171頁
エルヴァンに言われた言葉に、センジンは表情を歪めたまま立ち尽くしてしまう。
「もし戦いを起こし、亜人族が負ければどうなる?捕虜になった亜人族が、生きているのも後悔する様な事が行われるのは分かり切っているぞ。貴様達は死ぬだけで済むかもしれないが、生き残ってしまった者達はどうする?貴様は、生き残った者達の事も考えなければいけないのではないのか?」
エルヴァンはセンジンを更に問い詰める。
センジンはエルヴァンに言われた事を理解し愕然としてしまう。
自分達が戦う事で、亜人族の武威を示せると思っていた。
しかしそれが原因で、生き残った亜人族が今よりももっと酷い扱いを受けてしまう事を考えていなかった。
交流を絶つか死しか考えていなかった。
センジンのそんな様子に、エルヴァンはジーグの者達の考えをヴァルダに伝えた方が良いか考え始める。
このセンジンの親族が、ヴァルダ様の事を知っている事も気掛かりだ。
この状況はどう行動するべきことなのだろう?
エルヴァンはそう考え、隣に座っているアンリに視線を送る。
「?」
そんなエルヴァンの視線に気づいたアンリは、何故エルヴァンが自分の事を見ているのか疑問に思い首を傾げる。
アンリの様子を見たエルヴァンは、後で相談しようと思い直し、
「あまり早まった事をするべきでは無い。今行動を起こしても意味は無い、無駄死にをして更に亜人族の者達が虐げられるだけだ」
そう言い立ち上がり、置いておいた大剣を背負い直す。
エルヴァンの行動を見て帰る事を予想できたアンリも立ち上がる。
そんな2人をセンジンは止める事はせず、ただエルヴァンに言われた事を飲み込み考え込んでいる。
ユキはそんなセンジンに、声を掛けるか迷いつつも屋敷を後にするエルヴァンとアンリよりも先に屋敷の外に移動しようと駆け足で移動をする。
そうしてエルヴァンとアンリがセンジンの屋敷の敷地から出ようとすると、
「…不本意ながら、センジン様にご忠告のお言葉を言ってくださりありがとうございます」
ユキが浅く頭を下げて2人にお礼の言葉を掛ける。
しかし、
「礼を言われる事でもない。私は意味もない戦いをする事を咎めただけだ。私達の言葉を聞いて、しっかりとした考えを持ち亜人族を導くのが貴様の、貴様達が信頼しているセンジンだ。…奴が暴走しない様にするのは、貴様達のやるべき事だ」
エルヴァンはそんなユキに、特に気にした様子もなくそう言うと歩き出してしまう。
そんなエルヴァンの言葉を聞いたアンリは、未だに頭を下げているユキの元に近寄ると、
「エルヴァン様はあんな事を言っていますが、センジンさんみたいな面白い闘い相手がいなくなる事を残念がっていると思いますよ。心配もしています、だから頑張ってくださいね」
そう囁き、少し駆け足でエルヴァンの後を追いかけた。
その後、エルヴァンとアンリは宿屋をなんとか見つけ出し泊まる事が出来た。
一室に入ると、エルヴァンは荷物と背負っている大剣を壁に立て掛け、
「…アンリ、先程のセンジン達の話は信用できるか?」
頭を脇に抱えてそう質問をした。
エルヴァンに質問をされたアンリは、
「僕的には、信用できると思いますよ。センジンさん達はそれ程まで追い込まれている状況なんでしょう。少し自分の力を過信している様ですけど、エルヴァン様の言葉でどう変わりますかね?」
そう答えながら装備を脱いで楽な服装になる。
アンリの言葉を聞いたエルヴァンは、ベッドの布団の上に頭を置き、
「この事をヴァルダ様に伝えた方が良いだろうか?帝都に亜人族が攻め込むという事は、ヴァルダ様にも危害が及ぶ。ヴァルダ様はあの程度で怪我はなさらないだろうが」
更に質問をする。
エルヴァンのそんな言葉に、
「僕はあまり今の段階でヴァルダ様に相談するのは良くないと思います。ヴァルダ様の事ですから、大丈夫と言ってくださって行動なさってくれるでしょうが、それではヴァルダ様が大変になってしまいます。だから、僕達である程度行動をして亜人族の皆さんの行動と、剣聖さん達の行動を制御してからの方が良いと僕は思います。情報もまだ定かではないし、もう少し探ってみた方がヴァルダ様に正確な情報を伝える事が出来ますよ」
アンリはベッドに横になりながらそう答える。
彼の言葉を聞いたエルヴァンは、確かに今はまだ情報が正確では無い事を考えて、アンリの言う通りもう少しここに滞在し情報を集めた方が良いだろうと判断する。
「では、これからはヴァルダ様にお届けする情報集めと、亜人族の動きと剣聖達の動きを監視する事を考えよう」
エルヴァンが考えをまとめ、アンリにそう提案する。
それを聞いたアンリは、はいと返事をした。
それから数日の間にエルヴァンとアンリは精鋭騎士達から僅かにだが情報を貰い、センジン達からも情報を受け取っていた。
精鋭騎士達はセンジン達が行動を起こさなければ動くつもりは無いと伝えられた故に、エルヴァンとアンリはセンジン達の動きをより注目し交流を深めていく。
センジン達に剣聖達の考えを伝え、計画が明るみになるような行動をしない事と、不用意に行動をすれば剣聖達がすぐに鎮圧に動き出すだろうと伝えた。
エルヴァンとアンリの注意を聞いたセンジンは、仲間達にもその事を伝えて変な行動をしない様に命令を下した。
そうしてセンジン達は冷静に戦力を整え、剣聖達は今か今かとセンジン達を監視している状況を作り出した。
そして両陣営は、情報を提供するエルヴァンとアンリの言葉を待っている状況だ。
「ここまで事が進めば、ヴァルダ様にご報告しても大丈夫だろう」
エルヴァンが確認する様にアンリにそう聞くと、
「はい。今の状況はヴァルダ様にとっても扱いやすい状態になっていると僕も思います」
アンリもエルヴァンの言葉に同意し、笑顔でそう答える。
エルヴァンはアンリのその言葉を聞き、
「では、アンリ。任せても良いか?」
アンリにそう聞いた。
エルヴァンは一度アンリと別れ、エルヴァンはジーグに、アンリはヴァルダの元に行く事を予め話し合っていた。
エルヴァンにそう聞かれたアンリは笑顔で、
「任せてください!少し時間は掛かるかもしれませんが、必ずヴァルダ様にお伝えします」
そう言い切った。
読んでくださった皆様、ありがとうございます!
ブックマークしてくださった方、ありがとうございます!
評価や感想、ブックマークをしてくださると嬉しいです。
誤字脱字がありましたら、感想などで報告してくださると嬉しいです。
よろしくお願いします。