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いくら考えが浅はかな俺でも、察する事が出来る。
センジン・ムソウ。
明らかに俺の戦友との名前が酷似している。
関係者だというのは明白。
しかし彼本人が出て来ないという事は、彼が何かしらの理由で俺の前に出て来れないという事だ。
…最悪の事態は避けたい所ではあるが、おそらくそれは…避ける事は出来ないだろう。
俺はそう思いながら、
「センジン・ムソウさん。貴方は戦鬼†無双さんの関係者と、考えてもよろしいですね?」
目の前に立つセンジン・ムソウにそう問う。
それを聞いたセンジン・ムソウは、真剣で鋭い視線で俺の事を見つめた後、
「センキ・ムソウは、俺の爺さんだ」
俺の問いにそう答えた。
…お爺さん…か。
随分と、こちらに来る時間がずれてしまった様だな…。
「詳しい話は、中でしよう。ユキ、いい加減警戒を解け」
「エルヴァン、お前も大丈夫だから柄を離しなさい」
俺とセンジン・ムソウさんが互いに配下の者にそう言うと、ユキと呼ばれた女性とエルヴァンが警戒心を解いてこの場は治まる。
そうしてセンジン・ムソウさんとユキさんに案内されて屋敷の中に入ると、俺は屋敷の中も和の文化がある事を確認しつつ案内された客室でセンジン・ムソウさんと対面で座る。
ソファとかでは無く、座布団なのも和を感じる。
戦鬼さんが、こういう和風好きだった気がする。
おそらく、彼が日本の文化をこちらの世界で再現しようとしたのだろう。
俺がそう思っていると、
「まず、改めて自己紹介を。亜人族の国ジーグを治めたセンキ†ムソウの孫、センジン・ムソウだ」
センジン・ムソウが僅かに頭を下げてそう言ってきた。
俺はそれに答える様に、
「貴方のお爺さん、戦鬼†無双さんの友人、戦友のヴァルダ・ビステルです」
自己紹介をし、彼と同じ様に少しだけ頭を下げる。
俺が頭を上げると、同時に客室にユキさんが失礼しますと言ってから入って来て、お茶を俺とセンジン・ムソウさんの前に置き、センジン・ムソウさんに少し古そうな紙を手渡した。
「ありがとうございます」
俺がユキさんにそう言うと、何故かビックリされてしまった。
そんなに驚かせる様な事を言っていないし、突然話しかけたけど大きい声では無いけど…。
少し不安に思いながらもユキさんが持って来たお茶の一口飲むと、久しぶりの味を感じた。
色合いは紅茶に似ているが、この味は麦茶だ。
帝都ではお茶といえば紅茶だったが、ジーグでは麦茶なんだな。
少し心安らぐ気持ちになっていると、
「まずは、この度は我々の私事に巻き込んでしまった事を詫びる。申し訳ない」
センジン・ムソウがそう言ってきた。
俺はその言葉に、
「いえ、俺も亜人族が虐げられている帝都の現状を良く思ってはいません。微力ながらも、お手伝いさせていただきたいと思います」
そう返すと、センジン・ムソウはユキさんに手渡された古い紙を俺に差し出し、
「爺さんから預かっていた物です。出来れば直接話したかったと、言っていました」
そう言ってきた…。
受け入れたくない故に何も言わなかったが、やはりもう戦鬼さんは…。
俺はそれを受け取り、
「聞いてもよろしいですか?」
そう口にしていた。
無意識にだが、多分聞かなければいけなかったと思っていたからこそ出てしまったのだろう。
俺の問いにセンジン・ムソウは頷きだけで返してくれ、それを見た俺は少し間を置いてから、
「お爺さん。戦鬼さんの最後は、安らかだったでしょうか?」
そう質問をした。
その言葉にセンジン・ムソウは、
「大往生でした。が、同時に心残りはあった様で、よく家族に言っていた」
そう答えてくれた。
彼の言葉を聞いて、少しだけ気持ちが落ち着く。
自分が思っていた以上に心が取り乱していないのはおそらく、この世界に戦鬼さんが来ていない事を望んでいたのと、来ていたとしても会える確率が低いだと思っていたからだろう。
彼に会える事を願い、希望を持ってしまっていたら今ここで涙を流していたに違いない。
それでも彼が亡くなっている事に戸惑いはあるが、自分が思っている以上に落ち着いている…。
俺はそう思いながら、センジン・ムソウさんに手渡された紙を開く。
その中には、
「戦友ヴァルダ・ビステルへ」
最初にそう書かれていて、更に続きの文章が書かれている。
手紙、この場合は遺書に近いかもしれない。
俺はそう思いながら、手紙の文章を読み始める。
『久しぶりだなヴァルダ。お前に会えない事が残念で仕方がない。お前には色々と話したい事が沢山あったが、お前はログインが遅いからな。いつも、ログインも遅いしログアウトも遅かったからなぁ~。許してやる、俺は大人だからな。「UFO」のサービス終了日にお前と別れた後、結局最後までログインしていたんだが、サービス終了と同時に周りの景色が変わってよ。自分は戦鬼†無双の体でどうなってるんだと困惑した。それと同時に、いきなり異世界に来たらピリピリしていた亜人族の国ジーグで、いきなり捕らわれちまったよ。何とか誤解も解けて、周りの亜人族の人達と交流して結構な年月が経った。そうしたら今度は人族と魔族の戦争だ。亜人族はその戦争に加わるつもりが無かったから、俺も傍観してたんだ。戦う事は怖かったが、それ以上に自分から戦いを仕掛けるつもりも無かった。俺にはその時にもう、嫁さんと子供がいた。家族を戦いから遠ざけたいのも、戦わない理由の一つでもあった。俺も老けて、剣を握らない時間の方が多かった。そうしていたら、人族と魔族の戦争が終結した。結果は、おそらく今の現状を見ていたら分かってるだろうが、人族の勝利で終わった。魔王は敗れ、配下の者もおそらく倒されただろう。俺はその時、安心したんだ。元の世界でも縁遠かった戦争が終わった事に。だが、そこからが問題だった。人族に難癖を付けられて、亜人族は捕らわれて奴隷にされ、虐げられるのが当たり前の世界になった。こうなるとは思っていなかった、俺の判断が悪かった。少しでも助力していれば、もう少しジーグは、亜人族達は平和に暮らせていたんじゃねえかって、俺は後悔し続けた。…ヴァルダ、俺の身勝手なのも理解しているし所詮ゲーム仲間だったお前にこんな事を頼むのは、お前からしたらふざけてると思うかもしれないが、頼む。俺達を助けてくれ』
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