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外の世界に戻った俺は、とりあえず眠り続けている男を担いでオークの死体と盗賊達を放置した場所まで戻ることにした。
そうして戻ってくると、俺が配置した通りに倒れている人達を見て、特に問題は起きなかった様だと安堵して担いでいる男もそこら辺の地面に放置し、俺は盗賊達が奪ってきた馬車を調べる。
馬車の中も物は荒らされている様だが壊れている場所は少なく、板に穴が開いているだけで動かすのに支障は無さそうだった。
俺は馬車から降りると、オークの死体に盗賊達と怪しい男を次々に馬車に乗せて、俺が引っ張って移動を開始した。
ステータスの暴力と言うか、普通なら馬に引かせる重さでもある程度持つ事が出来る場所があれば俺でも動かせる事が出来る。
少し時間は掛かってしまうが、わざわざ塔の誰かに手伝って貰う事でもない。
俺はそうして馬車ごと移動して帝都に戻ってくると、検問所にいた騎士の人達が変人を見る様な目で俺の事を見てきた。
最近は、依頼で結構な頻度出入りが多い故にあまり気にされていなかったが、久しぶりにあんな目で見られた気がする。
そんな視線を気にしつつも帝都の街を歩き進めると、道行く人達や様々な所から視線を感じて落ち着かなくなる。
そう思いつつ歩みを進めて冒険者ギルドに辿り着き、俺は馬車を冒険者ギルドの外に邪魔にならない位置に放置し、ギルドの中に入って受付嬢に依頼を終了した事とその際に起こった事を説明した。
それを聞いた受付嬢が少し慌てた様子で案内をお願いされて、ギルドの外に置いてある馬車に案内をすると受付嬢は何やらオークの死体と怪しい男を見つめた後、馬車から降りて外にいる冒険者を数人呼んでギルドに運び込む指示を出した。
数人で馬車の人や死体を運んでいく姿を見ていると、
「少し事情をお聞きしてもよろしいですか?」
受付嬢がそう聞いてきた。
俺はそれに従いギルドに入り直すと、いつもだったら受付の向こう側で会話をするはずの受付嬢がギルドの端の方に置いてある椅子に座り、何やら書類を丸いテーブルに置いた。
「どうぞ」
「あ、失礼します」
彼女の向かい側に座る様に案内をされ、俺はそう言って椅子に座る。
すると、受付嬢が書類を少し広げた後、
「では少しご質問させていただきます。ビステルさんが倒したあのオークはどのように倒したのですか?正直、第二級冒険者になってすぐに、あの様な成長をしたオークと戦い勝てたとは思えないのですが…」
少し言い辛そうに質問をしてきた。
質問の内容を聞いて、彼女が言い辛そうにしている理由が分かった。
やっとの事でしっかりとした討伐系の依頼を受けられるようになった駆け出しの冒険者が、いきなりこんな強そうに成長したモンスターを倒す事が出来るのか、もしかしたら違法な事に手を出しているのではないかと疑ってそう聞いているのだろう。
周りは血気盛んな冒険者だ、こんな質問をされたら怒る者も少なくないだろう。
俺の前にもこういう状況があって、受付嬢はその光景を見た事があるか実際に経験しているのだろう。
俺はそう思い、
「オークは森の奥に隠れるように移動していました。おそらく何かしたらの敵対者から逃げていた、もしくは倒したが自身も消耗していたんでしょう。俺が剣を抜いた時には、すでにオークの余力は残っていなかったんでしょうね、まだ冒険者になりたての俺でも苦戦して倒せるくらい消耗していました」
受付嬢に俺でも勝てた事を説明する。
それを聞いた受付嬢は、ふむふむと頷きながら書類に文字を書き込んでいく。
俺の話した事を書いているのだろうか?
受付嬢が書いていく文字を眺めていると、受付嬢が手を止めて、
「オークの件はこれで大丈夫です。報酬金は少し色を付けさせて貰いますが、あまり期待しないで下さいね」
そう言ってきた。
「ありがとうございます」
受付嬢の言葉にお礼を言うと、彼女は真剣な面持ちになって、
「次に、帝都の森付近で捕らえた男の件ですが、詳しく説明して貰ってもよろしいですか?」
そう質問をしてきた。
「どうぞ」
俺が次の言葉を促すと、受付嬢はありがとうございますと言ってからまた書類を用意した後、
「ではマンドレイクの採取依頼を受けた際のあの男に付いて教えて下さい」
そう切り出してきた。
俺は受付嬢の言葉を聞いて怪しい男が話した事を正確に伝えた後、大元の犯人は捕まえる事が出来る程の情報が無く、もしかしたらこれからも同じ様な事が続くかもしれない事を伝えた。
受付嬢が俺のそんな注意を聞くと、
「ビステルさんの前にも数人の冒険者さん達が依頼を受けてきましたが、ある者は装備を剥がれた状態で帰って来て、ある者は帰ってもきませんでした。こういう事だったのですね。マンドレイクという特殊な植物の依頼ですので、危険はありますし帰って来ない者もいるのは仕方がないですが、まさか裏でこんな事が行われていたなんて…」
受付嬢が嘆く様にそう呟き、書類に文字を書き込んでいく。
そして文字を書き終えると、
「今回のマンドレイクの件、ギルド職員としてお礼を言わせてください。ありがとうございます。今後はこの様な事が起きない様に努めます。それとビステルさんが犯人の男を殺さずに生け捕りにして下さったお陰で、もう少し手口などの詳細な情報を聞き出す事が出来ます。この度は、本当にありがとうございました」
一度椅子から立ち上がって深々と頭を下げてお礼を言ってくる受付嬢。
「いえ、他の冒険者にこれ以上被害が出ない様に務めてくだされば構いません」
あまり思ってもいない事を俺が言うと、
「オークの件とは違い、今回の件はギルドの謝礼で多めに報奨金をお支払いします。少々お待ちください」
受付嬢はそう言って席を立ち、受付の奥へと入っていった。
少しして受付嬢が少し膨らんだ袋を持って戻ってくると、
「これが今回の依頼3件の報酬金です、お疲れ様でした。次のビステルさんのご活躍を願っております」
そう言いながら袋を差し出してくる受付嬢。
俺は彼女の言葉に椅子から立ち上がってお礼を言ってそれを受け取ると、ギルドの外に出る。
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