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アンリが情報集めに勤しみ、ヴァルダが協力者を集めつつ帝都とジーグを行き来している頃、冒険者として依頼を受けているエルヴァンは…。
「フンッ!」
エルヴァンの大剣の一振りでオーガの体が縦に真っ二つに裂け、地面が抉られる。
依頼にあったオーガの討伐を終え、エルヴァンはオーガの腕を斬り落としてそれを持ち、帝都に持ち帰ろうとする。
帝都までは少し遠く、エルヴァンは道中でも依頼が受けられる様に数個の依頼を同時に受けていたので、帰りながら依頼にあったモンスターの素材を取る為に剣を振るう。
最初、ヴァルダと分かれた後に帝都の冒険者ギルドに戻った時は、依頼はどうしたのかとわざわざギルドの長に聞かれたくらいだが、
「パーティーを組んでいるアンリに頼んだ。私は生活費を稼がなければいけない状況になった故、とりあえず帰って来ただけだ。また資金が溜まったら、ジーグに戻るつもりだ」
エルヴァンはそう言って、自分が離れてから溜まった高難易度の依頼を斡旋してくれる様に頼み、受付嬢に色々とお世話になっていた。
依頼の数と、行きと帰りのモンスター討伐の流れ、全てを受付嬢に頼んで説明して貰っている。
流石のエルヴァンも、あそこまで忙しそうに動いている受付嬢を見てしまうと申し訳ない気持ちになり、今度日頃の感謝だと言い金を支払うのも良いかもしれないと考える。
そう思っている内に、オーガが棲みついていた洞窟を抜け出して次は平原に向かう。
そこに現れる、食肉として育てられている穏やかなモンスターを襲うウルフの群れの討伐依頼を果たす為に。
エルヴァンはそう思いつつ、依頼主のいる場所に向かって歩みを進める。
「お疲れ様でした、こちらが報酬金です。ご確認ください」
帝都の冒険者ギルドで、受付嬢はいつも通り業務に勤しむ。
いつも騒がしく同業者同士でも乱闘騒ぎを起こし、依頼を自分達のミスで失敗すれば受付嬢にすら恫喝をする冒険者。
そんな彼らが、ある者が入って来ると静かに静止する。
ある日唐突に現れた騎士の様な装備を身に纏った男、第一級冒険者エルヴァン。
片手には大きく膨れた袋を持っており、もう片手は鞘に納まっている大剣が握られている。
そんな光景を見た冒険者ギルドの連中は、慌てて外に出る。
彼が街で剣を握っているという事は、何かしらの争い事に巻き込まれたのだと察し、おそらくそれが帝都に移り冒険者として名を上げようとして躍起になっている冒険者仲間だと、冒険者ギルドにいた者達は理解しているのだ。
冒険者は何でもする便利屋であると同時に、どんな事をしてでも上に昇ろうとする野心家なのだ。
それ故に、屈強な体に装備を見てエルヴァンに喧嘩を吹っ掛ける者は少なくない。
その度に、エルヴァンに返り討ちにされた冒険者を皆が助けに行くのだ。
「依頼を終えた。中身の確認を頼む」
エルヴァンがそう言いながら袋を受付のカウンターに乗せると、
「かしこまりました。少々お待ちください」
受付嬢は笑顔でそう言い、袋の中を確認し始める。
その光景に、周りの冒険者は顔を顰める。
いつもなら淡々と、多少の会話すらしてくれない受付嬢がエルヴァンには笑顔で、
「今回の依頼はどうでしたか?」
「問題ない。もっと強者がいてくれればいいのだが」
そう会話をしている。
受付嬢達も、第一級様には媚びを売るんだな。
そう冒険者達は思っているが、実際はそういう訳では無い。
自身からは無駄な話はしないが、自分から声を掛ければそれに応じてくれる、冒険者には珍しいタイプであるのと、戦いにしか興味が無い孤高な姿に憧れと信頼を感じているのだ。
「はい、4件の報酬金金貨20枚と銀貨60枚です。ご確認をお願いします」
受付嬢が笑顔でそう言いながらお金が入った袋を差し出すと、エルヴァンは一度だけ袋を開いて中身を確認しただけで袋を閉じてしまう。
「確認した。次の依頼は何か入っているだろうか?」
エルヴァンがそう聞くと、受付嬢は手元に置かれている書類を確認してみる。
今でこそ普通にエルヴァンの対応をしていた受付嬢だが、始めの頃は簡易な確認方法に受付嬢達は困惑したものだ。
「えーと、エルヴァンさんが頑張ってくれているお陰で、今急いで受けなければいけない依頼は無いですね。ここ数日、凄い勢いで依頼を受けていますが、お体は大丈夫ですか?」
「問題ない。無理はしていないし、第一あの程度の依頼内容なら疲れる事すらない」
受付嬢の言葉にそう返したエルヴァンの言葉を聞いて、それを聞いた受付嬢と周りの冒険者がエルヴァンが最近受けていた依頼の内容を思い出して愕然としてしまう。
異常とも言える体力に、驚いて声も出せない。
周りの者がそう思っていると、
「では、今素材を売れば高く売る事が出来るモンスターなどはいないか?」
エルヴァンが再度受付嬢にそう質問をする。
そんな質問をされた受付嬢は、少し考える様に立ち上がると後ろに置かれている棚に行くと、いくつかの書類を手に取ると、
「少し部屋、使うね」
近くにいる受付嬢にそう声をかけ、
「エルヴァンさん、こちらにどうぞ」
奥の部屋に案内してくる。
エルヴァンはその様子に特に気にする事も無く促されるまま部屋に入ると、
「どうぞ、座ってください」
受付嬢にそう促されて、エルヴァンはソファに座る。
そして、
「実は、今問題になっている事がありまして調査隊を編成しようとしている依頼があるのですが…」
受付嬢は言い出し難そうにそう言い、
「まだどの様なモンスターかも、外見も能力なども未確認のモンスターの被害が出ておりまして、隠密に優れた冒険者を選んでいたのですが、なかなか決まらなくて…。エルヴァンさん、護衛とかするつもりありませんか?」
続けてそう聞いてきた。
その問いにエルヴァンは、
「未確認である事から、どの様な攻撃を仕掛けてくるか分からない相手を気にしながら他の者を護るのは難しいだろう。私は攻撃に特化しており、護る事には特化していない。他者を護りながら移動するのなら、私1人で行った方が良い」
そう答えた。
それを聞いた受付嬢は、彼の答えに予想通りの答えが返ってきて笑い、
「じゃあ、エルヴァンさん1人に任せてもよろしいですか?」
そう聞いた。
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