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アンリの言葉に、俺は困惑してしまう。
ジーグに知り合いはいないし、俺はあまり目立たない様に行動している。
目立つ行動をしている時は、名乗る事もしなければ姿だって変装をしていたり見せたりしていない。
どういう事だ?
俺がそう思っていると、
「僕達も詳細を知りたいのですが、センジンさんはヴァルダ様に会って話がしたいと言っていました。センジンさんのお爺さんが、ヴァルダ様に伝言があるようです」
アンリが更に俺にそう言ってきた。
その言葉に俺は更に頭を傾げて、謎が深まってしまう。
お爺さんね、店や冒険者ギルドでの依頼で数回話した事があるくらいで、心当たりはやはり思い出せない。
俺はそう思い、
「センジンという人は、どのような外見だ?」
アンリにそう質問をすると、アンリは少し思い出す様な素振をして、
「亜人の方ですよ。人に近い見た目で、獣人の姿をしている所が少ない人です。頭の上に獣耳があり、手が少し体毛に覆われています。聞いた所、足も同じ様です」
そう答えてくれた。
なるほど、やはり外見を聞いても心当たりは無い。
しかし向こうが一方的に俺の事を知っているのは怪しい。
一体どういう経緯で俺の事を知った?
…いや、俺が考えても予想できないのは理解している、ならもうジーグへ行くしかない。
味方であれ敵であれ、相手の事を知らないと何もする事が出来ない。
警戒はしておかないといけないな。
俺がそう思ってつつ、
「アンリの話は了解した。俺もすぐにとはいかないが、ジーグへ向かおう。しかし少し待っていてくれ。俺も少し遠出をするには挨拶をしておかないといけない人がいるからな」
アンリに少し待っていてくれる様にお願いをすると、
「分かりました。ではもう少し状況を止まらせておきます」
アンリは立ち上がってそう返答をした。
俺もすぐに行動しようと立ち上がり、
「塔の皆に挨拶していくか?」
アンリにそう質問をする。
俺の言葉を聞いたアンリは首を振り、
「今はいいです。先を急いでいますし、もっと成長した姿で皆に会いたいと思ってます」
そう答えた。
「なら行くか」
「はいッ!」
俺が黒い靄を出しながらアンリにそう聞くと、アンリは元気に返事をした。
そうして俺とアンリは外の世界に戻ってくると、アンリはすぐにコウモリの姿に変身する。
「では、ジーグでお待ちしていますヴァルダ様」
コウモリの姿でパタパタ飛んでいるアンリがそう言い、
「少し待たせてしまう、すまないな。だが必ず行くから、それまで待っていてくれ」
俺はアンリの言葉にそう返事をした。
アンリは俺の言葉を聞いて分かりましたと返事をすると、空へと飛んで行ってしまった。
俺は目視で見えなくなるまでアンリの事を見送ると、少し前までいたブルクハルトさんの商館に戻りこれから少し遠出をする事を伝えた。
留守番をしていた奴隷の女性が首を傾げて何故また来たのだろうかと思っていただろうが、俺の伝言を聞いて理解してくれた様だ。
俺はそれから冒険者ギルドに行き、まずは受付嬢に遠出する用事が出来たからしばらくギルドには来れない事を伝えた。
冒険者ギルドでは、冒険者が遠出する際に書類を出さないといけない決まりらしい。
受付嬢に書類の作成をお願いすると、受付嬢はスラスラと書類を書いていき数分で完成させると、
「惜しいですね、ビステルさんはうちのギルドでは凄くしっかりとしている人なのに…。また粗暴で汚い冒険者しかいない場所になりますね…」
受付嬢がそんな愚痴を溢した。
俺はその言葉に苦笑しつつ、
「ありがとうございます。戻ってくる時期は分かりませんが、俺も金欠の身ですのでなるべく早く帰ってきます」
そう言って受付嬢に挨拶を済ませて冒険者ギルドを後にすると、今度は様々な国に行く為に止まっている馬車が集っている広場まで行くと、ジークに行く為の馬車を探す。
そうしてジーグへ行くためにはまず、とある港町に行きそこから船に乗らないといけないと説明された。
島国と言っていたし海に行くのは把握していたが、結構な時間を移動する様だ。
陸続きだったらある程度飛んで移動できるが、海になってしまったらそう簡単に目的の島に着けるとは思えない。
今回は諦めて、ゆっくりと移動するしかなさそうだ。
俺はそう思い、御者に料金を払い指定された時間にもう一度広場に集まるように言われ、俺は指定された時間まで適当に時間を潰して過ごした。
やがて来てくれる様に言われた時間になり俺は広場に移動するが、それにしても既に夕方になっているが今日は野宿になるのだろうか?
俺がそう思っていると、声を掛けておいた馬車の御者に声を掛けられて俺は馬車に乗り込む。
あまり贅沢をする訳にもいかないので安い馬車の席を借りたのだが、これはマズい気がしてきた。
座る席にはかつてはクッションとして役に立っていたのであろう物が置かれており、それが今ではぺったんこ状態になっている。
洗濯はしているのか、汚くは無いが…。
俺がそう思ってそのクッションの上に腰掛けると、予想していた通り座り心地が悪い…。
これなら、カルラや塔の誰かに送ってもらった方が良かったな…。
しかし、これで文句を言う事は出来ない。
金が無い俺が悪いんだ…。
俺はそう思い直すと、
「すみません。夕方に出るのですか?」
俺は外で準備をしている御者に声を掛ける。
俺の質問を聞いた御者は、
「えぇ、少し積み荷を頼まれてしまいましてね。それを大至急届ける為に、あと少しで出発しますよ。護衛の冒険者を2人雇っているので、問題は無いでしょうね」
笑いながらそう答えた。
俺も一応冒険者なんだが、まぁまだ第二級冒険者になったばかりだし名前を広めたい訳じゃないしな。
俺はそう思い他に馬車に乗ってくる人がいるのか考えていると、
「それでは出発しますよ」
御者がそう言って馬車に乗り込む。
どうやら客は俺だけの様だ。
俺がそう思っていると、外から少し言葉が荒い声が2人分聞こえてきて馬車が揺れる。
どうやら先程話していた護衛の冒険者の様だ。
俺も、いつかこうやって護衛の依頼を受けて色々な場所に行くのだろうか?
そう思っていると、馬車はゆっくりと動き出した。
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