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ブルクハルトさんの言葉を聞いた俺は馬車を折り、少し開けている場所を見つけると皆をそこに集める。
後方の馬車に乗っていた人達は事情を知らない故に、何が起きるのか少し不安そうだ。
俺はそんな彼らを見ながら、
「あまり時間をかけるつもりはありませんけど、皆さんの安全を考慮して……」
そう呟きながら、やはりバルドゥに頼むのが正解だろうと考える。
ゴブリンの中では最強と言ってもいい力を持っているが、人に対する気遣いは色々と見てきてバルドゥが一番だと思う。
俺はそう思い、
「召喚、バルドゥ」
バルドゥを呼び出した。
「お呼びでしょうかヴァルダ様」
バルドゥが頭を垂れて声を出す。
その光景に、少し警戒していた亜人族の人達は驚いた表情でバルドゥを見る。
おそらく、彼らが知っているゴブリンと相当印象が違うのだろう。
流調な話し方に加え、更に敬語を話している。
それだけで他のゴブリンとは全く違う。
「忙しいところすまないバルドゥ。少し彼らの事を護ってあげていてくれないだろうか?俺はこれから少し急がないといけない事がある。スレイを呼ぶ予定だから、あまり遅くなる事はないと思うが」
俺がそう言うと、
「分かりました。ヴァルダ様の配下の者として、この人達に指一本も触れさせたりはしません」
バルドゥが心強い事を言ってくれる。
「バルドゥはそこらにいるゴブリンとは全然違います。すごく強いです」
俺がブルクハルトさんにそう言うと、彼は俺の言葉を聞いてバルドゥの事を見る。
視線を向けられたバルドゥは、ブルクハルトさんに一礼をし、
「ヴァルダ様の命に従い、命に代えましても彼らの安全を保障します」
そう言い切った。
バルドゥの言葉を聞いたブルクハルトさんは、
「ヴァルダ様の臣下の者が言うのなら、信用しましょう」
そう言ってくれた。
ブルクハルトさんの言葉を聞いたバルドゥはすぐに行動をし、亜人族の人達に挨拶をし始める。
相変わらずのコミュニケーション能力、感服する。
俺はそう思いながらも、
「召喚、スレイ」
更に家族を呼び出す。
スレイプニルのスレイ、名前が安直なのはネーミングセンスが相変わらず無いからだ…。
スレイプニル、脚が八本ある馬のモンスター。
単純な速さならば、グリフォンのカルラよりも速いだろう。
それに馬という割に、スレイプニルの力は速さだけではない。
スレイプニルの特性、それは八本もある脚で掛ける距離や障害物などを意味なく超える事が出来る事だ。
「UFO」の時はあまり効果が無かった特性ではあるが、今この瞬間にあったのではないかと言える程都合が良い。
どれだけ高い壁でも飛び越え、冥界や天国にも行ける脚力。
水の上、空を走る事が出来る力。
イケメン過ぎるだろ。
俺はそう思いながら、
「スレイに乗れば、どんなに距離があっても意味などありません」
ブルクハルトさんにそう説明する。
しかし、ブルクハルトさんと周りの人達はスレイの姿を見て固まってしまっている。
まぁ、スレイプニル自体が珍しい種族だし、仕方がないだろう。
俺はそう思って、誇らしい気持ちになる。
しかし、今は急がないといけない。
俺はそう思い直し、
「スレイ、悪いが急いで行かなければいけない場所がある。ここから往復してくれないか?」
スレイに声を掛けると、
「ヒヒィィ~~ンッッ!!」
前足を高々に揚げて声を出してくれる。
「バルドゥ、少しの間任せた」
俺がバルドゥにそうお願いをすると、
「スレイならば、移動に時間は掛かりませんね。いってらっしゃいませ」
バルドゥはスレイを見ながらそう言い、俺に一礼してくる。
バルドゥに後を任せた俺は、未だにスレイを見て少し怯えた表情をしている同じ馬車に乗っていた女性に、
「ブルクハルトさんに厚着を、風の所為で寒くなると思うので。それとロープの準備をお願いしても良いですか?」
そう声を掛けた。
すると女性が驚いた様子で返事をした後、急いで俺達が乗ってきた馬車に戻っていった。
少しして、馬車から戻って来た女性がブルクハルトさんに声を掛けて厚着を羽織らせ、前部分のボタンを掛ける。
さて、俺はスレイに手綱を装備させないとな。
本の中の世界を開いてそう思っていると、
「あの、このロープはどうすれば?」
ブルクハルトさんに厚着を着せ終えた女性が、ロープを持って俺に質問をしてきた。
「あぁ少し待ってください」
俺はそう言うと、女性の元から離れてブルクハルトさんの元へ行き、
「さぁ、行きましょうブルクハルトさん。案内をお願いします」
彼に話しかけると、
「ハッ!わ、分かりました」
やっと正気に戻ったブルクハルトさんがそう言ってくれた。
そうして2人で女性の元に行き、
「では俺とブルクハルトさんを固く縛ってください」
女性にお願いした。
俺の言葉を聞いた女性は本当にそんな事をしてしまって良いのかと不安そうな表情をしていたが、ブルクハルトさんからの指示もあり、俺の背中とブルクハルトのお腹をくっ付けた状態で縛って貰う事が出来た。
そうして遂に、出発する準備ができた。
「スレイ頼んだ。………ブルクハルトさん、アルラトの方角はどちらでしょうか?」
俺とブルクハルトさんはスレイに跨り、スレイは一度足を曲げて乗りやすい体勢から戻っていない。
俺がブルクハルトさんに目的地の方角を聞くと、後ろから伸びてきた手がある方向を指差す。
「あ、あちらですが…。わ、私が乗っても大丈夫なんでしょうか?ただでさえ2人が乗っている上に、私は2人分くらいの重さがありますが…」
ブルクハルトさんのそんな自虐的な言葉に、俺は大丈夫ですと返事をすると、
「スレイ、向こうの方角に駆けてくれ。建物があったら止ってくれると助かる」
スレイにそう指示を出す。
それを聞いたスレイが鳴き声を上げて返事をし、ゆっくりと立ち上がると、俺は自身の持っている限界の力で手綱を握る。
「ブルクハルトさん、しっかりと掴まっていて下さい!」
俺がそう言った瞬間、首がもげるのではないかと言いたくなる程の急加速でスレイは駆け出した!
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