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手紙に書かれていた言葉に、俺はもっと色々な話を彼の口から聞きたいと思ってしまった。
それと同時に、彼の後悔の気持ちを汲んでやりたいと思った。
元々、亜人族を助ける気持ちはあったが、恩がある戦鬼さんの気持ちを聞いてなおさらそう思った。
「戦鬼さんの気持ち、確かに受け取りました。協力は、俺からさせて欲しいと願うくらいでしたが、戦鬼さんの言葉を聞いて、絶対に為すべき事だと心に決めました。例え亜人族の皆に信用されなくても、俺は亜人族を救ってみせる」
俺が決心した事をセンジン・ムソウに言い放つと、
「…爺さんは、あんたとの戦いを懐かしむ様に話していました」
センジン・ムソウさんはそう言って、先程の挨拶とは全く違う程深々と頭を下げ、
「感謝する」
お礼の言葉を言ってきた。
その後、センジン・ムソウさんからセンジンと呼ぶ事を許され、俺もヴァルダと呼んでくれる様に頼んだ。
のだが、
「せめて、さんは付けて貰わなければ。ヴァルダ様は、この世界で最も尊き存在。様が駄目ならば、せめてさんを付けろ」
「そうです!誰であろうとヴァルダ様が呼び捨てにされるなんてあってはいけません!」
俺の事を呼び捨てする事を良しとしないエルヴァンとアンリが、センジンさんに抗議の言葉を言い続ける。
そんな2人に気圧されているセンジンさんが俺の事を見てくるが、
「2人共、俺が許可したんだ。それにセンジンさんは塔の住人じゃない。そこまで強制するのは良くない」
「しかしヴァルダ様、それではヴァルダ様がこの男に従っている様では無いですか」
「僕もそう思います!」
俺が2人を注意しても、何故かこれだけは許せないらしく指示を聞いてくれないのだ…。
そうして少しの間言い争いに近い状況が続いたが、お互いにさん付けする事で何とか2人は治まってくれた。
俺がそう思って2人を見ていると、
「ヴァルダ…さん。実は貴方に会わせたい人がいるんだ」
センジンさんが、俺の名前を言い難そうに言った後そんな気になる事を言ってきた。
わざわざ俺に会わせたい人?
戦鬼さん以外で、俺の事を知っている人か?
センジンの言葉にそう考えていると、
「爺さんが、ヴァルダさんと同じ様に異質の力を持っているって言っていた人だ。その人はある理由で、町には住んでない。少し離れた洞窟に住んでるんだ」
センジンさんが、また真面目な顔でそう言ってきた。
戦鬼さんがわざわざそう言っているという事は、おそらく「UFO」に関係する人物だろうと推測する。
「分かりました。お会いしましょう。エルヴァンとアンリはここで、もしくは町で待っていてくれ。それと、おそらくセンジンさんに近づいた俺に気が付いている可能性があるから、その情報操作を任せても良いか?」
俺がエルヴァンとアンリにそう指示を出すと、
「分かりました」
「頑張ります!」
2人がそう返事をしてくれたのを見て、大丈夫だろうと屋敷から出る。
俺とセンジンさんが屋敷を出て少しすると、背後から気配を感じる。
すると、
「俺の護衛をしてくれているユキなんで、警戒しなくても大丈夫だ」
センジンさんが気配の主について教えてくれ、それなら警戒する必要は無いと意識を逸らす。
センジンさんの後に続いて歩いていると、誰もがセンジンさんに挨拶をしたり頭を下げたりしている。
慕われているんだな、戦鬼さんの孫…という感じが変な感じだが…。
俺がそう思いながらセンジンさんの後ろ姿を見ていると、どんどん町から離れて行って森へと進んでいく。
森を進んでいく間、俺はセンジンさんから離れな過ぎない様に気をつけつつ、周りの景色に視線を移す。
青々と生い茂っている草木に、緩やかに流れている小川。
小川には亜人族の子供達が石を運んで、おそらく川魚を取るための罠を作っているのだろう。
程良い、心地良い風が吹くのを肌で感じると、木陰で座ってゆっくりとしたいと思ってしまう誘惑が秘められている様に感じる。
「良い、過ごしやすい環境ですね」
俺が少し先を歩くセンジンさんにそう言うと、
「老人達が言うには、昔はもっと荒れ果てていたらしい。特に、人の心が荒んでな。それに影響されてか、森の動植物達も元気を無くしていったらしい」
センジンさんが、俺と同じ様に景色を見ながらそう答える。
おそらく、亜人族が差別される様になり始めてからだろう。
「国同士の流通を閉ざしたのは、正解だった。ま、今じゃ色々と資源を集める為にまた流通をする様になったがな」
センジンさんの自虐的な笑い方に、おそらくそれを決断したのも苦渋の決断だっただろう。
国の貿易を許可すれば、人族がジーグへやって来て酷い事をする。
それを止める事が出来れば良いが、止める事が出来なければ最悪帝都などに連れて行かれて強制的に奴隷にさせられてしまう。
すでに覚悟と決意は、揺るぐ事が無いだろう。
俺がそう思っていると、少し景色に変化が訪れる。
青々と茂っていた草木が枯れているし、地面も少し色が灰色になっている。
どこに行くのだろうか?
それに、こんなにいきなり環境が変化するものなのだろうか?
そう思いながらセンジンさんの後を追いかけると、大きな洞窟に辿り着いた。
センジンさんの隣に立つと、熱気が凄く押し寄せてくる。
暑い、燃えそうなくらい熱い空気が洞窟から外に放たれている。
俺がそう思っていると、
「ここから先は、ヴァルダさん1人で行ってくれ。爺さんもそうだったが、2人きりで話がしたいと思うんだ」
センジンさんがそう言ってくる。
俺は彼の言葉に、
「分かりました。この洞窟は一本道ですか?」
俺が返事をし道を間違えない様に質問をすると、彼は俺の問いに一本道だと教えてくれた。
俺はそれを聞いて安堵し、洞窟の中に入っていく。
熱気は洞窟を進んでいくとどんどん熱くなり、肌がじりじりと痛みを感じている様な錯覚を起こしてしまう。
ここまでの熱気、この奥には溶岩とかあるのか?
それにしても、この熱の中で合わせたい人とはどんな人物なんだ?
俺はそう思って歩き続け、ついに洞窟の最深部に到着した。
そこには、荒々しく燃えている炎を身に纏った男が座っていた。
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