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一方その頃、本の中の世界の世界では…。
「さてバルドゥ、貴方の後ろにいる女達は何なのかしら?」
ヴァルダが塔の外の世界に戻ってから少しして、シェーファがバルドゥとその後ろにいる女性達を鋭い瞳で見る。
「彼女達は、外の世界でゴブリンに襲われた村の生き残りです。帰る家を失った彼女達を、私がヴァルダ様に懇願して許可を貰いました」
バルドゥは緊張しながらシェーファの質問に答える。
バルドゥを含め、この塔の世界に生活している者なら誰でも知っている。
自分達の主であるヴァルダ・ビステルの自称妻であり、上位種であり希少種の彼女の力は他のエルフなどとは格が違う。
もしかしたら、単純な魔法攻撃ならヴァルダより上の可能性も十分にある。
「シェーファ、私はヴァルダ様の命令を遂行してくるね」
「えぇ、よろしく頼むわ」
そんなシェーファだが、自分達にいつも高圧的に話し掛けてくる訳では無い。
今の状況なら、バルドゥの後ろにいる女性達に警戒しているから威圧的なのだ。
何に警戒しているのかと言われたら、ヴァルダを裏切らないかとヴァルダに色仕掛けを行おうとしているのかくらいだ。
普段はそこそこ優しいシェーファだが、塔の管理をヴァルダに任されているシルキーのセシリアにはそれ以上に優しい。
聞いた所によると、シルキーの権限で塔を自由に移動する事が出来る彼女はシェーファにとって羨ましく思っている存在で、その権限を利用してセシリアと一緒にヴァルダの自室に侵入する事が1日に最低3回はあるらしい。
シェーファがセシリアにヴァルダの命令に動いてと言うと、セシリアは消える様に移動する。
彼女のこの移動の仕方は心臓に悪いと、塔の皆が言う。
「それでバルドゥ、彼女達はどこで生活する予定なの?この草原島のどこかに決まってるの?」
セシリアが消えると、シェーファがバルドゥにそう質問をする。
すると、
「はい、彼女達は私の家の近くに家を建ててそこで生活してもらおうと思っています」
バルドゥがシェーファの質問に答える。
「…そう。ならここに住んでいる者への挨拶は貴方がしなさい。私はこの島以外の所にいる者達に話をしてくるわ」
バルドゥの言葉を聞いたシェーファがバルドゥにそう言うと、
「引っ越しの挨拶は、貴女達も同行しなさいね。これから同じ島に住む者同士、しっかりと挨拶はしておいた方が良いわ。でないと、首に噛み付く者や刎ね飛ばそうとする者がいるから」
シェーファは続けて女性達に声を掛けてから、塔の中限定の転移魔法で移動する。
「…なんか私達が話しかけちゃ駄目な雰囲気な人だったね」
「うん。しかも耳が尖ってたよ」
「…胸も大きかったね」
シェーファという緊張感が無くなった女性達は、それぞれが抱いた感想を言い合う。
「…これからどうするんですか?」
その中で、ゴブリンキングに人質にされた女性がバルドゥに声を掛ける。
「とりあえず、草原島にいる者達に挨拶をしましょう。シェーファ様の言う通り、人だと聞いた時点で命を狙う者がいますから」
バルドゥはそう言って歩き出す。
その後ろを、女性達は緊張を興味津々の2つの感情で辺りを見回しながらバルドゥに付いて行く。
そうしてバルドゥ達は、草原島に住んでいる者達に挨拶をする。
ウルフ、グレムリン、ケンタウロスと順番に挨拶をする。
ウルフとは会話は出来ず、
「「「「「「よろしくお願いします」」」」」」
「バウッ!」
そんな感じではあった。
続いてグレムリンに挨拶なのだが、グレムリンはゴブリンの一種である。
女性達は少し怯えながら挨拶をしたのだが、
「おっすおっす!よろしく頼みますッス!」
凄い軽く返された事に少し驚く。
あまりにも自分達が聞いていたモンスター達と違うからだ。
次に挨拶に行ったケンタウロスは女性であり、女性達は少し安心しながら挨拶をした。
「よろしくお願いします。何か力仕事などで困ったら、いつでも言って下さい」
ケンタウロスは優しく微笑んでそう言うと、右手を差し出してくる。
女性の1人が代表として握手をした時、女性はケンタウロスの女性の匂いに顔を赤く染める。
その後、女性達はバルドゥに連れられてバルドゥの家に向かって歩いている時に、
「そういえば、アレクシアさんと握手した時に顔真っ赤だったけど、どうしたの?」
1人の女性がケンタウロスのアレクシアと握手した時の事を聞く。
「す、すごい良い匂いしたの…。甘い香り」
話し掛けられた女性は、アレクシアと握手した時の事を思い出して恥ずかしくなる。
すると、女性達の会話を聞いていたバルドゥが、
「ヴァルダ様が身嗜みはしっかりとしろと言って下さって、服や香水を用意して下さるんです。荒廃島にいるゾンビには特に気を遣っていたりして下さるんですよ」
自分達の主がどれだけ優しいか自慢する。
そうしてバルドゥの自慢話を聞いて歩いている内に、草原に建てられた小屋が見えた。
その近くには、ヴァルダの命令で倉庫に取ってきたであろう木材と石材が積まれている。
「…とりあえずヴァルダ様が戻られるまで、ご飯にしましょうか」
だが、ゴブリンであるバルドゥは武器を自作する事は出来ても家は建てられない。
錬金術師のヴァルダに作ってもらうしかないのだ。
その後、簡単に作った胃に優しい粥を食べながら、バルドゥは改めて女性達に名前を聞いた。
そして、緑髪のアレクシアと握手をした女性が、カミラ。
青髪のクラーラ。
茶髪のコローナ。
紫色の髪をしたフリーデ。
赤髪のイルゼ。
そして、金髪のバルドゥが助けたエリーゼ。
バルドゥはしっかりと彼女達の名前を覚えた後、草原の草の上に布を引いて休んだ方が良いと言う。
ヴァルダがまだ帰って来なさそうなので、先に彼女達を休ませようとしたのだ。
実際、彼女達は緊張した心が落ち着いたのと、満腹感から睡魔に襲われてコローナは眠りそうになっていた。
それを察したバルドゥの言葉に、彼女達は甘えて布の上に横になる。
外だと言うのに熱くも無く寒くも無い、とても過ごしやすい気温にすぐに眠ってしまう女性達。
最後まで起きていたエリーゼも、あと一瞬で眠ってしまうと感じた時、
「貴女達も、これから私の子供よ。おやすみなさい可愛い娘達」
女性の形をした闇が、エリーゼの顔を覗き込みながらそう言う。
見えない顔に、何故か柔らかい表情を感じて安心したエリーゼはそのまま眠りについた。
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