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明けましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いいたします。

「ここだ」


センジン・ムソウに案内されたのは、周りの家とは違い広い面積の土地に平屋の大きい建物だった。

敷地内に入ると、帝都の窮屈な敷地とは違う事にエルヴァンは気づき、鍛練の素振りをするならこれくらい広い方が良いなと考える。

アンリはジーグ特有の建物の作りが気になっており、庭にも興味を示している。

ヴァンパイアのアンリには、暗闇でもしっかりとどこに何があるのか把握している分、センジン・ムソウの家の庭の景色が不思議で見つめている。

そうしてセンジン・ムソウの家に入ったエルヴァンとアンリだったのだが、


「お待ちください。履物はここで脱いでもらえませんか?」


家に入ってすぐに、エルヴァンとアンリはユキと呼ばれていた女性にそう言われてしまい、家に入る事が出来なかった。


「ここで靴を脱げという事ですか?」


アンリがそう聞くと女性は少し不機嫌そうに、


「それがジーグの建物に入る時の作法です。向こうの人達は履物を履いたまま家に上がりますが、それでは床が汚れてしまいます」


そう説明をしてくれる。

それを聞いたアンリは、


「僕はすぐに脱げますけど…。エルヴァン様が…」


心配そうにエルヴァンに視線を送る。

アンリの視線に気づいたエルヴァンは頷く様に頭を動かすと、


「申し訳ないが、お互いにまだ信用できない者の前で装備を外す事は出来ない」


ユキの言葉にそう返した。


「貴様ッッ!!」


エルヴァンの言葉を聞いたユキが怒りの表情になり声を荒げる。

しかし、


「ユキ、大男の言う通りだ。俺とお前がこの2人をまだ信用していないのも本当の事だ。それは奴らも一緒だろう」


センジン・ムソウは昼間の戦いの時よりも落ち着いた様子でユキを制すると、


「表から回ってもらうか。ユキ、茶の準備を。2人は付いて来てくれ」


ユキにそう指示を出し、踵を返して靴を履くとエルヴァン達の脇を通過して一度外に出る。

先に家を出たセンジン・ムソウに付いて、エルヴァンとアンリが外に出ると、


「こっちだ」


家の扉の横から続いている土地の奥へ続く道を歩いていくセンジン・ムソウ。

少し草木が生い茂っており、草木と衣服が擦れる音を出しながら奥へと進んでいく。

それを見て、後を追いかけて道を歩きだすエルヴァンとアンリ。

アンリは少しエルヴァンにくっ付く様に歩いていると、エルヴァンの体が草木を勝手に分けてくれる故に、草木を分ける必要がなく少しだけ楽をしている。

そうしてセンジン・ムソウに付いて歩いて行き少しすると、エルヴァンの視界にはセンジン・ムソウの家の通路が開け放たれている光景が映った。

帝都の構造とは違う建物の様子に、


「何というか、面白い家だな」


歯切れが悪い感想を述べる。

それを聞いたセンジン・ムソウは少し苦笑し、


「縁側だ。帝都の建物では珍しいだろう。流石に背負っている剣は脇に置いて貰わないといけないが、装備は着けたままで話す事が出来る」


そう言って縁側に座る。

そんなセンジン・ムソウの様子を見たエルヴァンとアンリは彼と同じ様に縁側に座ろうとして、エルヴァンは背負っていた大剣を下ろし立て掛けて座り、アンリはエルヴァンの隣に座って杖を膝の上に置く。

2人が縁側に座った事を確認すると、


「ヴァルダ・ビステルを、知ってるんだな?」


腹を探り合いなど関係ない、真っ直ぐな質問を2人に投げた。

すると、


「様を付けろと言っているだろう」

「様を付けて下さい」


エルヴァンとアンリは同じ指摘を返した。

それを聞いたセンジン・ムソウは渋い顔をして、


「あんた達がその人とどんな関係は知らないが、その関係に俺は関係ない」


そう返した。

それを聞いたエルヴァンとアンリは一気に目の前に座っている男に対して嫌悪感を感じるが、主であるヴァルダに良い土産が出来る可能性を信じ、グッと堪えて一度口を噤んで心を落ち着かせる。


「それならば…仕方がない。それで、何故ヴァルダ様の事を知っている?」


エルヴァンがそう質問をすると、センジン・ムソウは少し考えるようにした後、


「俺の爺ちゃんが、よくヴァルダ・ビステルの話をしていたんだ。遺言にも、家族のこと以外ならヴァルダ・ビステルに言伝を頼まれている。俺が死ぬまでに出会えなかったら、俺の子供や孫にそれを伝えていかないといけない。…爺ちゃんは、ヴァルダ・ビステルにこの現状を打開する可能性があると言われた。亜人族の…ジークの未来を託したいとよく言っていた」


エルヴァンの質問にそう返した。

センジン・ムソウの言葉を聞いたエルヴァンは、彼の祖父の言葉に同調しつつ庭先に目を向け、


「私達は帝都から来た。故に、亜人族が人族から差別を受けている事は理解している。ヴァルダ様も人族ではあるが、亜人族を差別などしないし、むしろ虐げられている亜人族達を守ろうとしている。帝都で理不尽に虐げられている者を見たら助ける様にと、ヴァルダ様は私達に言っていた」


ヴァルダとの会話を思い出しながら説明をすると、


「そうです!それにヴァルダ様はとても強いです!貴方のお爺さんはとても見る目がありますね!」


アンリが自分の事の様に嬉しそうな反応をする。

すると、


「…爺ちゃんは、かつて魔王との戦いで勝利した人族の強者と戦った事があると言っていた。俺の中で、爺ちゃんは最強だった。そんな爺ちゃんが、自分よりも強いと豪語していた者、それがヴァルダ・ビステルだ。大男、お前と戦って未だに自分が爺ちゃんの様に強くない事が分かった。俺よりも強いお前を従えているという事は、ヴァルダ・ビステルはお前より強いという事だろう?」


センジン・ムソウがエルヴァンの事を見ながら質問をする。

それを聞いたエルヴァンは、センジン・ムソウの言葉を聞いた瞬間、


「ヴァルダ様は強い。…ヴァルダ様はあまり自身の事を強くないと言うが、あの御方に勝つ事は出来ないだろう」


エルヴァンは真剣な声で、センジン・ムソウの質問に言葉を返す。

その声には、憧れと悔しさが混ざった複雑な感情が込められており、事情を知っているアンリは勿論、事情を知らないセンジン・ムソウでさえ、その声に剣を握る男としての心情を悟った。


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