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あまりの重装備の防具を着けている亜人族の人達が並んでいる光景に、俺はアルラトという国がそれだけ遠いのだろうと察する。
俺の登場に緊張した表情をする亜人族の人達に、楽にしていて良いよと言ってから、
「クラスチェンジ・召喚士」
スキルを使ってクラスを騎士から召喚士に変更する。
突然装備が変わった様子に、また周りの亜人族の人達が驚いた様子だ。
さてさて、速くて安定していそうな子は誰だろうか?
俺はそう思いながら本の中の世界を開いて、ブルクハルトさんが着替えてくるのを待つ。
やがて、
「お待たせしましたビステル様!皆!」
ブルクハルトさんが商館から出てきてそう言ってきた。
慌てた感じで俺達の元にやって来るブルクハルトさんに、
「大丈夫ですよ。それに、亜人族の人達には悪いんですが、この馬車もあまり必要では無いかもしれません」
そう言う。
俺の言葉を聞いたブルクハルトさんは、俺の言った言葉の意味が分からずに不思議そうな顔で俺の事を見てくる。
彼と同様に、馬車の周りに並んでいた亜人族の人達も俺の言葉の意味がどういう事なのか考える様な表情をする。
俺はそんな人達に、
「とりあえず、出発しましょう。帝都から少し離れて貰えれば、俺も色々と頑張りたいです」
そう言って、とりあえず商館を出発してもらう様に頼んだ。
俺の様子が気になりつつも急いで動きたい主、ブルクハルトさんの指示の下皆が動き出す。
俺とブルクハルトさん、そして武装している亜人族の人達の中でも軽装備の2人が馬車に乗り込む。
馬車の中はしっかりと掃除をされていて綺麗になっており、4人で乗るにも少し広い様に感じる。
すると、俺達が馬車に乗り込んだと同時に商館の脇から馬車がもう一台出てきた。
それに武装している人達が乗り込み、余った人達は馬車の御者の隣に乗ったりしている。
「流石に何台も馬車を動かす訳にもいかず、こうなってしまいましたね…」
俺と同じ方向を見ていたブルクハルトさんがそう言う。
「こちらの馬車はもう少し乗れそうですが…」
俺がそう言いかけると、
「流石にあの人達も、書類上の主と同じ馬車に乗るのはマズいと思っているのでしょう。現にこの2人も、私とビステル様のサポートとしてここにいる訳ですから」
ブルクハルトさんが俺の言葉を最後まで聞かずに言い切った。
俺は気にしないが、向こうは気まずさとか緊張したくはないんだろうな。
俺は亜人族の人達の心情を汲み取り、特に何も言わずに黙る事にした。
そうしていると、全ての準備が整ったのか馬車が発車する。
「お茶、入れましょうか?」
俺が窓の外を眺めていると、人一人分離れた隣に座っている子が俺にそう聞いてきた。
少し緊張しているというか、俺を怒らせない様に細心の注意で声を掛けてきたのを察する。
流石に、これを拒否するのは彼女が可哀想だ。
そう思い、
「ではいただきます。あ、でもあまり多く注がないでください」
彼女にお願いをする。
さっきも、レオノーラさんとお茶を飲んでいたからこれ以上はタプタプになってしまう。
俺がそう思っていると、
「かしこまりました」
女性がそう言って小さな機材を取り出してお湯を沸かし始めた…。
いくら道が整備されている帝都の道でも、凹凸があるから馬車はある程度揺れる。
少し不安に思いながら、女性の動きを目で追っていると、
「大丈夫ですよビステル様。彼女達は普段から私に付き添う事が多く、馬車の中でも茶を入れる事に慣れていますから」
ブルクハルトさんがそう言ってきた。
彼がそう言うのなら、大丈夫なのだろう。
俺はブルクハルトさんの言葉を信じ、俺に見られて動き辛くしてしまわない様に窓の外に再度目を向けた。
そうして少しした後、女性に声を掛けられてお茶を口に含む。
レオノーラさんとのお茶の味を覚えているから分かる、今飲んでいるお茶の方が匂いも味も強い。
おそらく、こちらの方が高いのだろう。
不味くは無いが、好みで別れそうな味ではあるな。
俺がそう思っていると馬車が止まり、
「ブルクハルト様の馬車ですか」
外からそんな声が聞こえてきた。
どうやら検問所に来たようだ。
御者をしている人が、検問所の騎士と話をしている。
これだけの大人数、流石に検問所の騎士達も何をしに行くのか気になる様だ。
少しの間騎士の質問を答えてくれていた御者の人には感謝をしないといけないな。
そうして最後に、騎士の人が馬車に乗っている俺達の顔を確認した後、
「皆様の安全を祈っています」
俺とブルクハルトさんに向かってそう言ってきた。
騎士の言葉に、ブルクハルトさんは手を上げるだけで返事をすると、馬車がまたゆっくりと動き出して帝都を出発した。
帝都を出発すると、最初はゆっくりとだったスピードがそこそこ速くなってくる。
それと同時に、ただの道になった所為で揺れが激しくなる。
そうして平原を進んでいった馬車はやがて森に入り始める。
窓から見える景色が森に変わり、俺は後方の馬車が気になり窓からそちらに視線を向ける。
すると、森に入った事でモンスターや賊の奇襲を受ける事を警戒しているのか、少し緊張した表情で辺りを警戒している。
それはそうか、装備を着けているとしても戦いに慣れていない人達からしたら、今は恐怖を常に感じているだろう。
…さっさと終わらせよう。
俺はそう思い、
「すみません、止めてもらえますか?」
ブルクハルトさんに声を掛ける。
俺の言葉を聞いたブルクハルトさんが、馬車を止める様に指示を出す。
「どうされましたかビステル様?」
「いや、ブルクハルトさんと準備をしてくれた皆さんに悪いんですけど、お願いがありまして…」
ブルクハルトさんの質問に俺はそう答える。
「お願いします。一刻も早くシュリエルに会うために、ブルクハルトさん1人に案内してもらえませんか?」
俺がそうお願いすると、
「どういう事でしょうか?これだけの人数は必要ないですか?」
ブルクハルトさんがそう聞いてくる。
俺はその言葉に頷き、
「今から、俺の契約している者に乗ってアルラトに行きたいと思っています。それには、俺とブルクハルトさん、それとシュリエルが乗るのと考えると人数が多いのは………」
俺は我儘を言っている事に申し訳ない気持ちになりつつ言葉を続ける。
それを聞いたブルクハルトさんは少し考えると、
「彼らの安全が保障されるのなら、構いません」
そう答えてくれた。
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