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シュリエルとターリットさんの言い合いは少しの間続き、俺とブルクハルトさんは黙ってその様子を見守っていた。
しかしあまりにもシュリエルが言い返してくる事に、ターリットさんの方が折れて話を切り替えようとし、
「それで契約の話に戻すが、さてこの娘をどれくらいの値で売ろうかってところだ」
俺とブルクハルトさんの事をゆっくりと見ながらそう言ってきた。
やはり、商売は上手な様だ。
ここで下手に安くされては彼女に借りを作る事になって、高ければもっと吊り上げてきそうだ…。
この状況では素人の俺は口を出さない方が良いだろう。
俺がそう思っていると、
「………亜人?の女の子、男性経験が無くて物作りが得意な人の相場っていくらなんですか?」
まさかのシュリエルが不機嫌そうな顔のまま、ターリットさんにそう質問をした。
流石に彼女が値段の話に加わってくるとは思わなかったのか、ターリットさんも流石に少し驚いた様子で固まっている。
ブルクハルトさんもある程度の値段は決めていただろうが、まさかの横からの口出しに声を出せなくなっている。
そう思って事の成り行きを見守っていると、
「そうだね、正直亜人族の作った物なんて公で売っても買い手なんていないだろうし、それは値段上査定には関係ないね。特に私は、見た目重視で商売してるしね」
ターリットさんがそう言って、改めてシュリエルを見る。
そして、
「あんたは体は貧相だが、顔だけは良いからね」
ターリットさんがそう言い、シュリエルの胸に手を伸ばす。
「あっ………」
そんなターリットさんの言葉に、今までハキハキしていたというか、元気だったシュリエルが一瞬で静かになった…。
だ、大丈夫か?
まさか、クリティカルだったのか?
俺がそう思っていると、
「…金貨15枚、それでどうだいブルクハルト?」
ターリットさんがシュリエルの値段を言い放った。
金貨15枚、俺の手持ちも含めてブルクハルトさんに預けている金貨を合わせると足りるな。
俺は少し安心してそう思っていると、
「いえ、金貨20枚をお支払いしましょう」
ブルクハルトさんがそう言い、懐から俺が持っている物よりも数段高そうな袋を取り出すと、中を確認してそれを俺達の間に置かれているテーブルに置く。
俺は商売の事は分からないが、彼がそう言うのなら何か理由があるのだろう。
俺がそう思っていると、先程のターリットさんの言葉に意気消沈していたシュリエルが何とか復活し、俺とブルクハルトさん、ターリットさんの事を順番に見ていき何やら考え始める。
そんな光景を見ていると、
「…なるほどね。あんたにとってはその男、ビステルが相当のお得意様って訳かい」
ターリットさんが俺の事を見て、ブルクハルトさんにそう言う。
…どういう事なのだろうか?
俺がそう思っていると、俺よりも先にシュリエルの方が何かを察したのかハッとした表情をした。
「えぇ、とても大事なお得意様です」
ブルクハルトさんが、ターリットさんの言葉にそう返すと、
「…そうかい。なら、ここはしっかりと受け取っておこう」
ターゲットさんはそう言い、テーブルに置かれた袋を手に持ち中を確認する。
しっかりと確認をした後、
「袋ごと貰っても良いのかい?これ、結構良い素材を使っていそうだけどねぇ?」
ブルクハルトさんにニヤリと笑いながら問う。
「えぇ、構いませんよ」
ブルクハルトさんがそう言うと、
「…ふん、相変わらず商売相手としては良い相手だが、個人的には嫌な奴だよブルクハルト」
ターリットさんが不機嫌そうにそう言い、
「契約書だ、受け取りな」
懐から取り出した紙をテーブルに叩き付ける様に置くと、煙管を加えて顔を背けた。
テーブルに置かれた契約書をブルクハルトさんが確認する。
そして、
「ありがとうございますターリット様。確かに受け取りました」
ブルクハルトさんがそう言って契約書を懐に仕舞い、
「さぁ、行きましょうビステル様、シュリエル様」
そう言ってソファから立ち上がる。
ブルクハルトさんの言葉に、俺はようやくブルクハルトさんが多く金貨を払った理由が分かった。
このままシュリエルと契約してしまうのは、おそらくブルクハルトさんの体裁などを含めて良くないのだろう。
故に金貨を多く積む事によって、シュリエルとの契約書ごと彼女を買い取ったのだろう。
推察ではあるが、おそらく間違ってはいないはずだ。
俺はそう思考しつつブルクハルトさんと同じ様に立ち上がり、
「…色々と話したい事があるが、今は落ち着ける場所に移ろう」
シュリエルにそう言いつつ自分が羽織っている服を彼女に掛けると、
「…ありがと」
シュリエルがそう言って服を着る。
そして、
「短い間でしたが、色々と言い争いしましたけどお世話になりました」
シュリエルはターリットさんにそう言って頭を下げると、
「………さっさと行きな、もう私の商品じゃないんだ。また捨てられたら、今度は飼ってやるさ」
ターリットさんが煙を吐きながらシュリエルにそう言った。
…今の言葉は棘があるようで、シュリエルを気遣っている様に感じた。
彼女に対する認識を改めた方が良いかもしれないな。
俺はそう思い、
「ターリットさん、ありがとうございます」
彼女にお礼を言い一礼する。
俺の言葉を聞いたターリットさんは、
「今度はブルクハルトに頼らず、1人で来るんだね」
少し笑ってそう言った。
俺の事を馬鹿にしているような言葉だが、何故かその笑い顔を見て彼女が嫌味を言っている様には感じなかった。
俺はそう思い、
「イイ男になって、また来ます」
そう言って部屋を出て、廊下に待機していたブルクハルトさんに付いて商館を後にした。
商館を出る際に他の客の相手をしていた奴隷達が一斉に頭を下げて来たのには驚いたが、何故だろうか凄く様になっていた…。
そうしてターリットさんの商館を後にした俺達だったが、何も知らないアルラトの街で落ち着くよりも帝都に戻った方が良いと、俺とブルクハルトさんは話し合った結果すぐに帰る事になった。
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