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翌朝、俺が宿で身支度をしていると、
「ヴァルダ様、今お時間よろしいですか?」
部屋の扉がノックされ、アンリが部屋の外から声を掛けてくる。
「大丈夫だぞ」
俺がそう言うと、失礼しますと言いながら扉を開けてアンリが部屋に入って来る。
「珍しいな、アンリが1人で俺の元に来るのは」
俺がそう言うと、
「そうですね。…たぶん、少し不安なんだと思います。今まで僕が動いた事でヴァルダ様に迷惑を掛ける可能性はあまり無かったですけど、今回の事は今までとは全然違うので…」
アンリが少し不安そうにそう言ってきた。
それを聞いた俺はアンリに笑いかけ、
「そんな事、気にする必要は無い。例えアンリが俺に迷惑を掛けたと思っても、俺はそんな事を気にする事は無い。それに、家族の掛けた迷惑など、俺にとっては問題などではない。…存分に、自分がやりたい様にしてくれ。まぁ、最低限やるべき事をやってくれれば、何をしても構わない。俺が許す」
そう言う。
俺の言葉を聞いて、アンリは安心したように笑った後、
「頑張りますッ!」
そう言って部屋から出て行った。
…よし、俺も頑張るかね!
俺はそう思い直すと、宿屋を後にしてまずはセンジンさんの屋敷に行き、センジンさんにはこの町の者達に状況の説明をし出来る限りの戦闘訓練を行う事と、周りの亜人族の集落へ行き、同じ様に状況と戦争について加わるかどうかの再確認を行って貰う様にお願いした。
センジンさんとアンリはジーグで頑張ってもらうとして、後はエルヴァンと俺だけだろう。
俺はそう思いつつ、エルヴァンの元に向かう。
エルヴァンにはとりあえず先に港に向かってくれる様に頼み、俺も用事が済んだし後を追って港へ向かう。
港に着くと、俺はすぐにエルヴァンを見つける事が出来た。
凄いな、どんなに人がいてもエルヴァンの外見ですぐに見つける事が出来る。
背丈も違うし、完全武装の鎧姿が更に港の中では目立つ。
俺はそう思いつつ、
「すまないエルヴァン、待たせたな」
俺がエルヴァンの背後から声を掛けると、エルヴァンは振り返って膝を付こうとする。
俺がそれを妨げると、
「申し訳ありませんヴァルダ様、帝都がある大陸行きの船がありません」
エルヴァンは中途半端な恰好でそう報告をしてきた。
「エルヴァンが謝る事じゃない。姿勢を正せ、視線が集中しているから特定は出来ないが、剣聖の配下の騎士が見ているかもしれない」
俺がそう注意の言葉を発すると、エルヴァンは姿勢を正す。
それにしても、俺が乗って来た船はまだ着いていないのか。
船員は大丈夫だったのを確認したし、大丈夫だとは思っていたのだが…。
俺はそう思いつつも、
「仕方がない、エルヴァン。少し森へ移動するぞ」
「はい」
俺がそう言って歩き出すと、エルヴァンは返事をして俺の後を付いて来る。
流石に港で召喚するのは目立ってしまうし、人がいない所でやらないとな。
そうして森に入ると、俺は付いて来ている者に気がつく。
エルヴァンも気がついている様で、
「…ヴァルダ様」
囁く様に声を掛けて来た。
さて、どうしたものか?
これがただの人なら良いのだが、剣聖側の者ならアンリに任せたい所ではある。
…とりあえず、生け捕りにするか。
俺はそう思った瞬間、
「クラスチェンジ・魔法使い。ライトニング!」
クラスチェンジを行い、速さ特化の雷魔法を放つ。
当てる気はないが、俺達を追って来た者の近くの木に魔法が当たると、
「チッ」
舌打ちが聞こえて逃亡を図ろうとする。
だが、俺がクラスチェンジを発動した瞬間にはエルヴァンが動き出した故に、
「なッ?!」
追手が逃げようと動き出した時には、すでにエルヴァンが追手の目の前で剣をいつでも抜く準備が出来ていた。
流石に追手も分が悪いと思ったのか、一度足を止めてジリジリと後退する。
だがそれを許すほど俺も優しくない。
「動くな。動けばもう一撃、今度はしっかりと当てる」
俺がそう言うと、追手は観念したのか足を止めて立ち止まる。
背丈は俺とあまり変わらないくらいか、声からして男。
武装は軽い装備を着けているし、色も深緑っぽい。
森の、陽の光があまり当たらないこの辺りなら普通に隠れられそうな装備だ。
隠密に長けている動き、おそらく剣聖の配下の騎士だろう。
俺がそう思っていると、
「…あんた、このフードの男と仲間なのか?」
追手の男が、エルヴァンにそう声を掛けた。
その言葉に、やはりこの男は剣聖の仲間だという事がハッキリと分かった。
俺がそう思っていると、
「…このお方は、私の主だ」
エルヴァンが、俺の名前を出さないでそう言う。
とりあえず、眠らせておくか。
俺はそう思って睡眠煙球を男に投げつけると、男は気絶するように眠りについた。
地面に倒れた男のフードを取ると、
「…人族だな。エルヴァン、顔に見覚えはあるか?」
追手の顔を確認し、エルヴァンに見覚えがないか確認する。
しかし、
「ありません。私達に連絡を届けてくる者は1人だけで、決まった者でした」
エルヴァンがそう報告してくる。
なるほど、つまりこいつはエルヴァンか、俺の監視の任に就いていたのだろう。
「とりあえず、アンリに後は任せよう」
俺はそう言うと、クラスチェンジを再度使用し召喚士になると、少し申し訳ないがアンリを再召喚する。
突然の転送に驚いたのかアンリは何とも言えない表情で俺の目の前に転送されてくると、
「えっと、どうしたんですかヴァルダ様?」
とりあえず状況を聞こうと質問をしてきた。
そんなアンリに、
「すまないアンリ。港から監視してきた男を捕まえた。丁度良いかと思ってアンリを呼んだが、タイミングが悪かっただろうか?」
俺は少し申し訳ない気持ちでアンリにそう話すと、
「そ、そんな事ありません!むしろありがとうございます!これですぐに剣聖側に情報を流します!」
アンリはそう言って、男の元に行き首筋に噛みつく。
これで、男はアンリの眷属となり良い人形になってくれるだろう。
さて、俺とエルヴァンも至急帝都に戻らないとな。
そう思い、本の中の世界を広げた。
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