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ゴブリンキングは、視線の先に横たわる部下の死体をただ眺めている。
おそらく、人族1人にゴブリン1体だから油断していたのだろう。
それにしても、いくら油断していると言っても相手の戦力を考えたりしなかったのだろう。
俺がそう思っていると、
「我らの主、ヴァルダ様を侮辱した罪は、永久の苦痛だと知れ!」
バルドゥがゴブリンキングに飛び掛かろうとした。
すると、ゴブリンキングは何やら広場の隅に避難する様に走り立ち止まる。
バルドゥが追撃をしようとした瞬間、
「…最悪だ」
彼はそう言って立ち止まってしまう。
ゴブリンキングは岩の後ろに手を伸ばすと、何かを俺とバルドゥに見えるように引きずり出す。
それは、
「…ぁ……ぅ…」
先程会った女性達とは別の女性が首を掴まれた状態で、まるでゴブリンキングの盾の様な扱いを受けていた。
彼女の体もまた裸であり、ゴブリン達の体液が体に塗られている。
おそらくバルドゥの嗅覚と気配察知に引っかからなかったのは、彼女の塗られている体液と気絶をしていたからだろう。
気絶していた彼女は、今の騒動で意識を取り戻したという事だろう。
人質、考えてはいたがいざこうなると動けなくなる。
「コノ女ヲ生カシタイナラ!コレ以上動クンジャネェッ!」
ゴブリンキングが怒鳴る。
「…くッ…」
流石のバルドゥも、人質がいるのなら攻撃は出来ない。
すると、
「…殺して…下さい。…もう、私は生きて…いたくないです」
女性は光の無い瞳で俺とバルドゥを見つめながらそう懇願してきた。
…心がすでに限界に達している。
助けが来ても生きる事を求めないのは、すでに心が死にかけているからだ。
俺がそう思っていると、
「そんな事言うなッ!すぐに助けてやるッ!」
バルドゥが女性に少し焦った声で話しかける。
だが、バルドゥは動けない。
バルドゥは索敵のスキルを活かした育成をしている。
元々戦闘はあまり得意ではない。
故に今ゴブリンキングに斬りかかる事は出来ても、彼女の体も一緒に斬る事になる可能性がある。
それだけバルドゥの斬撃は大きな斬撃でしかない。
これがエルヴァンなら、女性の体を傷つけないでゴブリンキングの体を両断する事が出来る。
バルドゥは理解しているのだ、自分にそれだけ繊細な攻撃が出来ないのを。
俺がそう思っていると、
「…もう…無理です…。私が生きていたら、他の誰かが死んでしまう。…そんなのは…嫌なんです」
女性がそう言う。
「貴女が生きていても、誰かが絶対死ぬ事なんて無い!」
バルドゥがそう咆哮すると、
「じゃあ、何で弟が目の前で喰われたんですかッ!?!?」
女性がまるで悲鳴を上げるかの様に声を出す。
すると、
「絶望シタ女、嬲ル。最高ニ楽シイ!」
ゴブリンキングがそう言って高笑いをする。
…あいつ、なんか自分の立場忘れてないか?
俺はそう思いながら、脚に力を込める。
今動いて攻撃したら、あの女性に恐れられてしまうかもしれないな。
もう少しゴブリンキングと女性が離れてくれたら…。
「貴様の様な下衆がッ!楽しむために彼女は生きているんじゃない!」
するとバルドゥがそう言った瞬間、ゴブリンキングは腕を前に出して女性を押し出すと、
「人ハ俺ガ楽シム為ニ産マレ生キルンダ!コレマデモコレカラモナァッ!」
そう高笑いをしながら叫ぶ。
瞬間、俺は一気に地面を蹴ってゴブリンキングの真横に移動する!
「ナッ!?」
俺の一瞬の移動にゴブリンキングは驚愕の表情をしているが、今は構っていられない。
本当はバルドゥ1人に殲滅させるつもりだったが、これくらいなら良いだろう。
俺はそう思いながら、ゴブリンキングの肘を全力で殴りつける!
瞬間、ゴブリンキングの肘を中心に消滅し、残ったのは少しの二の腕と女性の首を掴んでいた手だけだ。
俺は彼女の体を支えて少し後ろに下がると、
「貴様貴様キサマキサマキサマアァァァッッ!!!!」
ゴブリンキングが怒りで咆哮する。
だが、
「ア…」
その瞬間、俺の動きに合わせたバルドゥの斬撃でゴブリンキングの上半身と下半身が斬り分けられた。
地面に落ちるゴブリンキングの上半身を見て、回復する事は無いだろうと確信する。
「殺シテヤル!内臓を引キズリ出シテ…惨タラシク殺シテヤル!」
ゴブリンキングはそんな状態になりながらも、俺とバルドゥを見てそう言ってくる。
すると、
「下衆にはピッタリの最後だな。そこで食糧にでもなるが良い。ここは俺達ゴブリンには環境が良い。いつか流れてきたゴブリン達に見つかり喰われるだろう。外に出てもその体では生きていく事は出来ない。永遠の苦痛を味わうが良い」
バルドゥがゴブリンキングを見下してそう言う。
その言葉を聞いて、ゴブリンキングは憤怒の表情から絶望した表情に変わる。
バルドゥはそれを見ると、振り返って地面に片膝を付けて頭を垂れる。
「ヴァルダ様、サポートをして下さりありがとうございました」
俺にお礼言ってくるバルドゥに、
「いや、俺もバルドゥの願いを無にした事を謝る。すまなかった」
俺は彼のゴブリン殲滅の願いを聞けなかった事に謝罪をする。
すると、
「そんな!ヴァルダ様がいなければこのまま攻めあぐねていました。謝罪などしないで下さいッ!」
バルドゥが俺にそう言ってくる。
「とりあえず互いの謝罪は後にしよう。それよりも今する事は…」
俺がそう言って頭を更に下げようとしてくるバルドゥを止めて、傍に立っている女性を見る。
すると、
「…自分で歩けますか?」
バルドゥが女性にそう聞く。
しかし、女性は何も喋らない。
とりあえず何か羽織る物を…。
俺はそう思い綺麗な布を本の中の世界を開いて出現させて、女性に羽織らせる。
「バルドゥ、お前はこの人を外に連れ出せ。俺はさっきの女性達を連れてくる」
俺がそう言って歩き出すと、バルドゥが短く返事をしてから、
「裸足…ですね。良かったら俺の履いている靴を…」
女性の細かい所を心配して、バルドゥは怯えさせない様に優しく声を掛ける。
女性はありがとうございます…と感情が籠っていない声でお礼を言う。
そんな2人の話し声を背に、俺は先程の女性達を外に連れ出すべく歩き出す。
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