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視点は変わり、帝都にいるヴァルダ・ビステルは………。
「これ、依頼の品です」
帝都の冒険者ギルドで、毎日コツコツと依頼を受けては達成していた。
「お疲れ様です。確認させて頂きます」
俺がゴブリンの体の一部を証拠として提出すると、受付をしている女性が笑顔でそれを受け取り中身を確認する。
それにしても、結構な依頼を受けたのだがなかなか第二級冒険者に昇格しないな。
そう言えば、エルヴァン達もここ最近は見ていないが、長期の依頼にでも行っているのだろうか?
俺がそう思っていると、
「確認しました、お疲れ様です。こちら、報酬の銀貨10枚です」
受付嬢がそう言って、縦に積まれた銀貨を俺の方に差し出してくる。
俺はそれを受け取ると受付嬢にお礼を言い、冒険者ギルドを後にした。
それにしても、今日はあまり良い依頼が無かったな。
少し前は、一度に数件の依頼を受けて同時に達成できたのに…。
俺がそう思って歩いていると、
「この愚図がッ!」
「あぐッ……」
露店の店主らしき男が、まだ年端もいかない女の子を蹴り飛ばしたのが見えた。
そんな光景に、帝都の人達は何も気にしていない。
まるで、それが当たり前だと言う様に。
「酷い事は止めろ」
俺は周りの人達と露店の店主らしき男の行動に呆れつつ、男に声を掛ける。
すると、
「何だお前?俺が俺の所有物に何しようが関係ないだろうが」
男は苛立った様に俺にそう言ってくる。
どこを行ってもこういう者達しかいないから、帝都にいると心労で疲れるんだよな…。
俺はそんな事を思いながら、
「確かに関係無い事は認める。しかし幼い子供が痛めつけられている光景を見て黙っていられる程、外道になったつもりはない」
露店の店主にそう言うと、彼は怒りを露わにして、
「チッ!てめぇいい度胸してるじゃねえかッ!」
露店の店主が包丁を俺に向けてくる…。
一応、今の俺は騎士だから武器も持っているんだが、まさか戦う気じゃないよね?
明らかに武器の大きさが違うし、明らかに分が悪いだろう。
俺が露店の店主を分析していると、手に持っていた包丁を逆手に持ち変えて下に寝転んでいる女の子に向けて思いっきり下した。
その行動に俺は地面を蹴って一気に露店の店主と女の子との距離を縮めると、俺は自身の手を女の子に迫り来る包丁の下に出す。
手を出した瞬間、手に下ろされた包丁が手に当たり鈍い音を立てて包丁が砕ける。
包丁を手に持っていた露店の店主は予想出来なかった衝撃に手を痛めたのか、苦痛の表情と声を出しながら手を庇う様に動く。
「これ以上やるなら、俺も相応の行動をさせてもらうが?」
俺がそう言うと、店主は未だに苦痛に歪む表情を俺に向けてくる。
さて、どうしたものか…。
これ以上この子をこんな悪い環境にいて欲しくない。
最近の依頼達成で、懐も少しだけだが潤ってきている。
この子には悪いが、こういう輩には手切れ金を払った方が良いだろう。
俺がそう思って口を開いた瞬間、
「そこで何をしている?」
この広い帝都の城下町で、ここまで彼女の凛とした声を聞いたのは3回くらいだ。
「レオノーラさん」
帝都の騎士団団長であり、龍人という亜人族の女性だ。
多忙なのか基本的に帝都を歩いていても彼女の姿を見る事は無い。
彼女の部下の人達ならたまに見るのだが…。
俺がそんな事を思っていると、
「………なるほど」
俺と店主、足元で少し体を起こし始めた女の子を見て状況を察したのか、彼女はそう呟くと少し考える様な素振りを見せた後、
「その女の子は私が保護をさせてもらえないだろうか?」
俺の事を見ながらそう言い、次に足元にいる女の子を見て、
「私の事を知っているかい?」
先程の凛とした声ではあるのだが、女の子を怖がらせないために優しい声色で女の子に質問をする。
レオノーラさんに質問をされた女の子は少しオドオドした様子をしつつも、レオノーラさんの質問にコクリと頷いて返事を返す。
女の子の行動にレオノーラさんは微笑むと、
「店主、この子は我々騎士団で保護させてもらう」
露店の店主にそう言い切った。
それを聞いた店主は、
「それじゃ割に合わないぞ騎士さんよぉ。このガキは俺が日銭を貯めて買い取った道具だ。それを勝手に持っていかれちゃ、俺の今までの働いた金はどうなるんだぁ?」
まるでレオノーラさんを馬鹿にしている様な口ぶりでそう言う。
それにしてもここまで酷い扱いをしておいて、いざ保護されそうになると自分の非を認めずにそんな事を言うなんて…。
俺が店主の言葉に呆れていると、
「…確かに店主の言いたい事は分かる。故に彼女を保護すると同時に、彼女を買い取った際の金額を払わせてもらおう。その代わり、私が渡した金銭で新しい奴隷を買うのは止めてくれないだろうか?」
レオノーラさんが店主にそう条件を出してきた。
…彼女は大人な考えをして、下手に言い争いになるのを避けているのだろう。
俺がそう思っていると、
「ハッ!獣はどいつもこいつも使えねえって事が、前々から思っていたが今回の事で理解出来ちまったよッ!二度と使わねえよ!」
店主はそう言うと再度に舌打ちをして店に戻っていった。
それにしても、奴隷契約の紙は大丈夫なのだろうか?
俺がそんな心配をしながら店主を見ていると、
「大丈夫かい?立てる?」
レオノーラさんが歩み寄ってきて、足元で体を斜めにしながら座り込んでいる女の子に声を掛ける。
すると、
「痩せているし、怪我もしている。やはり良い扱いは受けていなかったようだな」
僅かに聞こえたレオノーラさんの呟きに、俺は彼女が偶然でここへ来たのではないと考える。
おそらくだが、誰かの情報でこの女の子の扱いを知って、最初から保護するつもりだったのだろう。
俺がそう思っていると、
「レオノーラ様、準備は整っています」
レオノーラさんの部下であろう亜人の女性騎士がレオノーラさんにそう言い、彼女はレオノーラさんに何やら袋を手渡した。
それをレオノーラさんが受け取ると、
「頼む」
部下の騎士に女の子を預けて、レオノーラさんは受け取った袋を露店の店主に袋を差し出した。
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