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一瞬で距離を縮められたエルヴァンは、しかし驚く様子も無く即座に振り払われる亜人の男の大剣を受け止める。


「やっぱり受け止めるか!面白いッ!」


亜人の男はそう言って興奮した笑い声を出すと、更に一気に大剣を振り下ろしてエルヴァンに攻撃を仕掛けていく。

上から下から左右から、どの攻撃をエルヴァンは自身の大剣でその連撃を受け止めて防御に徹する。

その理由は、亜人の男が使っているスキルの様なモノを観察するためだ。

エルヴァンは、先程の技は名前は違うが使う事が出来るからだ。

名前は違うが同じ効果をしているスキルを使ってくる亜人の男に、エルヴァンは他にもスキルを使わせて様子を窺っているのだ。

それとは反対に、亜人の男は自身の攻撃を全て受け止められ、更には流される事に興奮と悔しさの言い表せない感情が心を支配している。

エルヴァン達が来るもっと昔、ジークと帝都周辺の国との貿易を開始した後すぐに治安維持という名目で来た剣聖を追い出す為に今まで努力してきた剣戟を往なされている事実に、自分はもっと高みに昇らないといけないと再確認する。

剣聖に至っていない相手に攻撃を当てる事が出来ないという事は、剣聖にすら攻撃を当てる事は出来ない。

しかも本気を出していないとはいえ、


「ふむ、攻撃自体は知っているスキルが多い。しかし、踏み込みのタイミングや私の動きに合わせて攻撃をズラす行動は貴方の実力だろう。…まだ至ってはいないが、もっと強くなりそうだ」


まさか自身の攻撃を全て防御され、冷静に分析されるとは思っていなかった。


「ぐッ!!余裕そうじゃねえかッ?!」


亜人の男は攻撃の手を緩めずにそう声を出すと、


「余裕…ではないが、それでも私の主や家族には同等の強さを持つ方が多い。それに慣れてしまっているからな」


エルヴァンはそう返し、少し力を込めて亜人の男の大剣を弾くと、


「故に私は、私が知らない剣技を見てみたいのだ。…本気を見せてくれ」


そう言って大剣を片手で握る。

その光景を見たアンリは、エルヴァンが疑似的にデュラハンとしての戦いをするつもりなのだと察し、自身には無い力と技の光景を目に焼き付けようと目を見開く。

そして、エルヴァンにそう言われてしまった亜人の男はエルヴァンのそんな真剣な声と気迫に一度大きく深呼吸をすると、


「よそ者だと思って手加減をしていたが、ここまで言われたらジークの長としての名が廃るッッ!!我が名はセンジン・ムソウッ!我が愛刀の錆にしてくれるッッ!」


そう名乗り、先程とは違った身を引く構えて大剣も地面に付いてしまうのではないかというくらい低く構える。

そして、


「獣技・刹那」

「ッ!」


先程とは打って変わった移動速度に、エルヴァンは片足を後ろに引いて間合いを広げ迫り来るセンジン・ムソウの大剣と自身の体の間に大剣を滑り込ませて攻撃を防ぐ。

しかし、攻撃をされてエルヴァンが握っていた大剣からセンジン・ムソウの大剣の重さが引いたと思うと、既にエルヴァンの目の前から消えており、エルヴァンの背後を取っていた。

移動の速さにエルヴァンは驚きつつも、本能的に背後から迫ってくる攻撃を躱す。

エルヴァンはセンジン・ムソウの動きに驚きつつも、持ち前の戦闘で培ってきた勘と技術で彼の攻撃を避ける。

それを見ていたアンリは、彼が監視対象のセンジン・ムソウだという事を知った事に驚きつつも、それより遥かに驚愕したのはセンジン・ムソウがもう少しでエルヴァンに攻撃を当てられるかもしれない程、彼の攻撃が鋭い事だ。

塔の世界で剣を扱う者は数人いるが、その中でも群を抜いているのは主のヴァルダを除いてはエルヴァンだけだ。

しかしヴァルダ曰く、


「俺の戦闘スタイルは、騎士のスキルと通常攻撃のタイミングを合わせた技だ。偽物と言ってもいい。しかしエルヴァンは、単純に剣の技を磨いた技術だ。俺とエルヴァンが剣だけの戦いをしたら、絶対に負ける」


と言う程、エルヴァンの戦闘の技術は卓越したものなのだ。

そんなエルヴァンに当てられずとも、ギリギリまで追いつめてくセンジン・ムソウにアンリは少し危機感を感じる。

しかし、


「鋭い良い太刀筋だ。鍛練だけで到達したのだとしたら、尊敬に値する」


エルヴァンは何故かそう声を出すと、自身の左下から迫ってくる剣筋に握っている大剣を滑り込ませてそれを防ぐと、


「行くぞ」


そう一言。

その瞬間、センジン・ムソウは咄嗟に大剣を自身の体の前に構えて防御の姿勢を取る。

そして襲ってくるのは、今まで受けたことが無い程の重い一撃。

今まで様々な相手と戦ってきた、あの剣聖とも剣を交えた。

それでも味わった事が無い重さに、大剣を構え支えていた腕の骨が悲鳴を上げるのを感じた。

だが、それだけ終わるはずもなく、次々に加えられる攻撃にセンジン・ムソウは苦痛の表情で抑え込む。


「若…」


センジン・ムソウの側にいた女性も、今までセンジン・ムソウが戦ってきた姿を見たが、ここまで彼が表情を曇らせ一方的に攻撃をされている姿を見たのは初めてだ。

そしてそんな光景に、周りで見物していた亜人達も少し緊張しながらその光景を見ていた。

このまま戦いを続けられたら、自分達の主と言ってもいい彼を失う事になるかもしれない。

しかし、あの強靭な一撃に近づく事が出来ない。

そしてその攻撃の嵐に晒されているセンジン・ムソウは、腕の感覚が無くなってきた事に気が付き、


『業物のこの剣じゃなかったら、既に細切れになっていたな…』


そんな事を考え始めていた。

祖父から受け継いだこの大剣、今握っていたのが普通の剣だったなら既に砕けていただろう。


『良いかセンジン?この剣は俺の戦友と交換した大切な剣だ。大事に扱ってくれ。そして……、この剣を創った奴の関係者がいたら伝えてくれ。会えなくて、残念だったと……」


自身が握っている大剣を譲ってくれた祖父の言葉を思い出し、センジン・ムソウは苦痛で歪めた口から、


「まだ死ねない。彼に…ヴァルダ・ビステルに爺ちゃんの言葉を伝えないと」


そう呟いた。


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