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バルドゥと別れた後、俺は何とか女性達を外に連れ出す事が出来た…。
ちなみに足を切断されていた女性は手持ちの上質の回復薬と、切断された足で繋げる事が出来た。
これで切断された先の足が無かったり、傷が完全に塞がっていたりしたら駄目だっただろうな。
それにしても疲れた…。
俺がそう思いながら先に来ているであろうバルドゥ達を探すと、女性に近づきすぎない距離を保ちつつ話しかけるバルドゥと、まだ光の無い瞳で虚ろな表情をしている女性を見つけた。
俺がバルドゥと女性に近づくと、
「ひぃ…」
「ゴ、ゴブリン…」
俺の後ろにいた女性達がバルドゥを見て悲鳴を上げる。
…さっき会っているはずなんだが?
それと、流石に大事なバルドゥを見て悲鳴を上げられるのは、少し怒りを覚える。
まぁ、ゴブリンに酷い目にあったから仕方ないと思い、
「彼は俺が使役しているゴブリンなので、安心して下さい。…むしろ俺よりも紳士的で良い奴です…」
俺がそう言うと、
「ヴァルダ様、この人達はどうしましょうか?」
バルドゥが女性を気に掛けつつ俺にそう聞いてくる。
彼女達には少しだけ話を聞いて、あのゴブリン達に焼き打ちされた村の者であるという事は知っている。
「…そうだな。彼女達の村は全滅している。俺が泊めてもらった村に滞在させてもらった方が…」
俺が女性達の事を考えてそう提案しようと声を出すと、
「そ、それだけは!お願いします!」
1人の女性が何故か震える声でそう言ってきた。
見ると、声を出した女性以外も恐怖に怯えている様な表情をする。
「何故ですか?ゴブリンは全員殺しました。あの村が襲われる事は…」
「私達はモンスターと…無理矢理ですが交わってしまいました…。もう私達は人ではないんです…。もう、奴隷になるしか…」
俺が質問をしようとすると、女性が怯えた表情でそう口にする。
つまり、モンスターと性行為をしてしまったから、彼女達は人では無くモンスター的な扱いになるという事か?
「でも、それはそういう事があったと分からなければ良いんじゃないんですか?」
俺がそう聞くと、女性はゆっくりと首を振って、
「無理です。私達や貴方が黙っていても、あの村の誰が密告するか分からないんですから…」
そう言ってくる。
…色々と生きにくい世界だな。
俺がそう思いつつ、
「じゃあ貴女達はこれからどうやって生きていくんですか?」
そう聞くと、女性達は顔を見合わせる。
すると、
「…ここで」
後ろから声が掛けられる。
振り返ると、バルドゥが心配して傍にいる女性が声を出す。
「…ここで、細々と暮らしていきます」
ここで…とはこの洞窟の事を言っているのだろうか?
すると、俺の後ろにいる女性達もその方が良いかもしれないと同調し始める声が聞こえる。
「ここは今は誰もいないですが、この先また流れてきたゴブリンが棲み処にする可能性があります。その時貴女達はどうするんですか?」
俺がそう聞くと、女性は感情が籠っていない薄ら笑いを浮かべて、
「その時は、ゴブリンの慰み者にでもなります。もう私達は人ではないんです。結果は変わらないです」
そう言った。
この人はもう、これからの人生を諦めてしまっている。
…死んでしまった方が楽だと、そう思っているのかもしれない。
だからここまで生きる事に無気力なのかもしれない。
俺がそう思っていると、
「貴女は、ゴブリンと共に生きても良いと言ってるんですか?」
女性の側に立って俺達の話を聞いていたバルドゥが、女性にそう質問する。
すると、
「そうですね。人として過ごすなんてもう出来ないと思っていますし…」
女性がバルドゥの言葉にそう答える。
すると、今まで女性を心配して離れなかったバルドゥが女性から離れて俺の元にやって来ると、
「ヴァルダ様、この女性達を塔で…いえ、私の棲み処に過ごす事を許可して頂きたいです!」
もはや頭を下げるというよりも土下座をする様な体勢で、バルドゥは頭を下げてくる。
そんなバルドゥの行動に、流石に感情が死んでいる女性も驚いたのか俺とバルドゥの事を見てくる。
まぁ、バルドゥがここまで頼んでくるんだ。
許可するのは全然良い。
だがこの状況じゃ、バルドゥはこの人達に酷い事をしようと思って、俺にそう頼んでいるかもしれないと思われてしまう。
バルドゥが良い奴なんだと少しでも分からせるためには…。
「どういうつもりだバルドゥ。この女達を助けたのは、偶然に過ぎない。俺とお前が、敵とどれだけ渡り合えるのか調べるためにゴブリン達を全滅させた。その時に偶然まだ生きていたこの女達がいただけ。ならもう、俺とバルドゥのやる事は済んでいるはずだ」
俺が高圧的に話すと、バルドゥは頭を地面に付けて、
「その事は分かっています!ですが彼女達はゴブリンの被害者!なら責任はゴブリンである私が取るべきだと判断しました!」
俺に懇願してくる。
や、やめて~。
そんなに頭下げないでくれ…。
厳しく言っている俺も辛いんだ…。
「…この女達が塔へ行ったとしても、周りの環境に適応できる可能性も少ない。他のモンスターに喰われるかもしれないんだぞ。それでもお前は塔へ連れて行って欲しいと願うんだな?」
俺がバルドゥにもう一度聞くと、
「彼女達は俺がしっかりと守ります!命に代えても守り抜くと誓います!」
バルドゥが諦めずにそう言ってきた。
これくらい言えば、少しでも信頼してくれるかな?
俺はそう思い、
「こう言ってはいるが、貴女達の意見を聞かないと意味はないですからね。バルドゥを信じて、死と隣り合わせの世界に行きたいですか?」
女性達の顔を1人1人見ながら問う。
すると、
「行きます…」
悩んだ様子もなく、バルドゥが心配していた女性がそう言ってくる。
彼女は死を望んでいる、俺の言葉を魅力的だと思ったのだろう。
そう思いながら俺は他の女性達を見ると、女性達は互いの顔を見合わせ、そして頭を未だに下げ続けているバルドゥを見て、
「お願いします」
そう答えた。
じゃあ一時契約をしようと本の中の世界を開いて、まずは女性達を綺麗サッパリにして服を用意する事が先だなと判断して、塔の倉庫から水と服を取り寄せ始めた。
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