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レオノーラさんと店主の様子を窺っていると、店主はやはりレオノーラさんを含めた亜人達の罵倒をして彼女の手から袋を乱暴に受け取った。
しかしレオノーラさんはそんな事を気にした様子も無く、用事を終わらせると踵を返して露店から離れる。
それにしても、あの女の子は一体これからどうなるんだろうか?
騎士団が保護すると言ってもおそらく限度があるだろうし、もしかして安全な亜人達が集まっているスラム街の方で保護されるのだろうか?
俺がそう思っていると、
「ヴァルダだったか。こんなところで君に会えるとは思っていなかったよ」
レオノーラさんが俺の目の前に来てそう挨拶をしてきた。
目の前に来ると分かる、彼女の姿に俺は思考を奪われる。
少し曲がり鋭く伸びている美しい角に、紅蓮の髪の毛に綺麗な美しい顔立ち。
そういえば、尻尾とかどうなっているんだろう?
騎士の格好をしているが、尻尾が見えないのが残念で仕方がない。
俺はそう思いつつ、
「そうですね。まさかこんな所で、レオノーラさんと出会う事が出来るなんて思いませんでしたよ」
レオノーラさんの挨拶にそう返事をし、彼女の腕を見る。
やはり、普段は人の姿と同じ様な姿なんだな。
戦う時にだけあの凛々しく可愛らしく美しい姿になる様だ…。
俺がそう思っていると、
「………何か変な事を考えてはいないか?」
レオノーラさんがジトッとした眼で俺に質問をしてきた。
俺の邪な考えを察したのか、少し警戒されてしまう。
まぁ、初対面でも色々とやらかしてしまったし、今も彼女の事を見て色々と考えてしまったのは認めるしかない。
そう思いつつ、
「申し訳ないです。色々と考えていました」
素直に謝罪の言葉を彼女に言う。
それを聞いたレオノーラさんは、
「す、素直に認めてしまうんだな。…それにしても、君は意外に喧嘩っ早い所があるんだな」
俺にそんな事を言ってくる。
確かに、彼女がいる時はだいたい怒っていた場面ばっかりだったからな。
そんな事を考えながら、
「普段はそういう訳では無いんですけどね………。見過ごせない事が起きると、ついカッとなってしまって…。騎士団に迷惑を掛けたなら、申し訳ないです」
俺は彼女含め、彼女の部下達である亜人達に迷惑が掛かっている可能性を考えて先に謝罪をする。
すると、
「大丈夫だ。君の行動は被害者がいるから故の行動。…ここではあまり話せないな、この後時間はあるだろうか?」
レオノーラさんが俺の言葉にそんなフォローをしてくれる。
しかし、今自分達が話している場所がどこかを思い出したのか、少し周りを気にした後そんな魅力的な事を言ってきた。
俺はレオノーラさんのその言葉に大丈夫ですと返すと、彼女は場所を移そうと提案してきた。
俺がそれを了承すると、レオノーラさんが先導し俺はその後ろを付いて歩き始めた。
彼女の部下の様に、一歩後ろを歩いてレオノーラさんを追っていると、俺は彼女が普段どれだけ帝都の町の皆に見られているのか理解した。
最初ここへ来た時とは違い、普段俺はフードを被って帝都の街を歩いている。
それだけで周りの視線は一気に無くなるのだが、それは俺が帝都の街の者達からしたら一般人に過ぎないからだろう。
しかしレオノーラさんは騎士団の団長という立場の所為で、フードなどを被ることすら許されないだろう。
それに目の前を、周りの視線など気にしていないで堂々と歩いている彼女を見ていると、レオノーラさんがフードを被って帝都を見回ったりする事など自分自身が許さないだろう。
俺はレオノーラさんを見つつそう思っていると、あまり気にしない様にしていたがやはり帝都の街の皆の、レオノーラさんを見る目がどうしても気になってしまう。
人族の人達は老若男女問わず、レオノーラさんの事を見ると嫌な顔をして目を逸らしたり、嘲笑ったりしている。
街の道を小さくなって歩いている亜人族の人達は、堂々と歩く彼女の姿に憧れの眼差しを向けている。
すると、
「丁度良い。ここにしようか」
先を歩いていたレオノーラさんが歩みを止め、立ち止まってある店を見る。
俺はこの建物が店だと言うのは知っていたが、何のお店なのかは知らない。
しかし、レオノーラさんが入ると言う事はある程度亜人族などを気にしない店なのだろうか?
俺がそう思っている内に、レオノーラさんが先に店の中に入って行った。
俺もすぐに彼女を追いかけて店の中に入ると、
「いらっしゃいませ」
ダンディーな男性の声が聞こえ、そちらを見るとリザードマンの男性が立っていた。
他の場所に視線を送ると、お客さんも亜人族に限られている。
店の主人が亜人族なら、亜人族のお客さんも安心してお店を楽しめられるだろう。
俺がそう思っていると、先に店に入って行ったレオノーラさんが端の方の席に座り始めた姿が目に入った。
彼女の元に行こうとすると、
「お客様、ご注文は?」
リザードマンの店主に声を掛けられる。
メニューが知りたかったが、今言わないといけないのかな?
俺はそう思いつつ、
「レオノーラさんと同じ物を」
無難な注文をする。
それを聞いたリザードマンの店主は、かしこまりましたと言って動き始める。
俺はそんな様子を横目で見つつレオノーラさんの元に行くと、
「ここはよく来るんだ。店内も落ち着いているし、亜人族がいても何も問題が無いのが良い」
彼女は対面の席を手で進めてきて、そんな説明をしてきた。
「失礼します」
俺がそう言って彼女の対面に座ると、レオノーラさんは少し苦笑して、
「あまり堅苦しくしなくても良い。今は騎士団のレオノーラとして話している訳では無い」
そう言ってくれた。
しかし、
「いえ、これは礼儀と言いますか、敬意を払っている故の態度なので…」
俺がそう今の自分の態度の説明をすると、
「相変わらず君は変わっている。初対面の時は頭がおかしい奴かと思ったが、まぁ話していると少しだけではあるが普通の人族だ。亜人族に理解がある」
レオノーラさんにそう言われる。
ほ、褒められているのだろうか?
俺がレオノーラさんの言葉にそう考えていると、リザードマンの店主が2つティーカップを持って来た。
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