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頭を下げたシェーファとセシリアを見て、とりあえず女性達の敵視している様子はない。
ひとまず安心して良いだろう。
「俺はまた一度外の世界に戻る。セシリア、倉庫の木材、石材で家を作る。用意をしておいてくれ」
「はい」
俺が指示を出すと、セシリアはいつものようにすぅーと消えていく。
…相変わらず、どうやって消えているのだろうか。
「シェーファは各島に言って人間が増えた事を伝えておいてくれ。下手に餌と勘違いされては困るからな」
シェーファに指示を出すと、シェーファは微笑んで移動を開始した。
これで、こちらで女性達が襲われる事は無い…と思う。
「バルドゥ、俺は今から外の世界に戻る。事情を聞かれると思うが、よろしく頼む」
「ハッ!」
俺はバルドゥの返事を聞いて、外の世界に戻ってくる。
それにしても、どうするかな…。
彼女達が村に戻ったり、ブラム村に移住したくないのは、ゴブリンに襲われて人間扱いされなくなる事を恐れたからだ。
なら、遠い場所で解放をすれば、俺の嘘と同じように旅人を名乗って生きていける気がする。
…とりあえず、彼女達の心の傷がある程度治ったら聞いてみるか。
俺はそう考えて、
「クラスチェンジ。騎士」
職業を騎士に変更して焼かれている村に近づく。
村に入ると、
「誰かいないか~!?」
少し記憶に残っている声が聞こえる。
声のする方向に歩いて行くと、村の家から出てくるダミアンさんが俺に気づく。
「ビステルさん、どこに行っていたんですか!」
ダミアンさんはそう問いながら俺に近づいてくる。
「最初ここに来たのですが、生存者は残っていなかったので襲った犯人であるゴブリンを探してきました」
俺がダミアンさんにそう言うと、
「そ、それでゴブリンは見つかりましたか?」
少し焦った声を出すダミアンさん。
おそらくゴブリンが次襲うのはこの村だと確定している。
襲われる前に襲撃するために場所を特定したいのだろう。
「この方向にある洞窟を棲み処にしていましたが、殲滅しておきました」
俺がそう言うと、ダミアンさんが信じられなそうな表情で俺の事を見てくる。
「1人でか?」
そう聞いてくるダミアンさんに、
「旅人ですから、多少腕に自信があります」
嘘を言う。
自信と言うか、ゴブリン程度なら流石に倒せる。
しかも戦った感じ、レベルはゴブリンキングが30程度。
オークが25くらいで、ゴブリン達は15~20くらいだった。
そんなのに負ける訳がない。
俺がそう思っていると、
「そうか、それは良かったと言って良いのか…。正直この村の亡くなった人の前では言えないな」
ダミアンさんがそう言ってくる。
確かに、亡くなった人の前で村が襲われなくて良かったなんて言わない方が良い。
俺がそう思いつつ村の遺体を見ていると、
「そういえば女と子供の姿が無いのだが、ビステルさん知っていますか?」
ダミアンさんがそう聞いてくる。
「はい。ゴブリンは肉の柔らかい子供を食った様でした。残骸が棲み処に転がっているのを見ました。それと女性達は、ゴブリン達に嬲られた所為で…自ら命を…」
俺がそう言って言葉を濁すと、
「そうか」
ダミアンさんは深くは聞いてこない。
嘘を言いまくって罪悪感が凄まじいが、これも人助けだ。
俺がそう思っていると、
「すまないビステルさん。埋葬を手伝って貰っても良いですか?」
ダミアンさんがそう言って、腕まくりをする。
「…分かりました」
正直遺体に触れるのは躊躇するが、これからもこんな事が起きる事を考えて慣れておかなければと心に決める。
そうして遺体の埋葬を手伝い、焼き焦げている家も崩した。
変に放置して墓が荒れない様にするらしい。
確かに、時が経てば崩れそうな状態だったからな。
俺とダミアンさん、それと名前も知らない男性と一緒に家を壊していく。
そうして夕方になる頃、一通りの仕事を終えて俺達はブラム村に帰ってきた。
ブラム村はすでに警戒態勢になっていたが、ダミアンさんの説明のお陰で警戒態勢は解除され、今日の夜は亡くなった人達の追悼の意味を込めて、亡くなった人達の墓にお酒を置いてくると伝えられた。
聞くとお酒は高級品の様で、祝い事の時か誰かの不幸な時に出すらしい。
アシルさんや村の若い人達が大きな樽を運んで行くののを見ていると、
「ビステルさん、今回のゴブリンの件、誠にありがとうございました」
村長のベルントさんが頭を下げながらお礼の言葉を言ってくる。
「いえ、俺は特に大した事はしていません」
実際、ほとんどバルドゥが解決したようなものだからな。
俺がそう思っていると、
「お礼に特別渡せる物が無くて申し訳ないのですが、こちらを受け取って下さい」
ベルントさんが何やら葉で包まれた物を俺に渡そうとしてくる。
「これは?」
「干し肉です。肉の臭みを抑える為にこの葉で包んでいるのです」
俺の質問にベルントさんが答えてくれる。
肉か…。
塔の倉庫に備蓄はあるが、食料はあっても困る事は無い。
それに、これを断ってベルントさんを困らせるのも悪いしな。
「ありがたく頂戴します」
俺がそう言ってベルントさんから包みを受け取ると、
「それと、1つ忠告と言いますか、マズい事になりまして…」
ベルントさんが申し訳なさそうにそう言ってくる。
「どうしました?」
俺が問うと、
「ゴブリンが出て、アンハレ村が壊滅した事を領主様に馬を走らせました。返答は明日にでも偵察で来られるそうです。その領主様が、…あまり人柄的に良い方では無く…。巻き込まないためにも、村を早朝に出る事をおすすめします」
ベルントさんが俺にそう助言をしてくれる。
なるほど、領主があまり良い人ではないから、その人に会わない様に気を遣ってくれているのか。
…どっちにしても、この村でやる事はした。
後はそこそこ栄えた都に行って、仕事と俺以外のプレイヤーの情報を探すとするか。
「分かりました。お気遣い感謝します。早朝に出発をしますので、今日もあの空き家をお借りしても良いですか?」
俺がそう聞くと、ベルントさんはどうぞどうぞと快諾してくれた。
さて、明日からもっと忙しくなるぞ。
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