるのは危険だったな。それに…」
エルヴァンはそう呟きながら、背中に背負っている大剣の柄に手を伸ばして掴むと、
「骨のある相手との戦いを、邪魔されるのは苦痛だ」
自身に向かってくるモノを防ぐために剣を盾にする。
エルヴァンが大剣を抜いた瞬間、激しい衝突音が轟きエルヴァンはその衝撃に冑の下で口を歪めてしまう。
この力、ただのモンスターという訳では無い。
久々の強敵に、基本的に無表情のエルヴァンが笑みを浮かべてしまう。
すると、エルヴァンに突撃してきた相手は一度エルヴァンから距離を取ると、
「殺す…皆殺す…全て…」
怒りを超えた、微塵も情けを掛けない殺意を呪詛の様に吐きながら、体勢を直し始める。
そうして少し動きがゆっくりとした所を、エルヴァンはどの様な者が襲ってきたのか確認する為に見つめる。
剣も何も装備しておらず、服装も何故かモンスターの毛皮の様な物を被っており、そこから伸びる四肢は亜人族の様な鋭い爪を持っていた。
全体的には華奢な体つきだが、モンスターの毛皮から伸びる太ももの隆起に強靭な筋肉を宿しているのが分かる。
「ここで何をしている?」
エルヴァンは大剣を構えながらそう質問をする。
しかし、
「殺すッ!」
低く怒りを宿した声を出すが、おそらく女だろうとエルヴァンは察しつつ、
「相手しよう」
そんなモノは戦いに関係ないと思い、突撃してきた相手に大剣を振り下ろす!
しかし敵はそれを地面を蹴って躱すと、逃げるように木々がまだ生えている方に駆け出す。
「敵前逃亡。いや、あれは誘っているな」
襲撃者の様子を確認しつつ、エルヴァンは襲撃者を追うためにそちらに歩き出す。
木々が生えている場所に移動すると、襲撃者は木の上に上りエルヴァンを待ち構えていた。
その様子を気にせず、エルヴァンは大剣を振るって軽い風圧を起こす。
そこにいるのは分かっていると伝えるように。
すると、木の上にいた襲撃者が前のめりに木の上から落下すると、木の幹を蹴り飛ばしてエルヴァンに突っ込む!
地面を蹴った時よりも速いな。
エルヴァンは冷静にそう感想を思いつつ、向かってくる襲撃者に大剣を横に振るう!
縦の時よりも身を捻って躱すのが難しい剣筋だが、
「殺すッ!」
「ッ!」
更に加速した襲撃者の体当たりを受け、エルヴァンの足が少し後ろに下がる。
何もない状況で更に加速した方法が分からず、エルヴァンは少し思考がそちらに気が向いてしまう。
しかしそんな事は関係ない襲撃者は何度も木の幹を蹴り飛ばし、更にそこから加速をして何度もエルヴァンに襲い掛かる。
エルヴァンはそれを大剣で応戦し、まずは襲撃者の速さに目を慣らし始める。
それと同時に、自身に飛びかかって来てからもう一度加速するタイミングを観察する。
そんな事など関係なく、襲撃者は次々にエルヴァンに襲い掛かる。
何度も何度もそれをくり返していく内に、エルヴァンはある程度襲撃者の加速のタイミングを把握すると、
「…この者は、どうしたら良いのだろうか?」
襲撃者の突撃を大剣で受け止め、そのまま襲撃者を吹き飛ばす様に大剣を振るいながらそう呟く。
こういう場合、アンリが話し合いに応じる様に説得をするのだが…。
エルヴァンはそう思いながらも、相手の素性や種族等々を聞いていない内から殺してしまうのはいけないと思い、
「少し手荒になるが、仕方ない」
そう言うと、背中に背負っている大剣をもう一振り抜き放つと、襲撃者が飛び乗ろうとした木を斬撃を飛ばしてそれを阻止する。
突然の事に襲撃者は体勢を崩れるが、驚いている暇は無かった。
いつの間にか接近していたエルヴァンがすでに自身に剣を振り被っている姿を確認し、無理矢理地面を蹴ってその場から緊急脱出しようとする!
一度離れたら、こっちのモノだ!
襲撃者はそう思ってもう一度自身の戦いやすい木からの高速な突撃からの連撃を繰り出そうと考えるが、エルヴァンに背中を向けた瞬間、後ろから感じる冷たい感覚に本能が慌てて反応し身を屈める。
襲撃者が身を屈めた瞬間、襲撃者の頭上を何かが通り過ぎたのを感じて頭を上げると、目の前には今さっき飛び乗ろうとした木とその周りに生えている樹木が全て、空中に浮かんでいる様に襲撃者には見えた。
しかしそれはほんの一瞬で出来事で、襲撃者が意識した頃には次々とエルヴァンの斬撃によって切断された樹木が轟音を出して地面に倒れていく。
その様子を、ただ黙って見ているしかなかった襲撃者。
その後ろから、
「話を聞く気はないか?」
淡々と、襲撃者に声をかける。
その様子に驚きつつも、下手に動いたらエルヴァンの握っている大剣で斬られると感じた襲撃者は、
「………」
何も答えずに頭を僅かに動かして視線だけをエルヴァンに向ける。
そんな様子にエルヴァンは、
「沈黙しているが、話を続ける」
とりあえず大人しくなっているという事は、話を聞く意思はあるのだろうと考えて、
「ここで暴れていた訳はなんだ?」
そう話を続けた。
しかし、襲撃者は話を聞いても答える事はない。
流石のエルヴァンも、相手が何も話してくれない状態はどうする事も出来なく悩んでいると、
「オレは、捨てられたんだ。オレが出来るのは、破壊する事だけだ…。だから、オレは全てを殺す!」
襲撃者はそう言って、エルヴァンの気が緩んで隙を狙って渾身の攻撃をエルヴァンの頭に放った!
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