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靜佳と紅茶を飲んで少し休んだ俺は、1人自室で装備の確認をしていた。
というのも、ここ最近の依頼達成頻度の影響で昇級試験を受ける事が出来る様になったのだ。
第三級冒険者は採取などしか依頼が無いが、依頼の達成頻度を一定に保ち続ける事で試験を受ける資格を得ると説明された。
それに加えて、俺は適当に見つけた意思疎通も出来ず、攻撃を仕掛けてきたモンスターを狩り素材を売っていた事も評価され、他の第三級冒険者に比べたら早い段階で試験を受ける事が出来る事になった。
しかし問題はここからで、
「第二級の先輩冒険者が同行が問題なんだよな…」
俺は告げられた試験内容を呟いてため息を吐く。
今まで採取や、たまたまモンスターを狩っていた事冒険者を見守るという事で、試験の際には第二級冒険者と共に行動しないといけない。
試験内容は、ゴブリンなどの比較的倒しやすそうなモンスターの討伐依頼を完遂する事。
その際に第二級冒険者が同行するらしいが、今の俺の装備ではそんな依頼はすぐに終わってしまう。
別に目立ちたい訳でも無く、むしろ隠密にコソコソと動きたい俺としてはこの試験の内容は少し悪目立ちをしそうだ。
そこで装備を見直していたのだが、
「流石に今の装備で敵を倒す姿を見られるのはマズい。明らかに第三級冒険者以上の異次元の攻撃力を見せつけてしまう…」
俺の持っているアイテムの中には、強化してあるものしか存在していない。
初期装備ですら、今はガッツリ強化してしまっている。
靜佳に頼んで、素材にする予定の装備を譲ってもらうしかないかも。
俺はそう思い、先程別れたばかりの靜佳の元に行く事に決め、自室を出て階段を下り始める。
すると、
「ヴァルダさまだ~」
「ヴァルダさま~」
「こ、こんにちは」
いつもだったらルミルフルと一緒にいる3人の子供達が、一階違いで俺の事を呼んできた。
「今はルミルフルと一緒では無いのか?」
俺がそう聞いて少し早足で階段を下り、3人の元に駆け寄る。
すると、
「畑で話してる!」
「色々な人達と話してた」
「はい」
サールとソルがそう言い、ヴィアンが2人の言葉に同調し返事をする。
3人の言葉を聞いてルミルフルと一緒にいない理由は理解したが、それでも彼女が3人だけで動く事を許可するだろうか?
少しサッパリとしている彼女ではあるが、意外にも過保護で子供達の事を大事にしているのは知っている。
俺がそう思っていると、
「大丈夫ですヴァルダ様。ルミルフルさんの願いで、今は私が彼女達のお世話をしています」
セシリアが姿を現してそう言ってきた。
俺はそんな彼女に、
「セシリア、もう仕事は全て終わっている状態か?」
そう質問をしてみる。
すると、
「いえ、少しやる事が残っています」
セシリアが少し申し訳なさそうにそう言ってきた。
「別に責めている訳では無いから謝らないでくれ。何が残っている?」
そんな彼女にそう聞くと、
「各島々の不備が無いかを調べる事です。もし不備があれば、ヴァルダ様に報告させていただきます」
セシリアがそう言ってくる。
その仕事なら、今暇な俺でも出来るな。
俺が子供達の世話をしても良かったが、セシリアの方が子供達も嬉しいかもしれない。
そう考え、
「それくらいなら俺が代わりにやっておく。セシリアは子供達と遊んであげてくれ。仕事が終わったら合流する」
セシリアにそう言うと、少しセシリアが困惑した表情をしている。
そんなセシリアに俺は、
「変に申し訳なく感じる事は無い、いつもやって貰って助かっているくらいだ。それを一回だけ代わって貰ったくらいで申し訳なく感じる必要はない」
そう言って階段を下り始めた。
一方冒険者ギルドの依頼でジーグに来ているエルヴァンとアンリは………。
「あんたの動向はあまりに大雑把すぎる!もう少し行動を控えていただきたい!」
ジーグの精鋭騎士に、注意を受けていた。
しかし、
「最初の時点で目を付けられてしまった時点で、お前達と同じ様に隠密で行動など出来る訳が無い。むしろ現状で行動を控えると、怪しまれるのではないか?」
基本的にヴァルダにしか従わないエルヴァンが、注意の言葉を放ってくる騎士に反論する。
その言葉に、
「エルヴァン様の言う通りですよ…。確かに目立ち過ぎているのは悪いと思いますが、これ以上はあまり目立たない様にするつもりですし」
アンリが同調し反論する。
そんな2人の言葉を聞いた騎士は顔を歪める。
騎士の表情が変わった事に気が付いたアンリは、
「それに貴方達に指示を出している剣聖さん?は特に文句はないんでしょう?僕達が言いたい事があるかと聞いても、何も指示を出してこないですし…」
更に反論を続ける。
それを聞いた騎士は、アンリに言われた事が事実だという事に何も言えなくなってしまう。
事実エルヴァンとアンリの行動が目に余る精鋭騎士達が剣聖に報告をしても、
「あぁ、それくらいなら問題ないだろう。もっと獣達が動きを見せ行動を始めたくらいで十分だ。所詮人型の畜生の集まり、行動をしたくらいで丁度良い」
そう言われてしまい、部下である騎士達は不安な気持ちが大きくなる一方だった。
そんな気持ちを持ちつつ、精鋭騎士はエルヴァン達のいる部屋から隣部屋に勝手に作った簡易的な扉を通って帰って行った。
それを確認したアンリは、
「まったく何なんですかねあの人達は?センジンさん達亜人族をまとめている人達の動向を観察して、報告をしないといけないって…。そういう割には、向こうは何かしている様には見えません!」
定期的に情報を伝える為に現れる精鋭騎士達の文句をエルヴァンに言う。
それを聞いたエルヴァンは、
「仕方がない。彼らが動く為には何かしらの理由が必要なのだろう。お互いの情報を知っている私達からすれば、これからどの様に行動すればヴァルダ様に貢献できるか、それを考えた方が良いだろう」
そう言って借りている宿屋を出発する準備を始める。
エルヴァンの行動を見たアンリも準備を始め、全ての準備を終えると2人は宿屋の部屋を出発した。
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