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俺の言葉を聞いたエルヴァンとアンリが、少しの間互いの気をつける事やそれに関する反論を言い合った後、
「分かりましたヴァルダ様、私は帝都に戻ります。冒険者としての名を上げるなら、依頼をこなしていけば良いのですね」
「僕も、やる事は分かっていますし了解しました!」
そう答えてくれた。
「ありがとう、俺の我儘に付き合ってくれて」
俺がお礼の言葉を2人に言うと、
「その様な事…。私達はヴァルダ様の言う事は全て正しいと思っています。私達には考えが及ばない事を考え、それを実践し常に私達に利益を与えてくれました。感謝の気持ちしかありません」
「エルヴァン様の言う通りです!僕達はヴァルダ様が謝る理由が分かりませんよッ!」
2人がそう言ってくれる。
俺はそれを聞き、
「では、今日はゆっくりと過ごした後にそれぞれの行動を開始しよう」
エルヴァンとアンリにそう言い、センジンさんの元に行きこれからのエルヴァンとアンリの行動の説明をした。
「それは分かった。あの大男がいなくなるのは残念だが、今は亜人族の事を考えて俺の相手はまた今度にしよう」
センジンさんがそう言い、少しだけ残念そうな顔をする。
俺はその様子に今度しっかりと時間を作れば良いと伝え、センジンさんにこれからの亜人族の行動について話し合う。
「まずセンジンさんには、他にもこの反乱に参加する者達がいるか確認しますね?それで、帝都に行くまで、もしくは帝都での動き方を考えましょう」
俺がそう言うと、センジンさんは思い出す様な表情をしつつ、
「まずは海洋に住む種族、頭領みたいな奴はいないが力を持っているレヴィアタンがその役を担っている感じだ。奴の隣に、参謀のウンディーネがいる。奴らとは比較的友好な関係で、ジーグに来る人族の船をある程度襲ってもらって疲弊させて貰ってる。そうすれば奴隷商人達は仲間達を連れ去る気力が無くなるからな」
そう言い始めた。
なるほど、だから俺は襲われたのか。
まぁ、レヴィアタンを見る事が出来たから、悪い事では無かったが。
俺がそう思っていると、
「後は、巨人族の部族とジーグに各地にひっそりと過ごしている部族達だな。…そいつらは子孫がなかなかできない所為で、部族自体が無くなる可能性がある連中だ。戦いに参加するとは言っているが、正直死に場所を求めている様で俺個人はあまり賛成は出来ない。だが、戦力は多い方が良い事を考えて奴らの事も数に入れている」
センジンさんがそう言って、申し訳なさそうな表情をする。
種族存続の危機か、帝都で奴隷にされている亜人族の人達を解放したり、帝都近隣の国でも亜人族差別が無くなれば、隠れて生きている種族と会える可能性もあるな。
巨人族も戦力としては十分だろうし、戦闘に向かない種族もやる事はある。
「種族が存続の危機にある人達は戦闘にはあまり参加させず、戦闘で怪我をした人を治癒する人達にしましょうか。レヴィアタンとウンディーネ達にはセンジンさん達がジーグから帝都のある大陸までの警護をして貰い、セイレーン達にはそのまま空中からの攻撃をお願いしてしましょう。人族は、自力で飛ぶ事が出来ませんし、飛べる術があってもセイレーン達には及ばないでしょう」
俺がとりあえず考えた作戦を伝えると、センジンさんは俺の言葉に頷きながらも、
「巨人族は力はあるが、その分動きが大きくて俺達から見たら隙が多い。戦闘開始の瞬間、後ろから岩か何かを投げつけるのはどうだ?」
そう提案をしてくる。
なるほど、巨人族の体躯を活かした戦い方だな。
当たらなくても牽制になるが、しかし反対に目立ってしまって魔法の標的になりそうだ。
それについても考えないといけない。
俺とセンジンさんが話し合いをし、様々な種族の特徴や弱点になりそうな事を聞いて陣形を考える。
そうして時間は過ぎていき、いつの間にか夜になっていた。
夕食はセンジンさんの家で食べていく様に言われ、エルヴァン達はこれ以上ここにいるのは怪しまれるからと言って宿屋に帰って行った。
夕食は疑似的な日本食といった感じで、赤飯みたいな色がついた穀物を主食に、焼き魚と何かの漬物、それと芋の煮物が出てきた。
久しぶりの和食に、感動しつつ頂いた。
その際に、ユキさんと改めて挨拶をしたのだが彼女は幼少期の頃、帝都のスラム街で過ごしていたと教えて貰った。
何でも、元々は奴隷同士の子供だったらしく、彼女の両親がユキさんが奴隷になる前に彼女を逃がした様だ。
記憶にはないが、スラム街の親代わりにそう言われたらしい。
まさか、スラム街出身の人がジーグまで来れていたとは…。
俺がそう言うと、ユキさんはジーグに来るまでにあった自身の話をしてくれた。
ユキさんは隠密というか、物陰に隠れるのが得意な様で帝都を出る時も商人の荷物の箱や隙間に潜り込んで移動をしていたらしく、ジーグに来る際も奴隷商人達の檻の間に隠れていたらしい。
元々スラム街で鍵を開ける技術を仲間内で教え合っていたらしく、そういうスキル?はあるらしい。
帝都で亜人族が生きるには、そういう技術が必要だと思うし俺は何とも思わない。
俺がそう言うと、少し困った様な反応をされてしまった。
どうしたのだろうか?
そう思っている内にユキさんはどこかへ行ってしまい、俺とセンジンさんは黙々と食事を続けた。
夕食を終え、俺はセンジンさんから教えて貰った宿屋に行く為に夜の町を歩いている。
この町に来て、最初に謎に思っていた煙突の様な筒から炎が出ている光景を見て、これが夜道を照らす街灯の役割をしている事を理解した。
それにしても、どうやって燃やしているのだろうか?
筒からガスか何か出て、それに火を灯しているのだろうかと考えていると、ふとゆらゆらと揺れている炎が一瞬だけ激しく燃える光景を目にする。
その光景に、もしかしてフランメさんの炎かと考える。
燃える炎を見つめていると、ゆらゆらと風に揺られて美しく見えている。
もしこの炎がフランメさんの炎だとしたら、この美しく夜道を照らしている炎の主が心を病んでいると知ったら、この町の皆はどう思うのだろうか?
そう考えながら、俺は宿に向かって歩き続けた…。
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