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船着き場に再度戻って来た俺は、荷物運びをしている男性に、船に物資を運ぶ事を手伝うと言って働いた。
男性は俺の言葉を聞いて人は足りているが、それ以上に物資の量が凄いから助かると言って喜んでいた。
これで、少しでも料金が安くなれば良いのだが…。
そんな気持ちで動き、どんどん荷物を積み込んでいく。
と言っても俺は運び入れるだけで、細かな物資の搬入は船乗り達がやってくれた。
俺はただ、ひたすら船と港を往復して荷物を運んでいただけだ。
そうして遂に昼前くらいの時間に船に全ての荷物が運び入れられ、それに続いて先程の貴族とその一団が船に乗り込み始める。
それを見ていて俺は、先程見た時よりも人数が増えていると思った。
重装備の者達が増え、更に軽装備の人達も加わっていた。
どこかに隠れていたのだろうか?
いや、船に現地集合だったのかもしれない。
俺がそう思っていると、他にもぞろぞろと様々な人達が船に乗り始めた。
まさか、これ全員あの貴族が招集したレヴィアタン討伐隊なのか。
俺が驚いていると、
「おぉあんた!仕事手伝ってくれてありがとうな!これが客室の鍵だ」
男性が俺にそう言って鍵を差し出してくる。
俺は彼に、
「まだ運賃を支払っていませんが…」
そう言って鍵を受け取らずに自分の財布として使っている袋を出そうとすると、
「何言ってんだ?支払いなら全部あの貴族様が一括で払ってくれてるよ!」
男性はそう言って鍵を更に俺に近づけてくる。
どうやら彼は、俺もあの一団の1人だと思っている様だ…。
まぁ、彼がそう間違えてしまうのは仕方がないだろう。
俺も武装はしているし、船に乗り込んでいる彼らもバラバラな装備をしている。
勘違いさせているが、まぁここは話に乗っかっておこう。
「そうだったんですか。末端の自分の分まで支払ってくれるなんて、感謝しなければいけませんね!」
俺はそう言って男性から鍵を受け取り、堂々と船に乗る事が出来た。
まぁレヴィアタンが出た時に、少し手助けするからギリギリ仲間だと言える…かも…。
そう思い直し、俺は客室に案内されるがまま部屋に入り、レヴィアタンが出現した際の行動を想像し始める。
レヴィアタンが海の怪物なのは理解しているが、海中にいるモンスターとの戦いはあまり経験が無い。
何しろ「UFO」では海中の戦闘は無かった。
海中に生息するモンスターも、「UFO」では海上に出てきてから戦闘になっていたからだ。
貴族の一団が装備などを船に運び入れているのは、仕事を手伝ったから知る事が出来た。
しかしあれは、海中にいるモンスターを相手にするには少し弱い気がする。
もっと効果的に海中にいるモンスターと戦う事を考えないと、効果的な攻撃が出来ずに逃げられてしまうかもしれない。
騎士よりも、魔法使いや召喚士の方が良い気がするな。
魔法使いなら魔法で遠距離の攻撃も出来るし、体が大きいレヴィアタンに対して範囲攻撃も出来る。
召喚士も良いのだが、周りにあそこまで人が多いと変に目立ってしまう。
俺自身は良いのだが、それで家族の誰かが嫌な気持ちになってしまったら嫌だ。
よし、魔法使いで今回は準備しよう。
俺はそう思うと、
「クラスチェンジ・魔法使い」
スキルを使用して、装備を変化させる。
レヴィアタンって水属性なのだろうか?
俺はそう思いながらとりあえず水属性に有利な攻撃が出来る、氷属性の攻撃力と持続時間が延びる装備を着け直し始めた。
あとは、行き当たりばったりでいくしかないだろうな。
俺はそう思い、後は運良くレヴィアタンに出逢える事を願いながら航海を楽しむ事にした。
航海は特に何も無く、たまに海が荒れる程度で済んでいた。
あの港で見た貴族は、甲板に出て気持ち悪そうにしていた姿を見て、船酔いになってしまったのだろうと察する。
彼の護衛はそんな彼に寄り添い、献身的に介抱していた。
しかし手が空いている者達は、帆の上に設置されている見張り台に登って大海原に異変が無いか見張りをしている。
そんな見張りをしている者達もそれぞれで、真剣にしている者もいれば反対に雑に見張りをしている者もいる。
緊張している様な表情をしている者もいれば、レヴィアタンに会える可能性は低いと言って笑っている者もいた。
俺は警戒する訳でも無く、海を見渡して久しぶりに見る大海原を楽しんだ。
そうして数日を船の上で過ごし、俺は流石に何日も見た海の景色に飽きてしまって客室に戻っていた。
その時、
「レヴィアタンだ~ッッ!?」
「全員、バリスタの準備を開始しろ~ッ!」
外から聞こえる怒号に、俺は急いで甲板に飛び出す。
そして見えたのは、大海原に渦潮を発生させながらも俺達を気にしていない様に泳ぎ続けているレヴィアタンの体が見える。
重厚な鱗を纏った体躯がしなやかに動く姿は、美しくも力強さと気品すら感じる。
あれが、海の怪物レヴィアタン。
体が大きい所為で顔を見る事が出来ないのが残念だが、それは後でゆっくりと拝むとしよう。
俺がそう思っていると、船に乗っていた武装集団がどんどんレヴィアタン討伐の準備を進めていく。
バリスタに槍や大矢をセットして、引き金を引ける様に照準を合わせる。
貴族の男も魔法の詠唱を始め、詠唱は少し長いが中級魔法を放とうと準備をしている。
一斉に攻撃を仕掛ける様だ。
それぞれが準備を終えるまで、攻撃しない方が良いだろうな。
俺がそう思っていると、船内から次々とバリスタに必要な槍や大矢、恐らく爆薬が詰まっているであろう小さな樽をどんどん甲板に運び込んでいく。
さて、俺も魔法をすぐに使える様に準備しよう。
俺は腰に差していた杖を抜いてレヴィアタンに向けると、
「放て~ッッッ!!」
おそらく見張り台からの号令に、俺も含めて一斉に攻撃を放つ!
バリスタから放たれる槍と大矢が飛翔し、貴族の男から放たれる魔法がレヴィアタンの体に衝突する。
しかし、槍や大矢はレヴィアタンの重厚な鱗に阻まれて海へと落ちていき、貴族の男が放った魔法も衝突しただけでダメージを与えている様には見えなかった。
俺が放った魔法も、たいして威力を強化しなかった所為でレヴィアタンの体に衝突しただけで終わった。
これは、長期戦になりそうだな。
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