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エルヴァンのそんな指摘に亜人の男は少し呆然とした後、
「ユキッ!」
唐突に声を張り上げると、男の側に亜人の女性が駆け寄って耳打ちを始め、
「ここに来た理由を言え!」
簡潔にそう言い放つ。
それを聞いたエルヴァンとアンリは互いに見つめ合い、
「僕達は観光に来ただけですよ!今まで、貿易などの関係を拒んでいたジークに行ける様になったんです!観光しに来ても良いじゃないですか!」
アンリが少し苦しい嘘の理由を言う。
すると、アンリの言葉を聞いたユキと呼ばれた女性がまた亜人の男にコソコソと耳打ちをする。
それを聞いた男はふむふむと頷くと、
「そ、そのような言い訳通じるものか!?俺達の監視が目論見でッ……ん?目的?なるほどそうか。俺達の監視が目的だろうッ?!」
少し言い回しを変えてエルヴァン達にそう言ってきた。
言葉は少し変な所があるか、変に勘の良い男だった。
正確にはセンジン・ムソウという男の監視を任されたが、監視をするという目的なのは当たっている。
エルヴァンはそう思いながら、
「私達が監視する必要があると言うのか?すまないが、私達はこれから今日泊まる宿を探さなければならない。失礼させてもらう」
亜人の男にそう言って踵を返すと、
「未だ話は終わとはおらぬ!大男、貴様を拝見してはっきりと分かる。お主、相当の手練れであろ?ジークの治安維持と云ふ名眼にて帝都から参った剣聖と同じ気を感じる」
エルヴァンが背負っている大剣とさほど大きさが変わらない大剣を持っているにもかかわらず、亜人の男はそんな事を言いながらエルヴァン達の後ろから跳んで2人の前に降り立つ。
亜人の男の言葉を聞いたエルヴァンは少し気になる単語が聞こえ、
「剣聖だと?」
少し高揚した声を出してしまう。
その言葉を聞いたアンリは、エルヴァンの意識が剣聖に興味を示した事に気づき状況によっては大変な事になるかもしれないと察する。
そんなアンリの心配の通り、
「その剣聖という男は強いのか?」
エルヴァンが剣聖に興味を示し始めた。
今までの興味が無さそうな反応とは違う興味深そうな反応が分かった亜人の男は、
「俺の聞いた話ならば、帝都の騎士団の長の龍人の女よりも剣の腕は天下無双と聞いておるぞ」
自分が聞いた情報を教えて、エルヴァンの気を誘おうとする。
それに気づいたアンリは、
「エ、エルヴァン様!駄目ですよ堪えて下さい!エルヴァン様のお気持ちは分かりますが、こんな自分達以外の人が怪しんでいる状態で騒動を起こすのは良くない事です!」
そう言ってエルヴァンの前に立ち塞がって声を出すと、流石のエルヴァンも頭を冷やして冷静になる。
「そ、その通りだ。すまないアンリ。少し頭に血が上ってしまっていた。アンリの言う通り、今問題を起こす訳にはいかないな」
アンリにそう謝るエルヴァンの言葉を聞いて、どうやって頭に血が上るんだろうと考えてしまったアンリだったが、エルヴァンが落ち着いてくれた事に安堵し、
「その通りです!相手がどんな人であれ、挑発に乗ってしまうのは良くないです!」
エルヴァンに再三注意の言葉を言う。
しかし、そんなエルヴァンとアンリの様子を窺い話していた事を聞いていた亜人の男とその側に仕える様に立っていた亜人の女性は少し顔を見合わせた後、
「小童ッ!男と男の話に割って入るなど言語道断ッ!子供なら子供らしく蹴鞠でもしていろッ!」
亜人の男がアンリにそう言った。
その言葉を聞いた瞬間、
「僕は子供じゃないですッ!子供っぽいのは否定できませんが、僕はここの誰よりも年上です!」
まさかのアンリが、も~ッと言う様に不満な声を出す。
そんなアンリの言葉を聞いた亜人の男も側にいた女性も、周りで何事かと余所余所しくエルヴァン達を見ていたジークの人々も、アンリの言葉を聞いて再度彼の姿を見た後、
「あっはっはっははははっっ!」
「うふふふ」
「……クスクスクス」
盛大に笑い声が辺りを支配した。
その声にアンリは頬を膨らませて怒りを表現すると、
「エルヴァン様!もうこんな人達の事なんて知りません!戦っても良いです!」
まさかの先程まで止めていたエルヴァンに、戦いの許可をしてしまう程だった。
しかしアンリに説得されたエルヴァンは少し困惑しながらも、
「お、落ち着けアンリ。アンリも言っただろう?あまり目立つ様な事はするべきではないと…」
そう説得をしようと試みるのだが…。
「エルヴァン様がやらないなら、僕が魔法で一網打尽にしてやります!」
すでにアンリは魔法の準備に取り掛かろうとし始め、
「わ、分かったアンリ。だから、落ち着いてくれ」
エルヴァンは慌ててアンリに落ち着く様にそう言うと、
「それなら分かりました。とりあえず我慢します」
アンリは魔法を一度キャンセルする。
それをしっかりと確認したエルヴァンは一歩前に出ると、
「すまないが、私の友を侮辱したのは許せん。他にも理由はあるが……。それよりもそんな大剣を持っているのだ、剣の腕に自信はあるのだろう?」
そう亜人の男に話を切り出す。
その言葉を聞いた亜人の男はエルヴァンの言葉を聞いてニヤッと笑うと、
「当たり前よぉ!俺の一族は皆強いが、その中でも俺が最強だ!」
自信満々にそう言った。
それを聞いたエルヴァンは背負っている大剣を抜いて鞘ごと構え、
「では一勝負しようではないか。私も強き者との戦いは好きだ。その為に生きていると言っても過言では無い」
そう言った。
それを聞いた亜人の男は、
「その話乗った!ただし、俺が勝ったらお前等の持っている情報を洗いざらい話してもらうからなッ!」
そう言って大剣を片手で構える。
そんな様子に側にいた女性はため息を吐いて後ろに下がり、周りでエルヴァン達の見物をしていた者達は一斉に距離を取る。
まるで、今までもこのような事があり慣れている様だった。
そして、周りの者が完全に安全な場所まで遠ざかった瞬間、
「獣技・獣道ッ!」
亜人の男が聞いた事が無い技を繰り出し一瞬でエルヴァンとの距離を縮めてきた!
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