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エルヴァンとアンリが別れてから少しした頃、帝都で第二級冒険者試験を受けているヴァルダは…。
「はぁぁーっ!」
わざとらしく大きな声を出して剣を振るう。
靜佳に譲ってもらった初期の未強化装備の所為か、切れ味が悪く力任せに斬っていると言って良い。
剣に当たったゴブリンは、斬られた痛みで醜い悲鳴を上げる。
依頼の内容を見た感じ、俺が相手をしているこのゴブリン達は村を襲う奴ららしいので、特に気にする事も無く攻撃できる。
意思疎通も出来ないし、とりあえず早くこんな人にジーッと見られながら戦うのは嫌だ…。
これなら、まだ薬草を摘んだりしていた方がマシだった。
俺はそう思いつつ、向かってくるゴブリンと対峙する。
流石に仲間が殺されている光景を見て危険な相手だと判断したのか、最初に比べると警戒しながら攻撃して来るのが分かる。
と言っても残るゴブリンの数は2体。
元々5体の討伐依頼だったから数は少ない方だ。
群れのボスもいないようだし、比較的簡単な依頼だったな。
俺はそう思いつつ、ゴブリンに攻撃を仕掛ける。
下手に力を入れすぎると、俺が持っている武器諸共破壊してしまうから加減が大変だ。
そんな事を考えつつ、俺は剣を大振りで上から振り下ろす。
ゴブリンはそれを錆びて刃こぼれが酷い剣で受け止めると、俺の力が籠っていない事に油断したのか気持ち悪く笑う。
しかし俺はそこから脚でゴブリンのがら空きになった腹を優しく蹴ると、ゴブリンは予想できなかった腹への攻撃に驚き、自身の腹に異常が無いかを確かめる様に擦る。
その隙に俺は突きを放ち、ゴブリンの腕に剣を突き刺す。
腕の痛みにゴブリンが喚くが、俺は気にせず剣を引き抜いて動揺したゴブリンの頭部を刎ねる。
瞬間、もう一体のゴブリンが背中から強襲してくるがそれを倒れこもうとしている頭が無いゴブリンの体を掴み、盾に使用して攻撃を躱す。
仲間の死体を利用された事に驚いたゴブリンは、そのまま怒りなのか分からない様子で猛撃を続ける。
すると、
「大丈夫だッ!そのゴブリンはもう力が残っていないッ!押し切れッ!」
俺の今回の試験の監督である、第二級冒険者のベンノさんがそんな事を言ってきた。
良かった、あまり俺の事を怪しんでいない様だ。
ここ最近、他の冒険者の戦闘する光景を盗み見して勉強しておいた成果だろう。
ギリギリの戦いが出来ている。
俺はベンノさんの指示通り、乱雑に剣を振るいゴブリンに攻撃の隙を与えない様にし続け、
「ギャッ?!」
ゴブリンが剣を落とした瞬間、最後の一振りを振り下ろした。
依頼通りの数のゴブリンを倒し切ると、
「危ない所が何回かあったが、怪我をしないで倒し切るなんてやるじゃねえか」
ベンノさんがパチパチと拍手をしながら近づいてくる。
「いえ、俺もギリギリでした。もっと頑張らないと」
全く思ってもいない事を言う。
少し彼に申し訳ないと感じてしまう。
更に続けて、
「それで、これで試験は終わりですか?」
そう質問をすると彼は笑って、
「そうだ。後は無事にギルドに戻って達成報告をしたら、あんたは第二級冒険者になれる。報酬も今までの倍になって、生活が楽になるぞ~」
そう言ってきた。
収入面が安定するのは良い事だな。
俺がそう思っていると、ベンノさんが帰る事を伝えてきて俺達は帝都に戻った。
帝都に戻ってきてすぐに、俺達は冒険者ギルドで試験に合格した事を報告し、受付嬢がそれを聞いて何やら判子を取り出した。
そして、
「冒険者カードを」
短くそう言ってきた。
俺は受付嬢の指示に従って冒険者カードを差し出すと、空白の場所に判子が押される。
「おめでとうございます、これで第二級冒険者へと昇格しました。受けれる依頼が増え、今までより難易度が高い採取系や討伐系、他にも有名になると護衛系の依頼を受ける事も出来る様になります」
受付嬢が判子を仕舞いながらそう説明をしてくるのを聞いていると、
「ですが、その代わりに危険な事も増えていきます。パーティーなどを組む事をおすすめします」
受付嬢がそう勧めてきた。
それを聞いた俺は、もしパーティーを組むにしても亜人族を虐げない人限定だな。
それ以外はあり得ないし、ふと仲間になった人が亜人を虐げる姿を見てしまったらそのまま仲間を殺す可能性すらある。
「考えておきます。ありがとうございました」
俺はそう思い、組まない方が互いの為だろうと考えて受付嬢にお礼を言う。
俺の言葉を聞いた受付嬢は、説明が業務の内故に深くは勧めてくる事は無く他の業務を再開する。
さて、これで第二級冒険者になった。
これでより良い収入になって亜人族を奴隷から解放でき、ゆっくりと塔で過ごしてもらえる。
改めてお金の大事さを感じつつ、もっとブルクハルトさんの所で奴隷を買わなければと思い、依頼の紙が貼られている掲示板に近寄る。
何度もここへ通っているうちに、何級の冒険者が受けられる依頼かくらいは理解できる様になった。
赤い判子が押されている数によって、依頼の難易度が変わるらしい。
「判子の数的に、これくらいなら第二級冒険者でも受けられるかな?」
俺はそう呟くと、数枚の依頼書を持って受付へと行く。
「これは、何て書いてありますか?」
俺がそう質問をすると、先程の受付嬢が俺から受け取った依頼書を見て、
「これは少し離れた森にオークが出たので、それの討伐依頼ですね。それとこれは、近くの川の付近に現れた盗賊の捕縛及び討伐依頼です。あとこれは、専門の知識が必要な採取依頼です」
しっかりと説明してくれる。
「採取依頼は、どの様な?」
俺がそう質問をすると、
「マンドレイクです。引き抜いた瞬間に悲鳴を上げ、聞いた者を発狂させ死に至らせる薬草です。それ故に、それをどうにかする知識がある人しか依頼を受けたりしません。特に1人の冒険者は…」
そう説明をしてくれて、何やら気になる事を呟いた。
それにしても、マンドレイクか。
マンドレイクとアウラウネは同一で、成長の過程で進化したのがアウラウネという設定だったはずだな「UFO」では。
なら前に出くわしたマンドレイク、改めアウラウネに話を聞ければもしかしたら依頼が達成出来るかもしれない。
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